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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル19



「アラハバキ。自らを地下で眠るものだと言った想念は、神鳳の口をかりて、そう名乗ったそうだ。名乗ったという状況が、神鳳の芝居でないという仮定に基づけば、ここの地下に眠る存在というのは、自らをそう定義しているらしい」
 人数の減った保健室で、瑞麗は静かに語った。
「神鳳ってのは、生徒会会計だったか。――名乗った「そうだ」というのは?」
「私は直接見たわけではない。御子神と夕薙が語ったのを聞いた。夕薙大和というのは、御子神京也の同級生で、彼自身にもかなり問題があるのだが《墓》の件とは関係がないと思われる。割愛しよう」
 瑞麗の言葉に、村雨は目を細めた。暫しの後、小さな動作で頷く。
「本当に関係がないかどうかはともかく、先を聞こう。京也とその、夕薙とかが組んで偽の情報を流したという可能性はないのか?」
「おそらくないだろう。打ち合わせの時間がなかったとは言わないが、そう、手の込んだ芝居のできるような状況ではなかった」
「――荒吐神、か」
 無精ひげを撫でながら、村雨は唸った。
「客人神――まつろわぬ存在(もの)、記紀、風土記には登場せず、東北地方を中心に、神社が点在――」
 ゆっくりと、如月はキーワードを連ね、眉を寄せる。
「《墓》の年代測定は出来ているのか?」
「ああ。――いわゆる、オーパーツといった代物だな。表面の方は、この学園ができてからも、何度も改修が入っているようだ。だが、内部――それも、深部の方になると――恐竜の時代よりはマシな数値が出てくるといった程度だ。ロゼッタ協会の方の調査結果は聞いていないか?」
「邪馬台国の時代の遺跡だという話らしい。ただしこれは、比較的浅い場所での測定だそうだ」
 如月の簡潔な答えに頷くと、瑞麗は二人を順に見た。
「動力室の領域(エリア)を見たか?」
「いや、俺は中には入っちゃいない」
「おそらくは、入っていないと思う。京也は新しい領域(エリア)だと言っていた」
「そうか。――あそこは、すごいぞ。まるで、SF映画の秘密基地だ」
 眉を寄せ、ため息をつく。
「冗談だろ? と、言いたいところだが」
 笑いを含んだ声でつけくわえられた形容に、村雨は天井を仰いだ。その姿を見、如月もまた首を横に振る。
「――ギリシアやインダスの文明よりは新しそうだな」
「キリストの生誕前後数百年を新しいというならば、だな」
 瑞麗の言葉に、村雨と如月は大きくため息をついた。
「できれば、天孫降臨だの、ノアの洪水だの、フレイフレイアだの、女神エウロパなんてヨタ話とは無関係でいたかったぜ」
「ロゼッタ協会が出てきた時点で、それは無理だ」
「ああ、わかってるさ。かごめ紋と清明桔梗だって、見るやつが見れば、橋の定理の証明だ」
 がりがりと頭をかき回し、村雨は言った。
「つまり、あれだ。ホントかどうか……っつー言い方も何だが、文献に出てくる荒吐神と同一存在かどうかはわからねぇが、《墓》に祀られてるのは、荒吐神本人――カミサマに本人っつっていいのかねぇ――である、と。そして、ヤツの目的は何だ? 世界征服か?」
「――復讐、と。本来ならば自分のものであったものを取り返すと言っていた」
 投げやりとも言える村雨の言葉に、ゆっくりと瑞麗は答えた。その答えに、村雨と如月は、ほんの一瞬目を見開き、各々、再度のため息をつく。
「狂える神ってやつか?」
「言葉を喋ったのなら、狂えるという程じゃあないだろう。実際、八百万の神々は、必ずしも人の味方というわけではない」
「ったく、水に流すっつー日本人の美徳をわきまえてるヤツはいないのかね」
「美徳かどうかは知らないが、そうではない存在だからこそ、封印されているのではないか?」
 煙管を弄びながら、瑞麗は言った。その姿に、村雨は、ポケットから煙草の箱を取り出して示す。首を横に振られ、肩をすくめると、再びもとの場所に戻した。
「千年も祀られてりゃ、いいかげんカミサマになりやがれってんだ」
「――荒吐神」
「俺が悪かった」
 如月が宙に書いた文字に、村雨は頭を下げた。
「この場合は、あれか。慈悲に溢れた仏様になってくれ、と。そう言うべきか」
「浪漫溢れる古代史の世界から、随分と生臭い話になるが――旧日本帝国軍や、第三帝国の遺産といった可能性はないのか?」
 村雨の訂正には耳を貸さず、如月は瑞麗に尋ねる。
「ロゼッタ協会の方ではどう言っている?」
 問いが問いで返され、如月は微かに眉を寄せた。そして、ゆっくりと自らの意見であることを強調し、推測を口にする。
「僕は聞いていない。ただ、ロゼッタ協会がハンタを派遣したということは、そういったたかのしれた話ではないのではないかと思っている」
「内部総てをくまなく調査はしていないが、鉤十字や日の丸は見ていない」
 如月の言葉に、瑞麗は頷き、言った。
「まぁ、そんなのを見かけりゃ、センセイがあんたに報告してるだろ」
 その二人のやりとりに、村雨もまた賛成の意を表す。
「極秘ならば、探すのに苦労することもありうるが――。このあたりは、もう少し事件が落ち着いてから、事後処理として行うべきことか」
「そういうことだな。今から、はけとルーペをもってコッソリ《墓》にもぐってるヒマはねぇ」
「――今からは無理だとしても――」
 如月は眉を寄せた。
「《墓守》が封印を守る一族であるというのが確かならば、手を結ぶべき――か?」
 目を伏せ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「中心地をもっとも良く知り、もっとも近い連中といえば、まぁ護人だわな、たしかに」
 その言葉に、村雨もまた頷いた。
「僕(ひすい)とおまえ(あきづき)は、黄龍の器に関する知識がある。だが《墓》については、大したことを知らない。そして《墓守》は――」
「残念ながら、《生徒会》の方針は侵入者の全排除だ」
 瑞麗の言葉に、村雨はゆっくりと首を横に振った。
「そりゃあ、封印が堅固(しっかりしてる)っつー前提だろう。M+M機関(アンタ)の調査によれば、今年の九月から、封印の状態は悪化の一途。今じゃ、内部の存在(もの)が能力者の力を借りてとはいえ、意思を表出させてきたっつー状態なんだろ? いわゆる、非常時ってやつじゃねぇか。どうだ。その、阿門家嫡子ってのは話が通じそうなやつなのか?」
「――そうだな」
 村雨の言葉に、瑞麗は眉を寄せた。
「確かに、頭はかたい。やりかたや視野に不安はあるが――年齢を考えるならば、そう、むしろ頑張っているというべきか――。ああ、もっとも、彼自身が本当に十七・十八なのかというのまではわからない」
 M+M機関エージェントというよりは、保険医の顔で、瑞麗は言葉を選んだ。
「別系にはなるが、さらに強固な封印を上からかけることができるといって、のってくるか? もしくは――その、封印の対象を屠ることが出来るといって――」
「後者については、おそらく不可能だと思っているのではないかと思われる。だからこその、集団記憶喪失事件だろう。前者については――」
 瑞麗は顔を挙げ、苦笑を浮かべた。
「君達がムー大陸をヨタ話と思うのと同等に、秋月も飛水もM+M機関(うち)も、彼にとってみれば、どこかの小説のネタがいいとこだ」
「――これだから孤立した護人は」