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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル17



「FREE――!」
 お決まりのセリフは、最後まで続かなかった。
 彼らが姿をあらわした瞬間、狭い空間に機関銃が弾をばらまく音が反響(こだま)する。
 双方ともに、まずは銃撃戦だ。
 結果は引き分けだった。
 《秘宝の夜明け》(レリックドーン)は、装甲服、そして、如月が銃撃戦に加わっていないがため、京也が銃の使い手としては毛も生えていない素人であるが故に。京也と如月は、地の利と、人間離れした体術故に。痛みわけといえるほどのダメージすら、お互い蒙らなかった。
 銃撃の結果を確かめることなく、京也は銃を投げ捨て、前に出た。相手の弾はまだ尽きていない。だが、姿勢を低くし、まっすぐに走る。
 防弾チョッキすら身につけていないにも関わらず、動きに迷いはない。
 短い気合の声とともに、拳が先頭の兵士の装甲服にめりこむ。そのまま、続く兵士に向かって、吹き飛ばす。
 ガン! と、重い足音とともに、さらに踏み込む。吹き飛ばした二人を無視し、奥にいた兵士に拳を突き出した。
 一人の兵士が、下がりかけた銃口を上げた。
 次の瞬間、彼は見えない糸で金縛りにでもあったかのような様子で動きを止める。そして、白目をむいて崩れ落ちた。影のように佇む如月のシャツに、暗器が姿を消していた。


 古代の遺跡を守る化人。
 そして、彼ら――京也と如月を待ち受ける《秘宝の夜明け》(レリックドーン)の兵士たち。
 時には扉を開けた瞬間。
 時には、闇の奥から。
 時には頭上から。
 様々なタイミングで襲い来る「敵」
 どれもこれも、ほんの数分だった。
 対して、京也と如月側には、毛一筋ほどの被害もない。あえて言うならば、白い顔に浮かぶ玉の汗くらいだった。
 それも、戦いのためではない。
 区画の気温が尋常でなく高いためだった。たとえ、化人や兵士たちが来なくとも、何ら変わることはないだろう。
「少し、休憩だ」
 兵士たちのうめき声をBGMに京也は言った。そして、両の手を膝頭に置き、大きく息を吐く。
 やがて顔をあげると、口元に笑みを浮かべ、親指で区画の奥を指した。
「あの先。《秘宝の夜明け》(レリックドーン)か、はたまた墓守か。どっちかがいる可能性が高い」
 京也が指した先には、派手な扉があった。今まで、いくつか通り抜けてきたものとは、重厚さも迫力も、何もかもが違う。
 小さく舌打ちすると、京也はどっかりと座り込んだ。
「――ずいぶんと、マシになったものだ」
「ガキどもと毎日のようにはしゃぎまわってりゃな。鍛えられもするさ」
「きっかけさえあれば、ある程度までは身体が思い出すと、そういうもののようだな」
「そう。ついでに言やあ、回復力だけはあるから、日々の鍛錬で無茶が出来る。だが――持久力ばかりは、一朝一夕には戻らない」
 背筋を丸め、じっと目を閉じる。その姿は、怪我をした野生動物を思わせた。
 辺りのうめき声が、少しずつ薄れていく。京也は眉間にしわを寄せ、右手できつめに揉んだ。
「――真相かどうかはわからないんだが。おそらくは、区画の扉の開閉と、墓守。その二つが区画ごとの防衛機構を司っている気がする。どちらかの要素を抜くことが出来れば、少なくとも最終区画はパスできるような気がするんだが……」
 京也は言葉を紡いだ。目を閉じたままだが、口調だけは平静だった。
「いや、次への鍵そのものが、最終区画なのか?」
 一旦言葉を切ると、前提を否定する疑問を口に出す。いつものやり方だった。仮説、反論、反論、仮説。繰り返していくうちに、大きな円はやがて狭まり収束する。仮説や反論を立てる頭脳が、いくつかあって、なおかつ優秀であるというのはさらに都合がいい。もっとも、双方の頭の回転が違えば苛立ちだけが残される。
 そういう意味では、京也と如月は悪くないパートナーだった。前提知識の違いもまた、見落としを防ぐのに都合がいい。
「墓守を《墓》の外で捉えておけばというのは、どうだ?」
「生徒会役員相手ならば出来たはずだな。だが――。墓守が入らない限り、対応する区画の扉が開かないようだ」
「……墓守は単なる護人ではなく、鍵そのものなのか?」
「俺は、墓守の長の能力は、《鍵》を作ることだと見ている。――あくまで、推測。事実かどうかはわからない。だが、それを前提とすれば、ここの《鍵》は誰になるのか」
 京也は顔を上げ、再び扉を見た。
 推測が当たっているのかいないのか。表面に刻まれた文様は、侵入者たち(ふたり)が重ねる推理を、嘲笑っているようにも見えた。
「《鍵》のない区画は、フリーパスになると俺は思っている。ここの扉が開いて、あと一箇所になったようだ。例の、大広間にある扉だけを数えるならば」
「では、もうすぐ最奥か」
「それは――。希望的観測だろう。玄室に至る道が、全部入り口に露出してるなんてのは、ちょっと出来すぎじゃないか? ああ、忘れていた。つい先日、俺は会長が能力を発揮した場に居合わせた。それが《鍵》を作ったものなのかどうかまでは分からないが。あれが《鍵》を作った現場なら、新しく閉じた扉が出来てもいいと思うんだが、そうはなっていない」
「鍵を作る存在――墓守の長と会長が別というのは、考えられないのか?」
「少なくとも、今まで会長は墓守の長然と振る舞い、墓守たちも彼を長としているように見える。……そう。今までは、生徒会役員がすなはち《鍵》という等式が成り立っていた。残りの扉を、墓守の長――会長に割り当てると、副会長はどこの担当なんだ? もう、生徒会には副会長と会長しか残っていないはずだ」
「ここ、じゃあないのか? 副会長の担当部は」
「だが、実際に入ったのは《秘宝の夜明け》(レリックドーン) 少なくとも、俺たちより先に待ち構えているということは、扉を開けたのは奴らなのか? ならば、区画鍵イコール墓守の前提が崩れる。今までここが開いていなかったのは、確かなのだから」
「……我々が来る前に、副会長が扉を開けた可能性は? もしくは、副会長補佐というのが単なる表向きの役職名で、実際は彼が副会長である可能性もあるだろう。さらには、会長であるところの、墓守の長が区画をもっていないとも考えられる。もっと前提を崩すなら、区画と生徒会役員・執行部員の数が合っている理由はない」
「副会長補佐の担当箇所はあった。彼が二区画担当している? それは――どうだろうか。もしくは、副会長と《秘宝の夜明け》(レリックドーン)が通じている? 《鍵》の作成は、マインドコントロールを伴っているように見えたんだが。――ああ、確かに前提だ。これで執行部員が全部という保証もない。裏から閂をしておいて、この前のが《鍵》となった時点で、本当に閉まったという可能性だってある。――結局は、突撃あるのみ、か
 はは、と、乾いた笑い声を上げてから、京也は立ち上がった。
「もういいのか?」
「言ったろ? 回復力だけはある、って」
 先ほど投げ捨てた銃を拾うと、身につけなおす。
「さて、待っているのは本当に《秘宝の夜明け》(レリックドーン)か。はたまたまだ見ぬ墓守か。とうに通り過ぎた足跡だけか」
 京也は扉に近づいた。そして、ぐっと押し開ける。
「――開く、か。少なくとも、墓守単体ではない――」