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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル15



 劉弦月は、さして警戒する様子もなく、廊下を歩いていた。
 保健室から渡り廊下を通り、講堂に向かう。普段の学校であっても、また、現在の特殊な状況であっても、いささか図々しいほどに堂々とした歩みだった。
 あと少しで、講堂の入り口。一つ角を曲がれば、と。そこまで近づいたところで、弦月は壁に張り付いた。
 講堂の入り口には、装甲服をまとった兵士が二人立っている。
「――正面からっちゅうのは、図々しいかなぁ」
 小さく呟きながら、青竜刀を手に持つ。そして、反対の手には、符を一枚持った。
 兵士たちの後ろの扉は閉まっている。
 しばらく考えた後、弦月は音もなく物陰から滑り出した。
「FREEZE!」
 誰何の声は予想通りだった。
 弦月が天香の制服を羽織っているからというのも理由の一つだろうか? 兵士は、銃を構えただけで、撃とうとはしなかった。
「遅いわ」
 身を沈め、前に出ながら青竜刀を振るう。
 距離がありすぎる。
 だが、兵士は身体を二つに折った。両方の兵士とも、ほぼ同時だった。
 倒れた兵士二人に、符を貼り付けると、弦月は目を細めた。そして、息をつめると、講堂の扉に耳をつけ、中の様子を窺う。
 よくは、聞こえなかった。だが、少なくとも、扉に近づいてくる気配はない。
「防音、ええんやなぁ」
 にんまりと笑みを浮かべると、指を鳴らす。微かな音とともに、符を貼られた兵士が、ゾンビの動きで立ち上がった。
 弦月は、渡り廊下を指差す。ゆっくりと、その方向に兵士は歩き出した。
 遠ざかる背中に手を振ってから、扉に向き直る。
 中の様子に変化はない。
 もう一度、懐から符を取り出した。今度は、先ほどのものとは違い、おおざっぱなヒトガタに切り抜かれている。
 扉の前に二枚並べると、少し離れる。
 短い気合の声とともに、符は人の形を取った。先ほど立っていた兵士と、遠目には同じ姿をしている。
 弦月は、ひょいと装甲服のバイザーを跳ね上げた。中を覗き込み、苦笑を浮かべると元に戻す。
「ま、ええわ」
 小さく呟き、踵を返す。
 軽い足取りで、渡り廊下側の入り口から立ち去った。


 《秘宝の夜明け》(レリックドーン)がよこした新たな増援は、ほぼ壊滅状態だった。
 そもそもこれは、ただの日本の高等学校を制圧するという作戦だったはずだ。その程度のことは、グラビア雑誌をながめながらでも出来るようなことだったはずなのに。
 増援の段取りがある。司令官の方針とはいえ、いくらなんでも用心が過ぎるのではないか。
 ほとんどの兵士がそう考えていた。特に、増援組みの兵士のほとんどは、装甲服を着たのも無駄になるのではないかと思っていたほどだ。
 なのに。
「MEPHIST! オネガイ!」
 マリィが言い終わるか終わらないうちに、黒い疾風が飛び出した。
「キョーイチオ兄チャン!」
 黒猫が、京一の前にいた装甲服に襲いかかる。
 通信機に向かって、がなりたてる兵士の横で炎の華が咲く。
 立っている者はほとんどいない。
 たった、二人。たった二人の、それも、限りなく丸腰に近い人間相手に、《秘宝の夜明け》の部隊ともあろうものが、壊滅状態だった。
 先に校舎内に入った連中はどうなったか?
 通信機は、沈黙を返すばかりだった。
「中の様子がオカシイって言ってる」
 マリィは校舎を指差した。
 木刀をかまえたまま、京一は小さく頷いた。
「――分隊との通信が途切れてるって。オ兄チャン――知ってる?」
「んにゃ。……どっちだ」
 京一は口中で呟いた。
 数少ない兵士たちは、通信機に取り付く兵士を守るようにして立っている。
 マリィは足元に戻ってきた黒猫を抱き上げた。
「――Surrender to us」
 凛とした声に、銃口が動いた。ほんの少し。
「勝負はついてるぜ。これ以上ケガ人を増やしたくなかったら、大人しく帰れ」
 動揺の気配が、揺れた。


 淡く、何かが香った。
「あや?」
 弦月は、渡り廊下の途中から、講堂の外をまわる予定だった。
 その彼の前に、人間が二人倒れていた。先ほど、符を貼って、外に送り出した兵士たちだった。
 一拍遅れて、彼は新しい符で口元を塞いだ。
「無駄よ」
 声とともに、鮮やかな赤が舞った。
「――無事でよかったわ、って、言いたいところだけど」
 天香学園生徒会書記・双樹咲重は目を細めた
「アタシの香りの中で動き回れるなんて。――アナタ、何者? それに――」
 淡い香りが、徐々に強くなる。双樹(かのじょ)は、背に持っていた香袋を顔の横に掲げた。
 弦月は両手を挙げた。
「敵の敵は味方っちゅうこって、どないや?」
「制服を着てるけど、本当にここの生徒?」
 双樹の右手が、きつく香袋を握り締める。
「もちのろん、や」
 弦月は顔をしかめた。
「そいつら」
 そう言って、倒れている兵士に顎をしゃくる。
「変やったやろ? 何の警戒もせんで歩いてきたんちゃうか?」
「――アナタがやったの?」
「はいな」
 弦月の言葉に、双樹は唇を噛んだ。
「敵の敵は、敵。でも、どうして?」
「こうゆうのは好かん」
「信じられると思って?」
「信じてほしいんやけどなぁ」
 人好きのする笑みを浮かべて、弦月は言った。次の瞬間、顔をしかめ、膝をつく。
「悪いけど、ソレ。なんとかしてくれへんか? 倒れそうや」
「余裕ね」
 それでも、双樹は香袋をさげた。そして、ポケットに収め、弦月を見下ろす。
「悪いけど、後で調べさせてもらうわ。そこで倒れていらっしゃい」
「――ねぇちゃん」
「双樹さん」
「双樹さま。一つ聞いてええか?」
「馬鹿」
 苦笑を浮かべると、双樹は弦月のわきを通り、講堂に向かう。向かいながら、携帯を取り出した。
「今から入る。時間を合わせて。そう、三分。渡り廊下に不審者を転がしてあるから、取りに来て。わかった。まかせるわ」
 通話を切ると、彼女は一度足を止めた。そして、振り返り、廊下にうずくまる弦月を見た。
「何?」
「外、どないな様子か知ってる?」
 廊下に転がったまま、弦月は尋ねた。そんな状態になってすら、彼の顔から笑みが消えることはない。
「会長がいるわ。安心して」
「そか」
「もういい? じゃあね。大人しくしててね、不審者さん」
 甘い声と、ウインクを残し、今度こそ彼女は講堂に向かった。


「下がりなさい」
 魔法のように――実際、あながち外れた形容ではないのだが――一人の女性が現れた。
 《秘宝の夜明け》(レリックドーン)が銃を構え、蓬莱寺京一が木刀をかまえる。その間に、だった。
 誰もいるはずのない場所だった。
 兵士たちに動揺が走った。秘宝をめぐり、多少の怪事の経験と知識はあるはず。にもかかわらず。
 彼女は本当に、何もない場所に現れたのだ。
「Holography?」
 一人の兵士が呟いた。
「本部に連絡を取りなさい。撤退命令が出たはずです」
 青年と少女を背にかばうようにして、黒いスーツの女性が告げた。
 先頭の兵士が、後部に手を振る。自らは銃を構えたまま、通信機に取り付いていた兵士に指示をする。
「芙蓉チャン、マジ? ソレ」