二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

INDEX|51ページ/79ページ|

次のページ前のページ
 

アダルト―AccessViolation―



 いつものように、御子神京也と皆守甲太郎は《墓》に降り立った。京也が定位置においてあるランタンを手に取り、皆守に無言で手を出すのも同じだった。
 てのひらに乗せられた百円ライタでランタンに火を入れると、ライタごと皆守に渡す。さらに、手に持っていたものを足元に置いて、軽くストレッチを行った。
 いつもどおりの様子を、皆守は黙って見守った。
 一通り身体をほぐすと、足元においたものを拾い上げる。携帯端末(H・A・N・T)をジーンズにつっこんでみる姿を見て、皆守はやっと笑った。
「いくらなんでも、無理だろ、それは」
「ううん、やっぱりコート必要でしたかねぇ」
 情けない格好はそのままに、京也は、黄金の剣をベルトに差した。そして、両手を離したり、かるくつついたりしながら、様子を見る。とりあえずの安定を確かめると、一つ頷き、軍手をはめたままの手を打ち合わせる。
「リュックとか、そういうのなしってのが図々しいんだよ。その荷物で」
「そりゃあ、皆守クンはてぶらだしぃ?」
 わざとらしい口調で言いながら、京也は軍手を外し、まるめるとジーンズのポケットにつっこんだ。
「ほら、もう入りそうにない」
 軍手だけで大きく膨らんだポケットを、パイプで差しながら、皆守はさらに笑う。
「うるさい」
 京也は、わざとらしいくらいにふくれてみせた。そんなおどけた仕草を見せながらも、何度か拳を握り、てのひらの具合を確かめた。
 暫し目を伏せた。
 そして、目を開き、この部屋の中央を見る。
 視線の先には、大きな円が描かれていた。どういう技術を用いたか、均等に分割された円のそれぞれの部分には、各々違った印(シンボル)が描かれている。
「――おや」
 今までの例を考えると、どれかの印(シンボル)が白光を放っているはずだった。
 だが。
「確か、一つは残っていたと思っていたんですが……」
 それとも、開いていない? 京也は口中でそう呟いて眉を寄せる。
 大広間は静まり返っていた。千年の昔からこうだったと言いたげに、光源のない大広間は静かだった。
「行くか?」
 動く様子を見せない京也に、皆守は尋ねた。
 京也は皆守に手を差し出し、ランタンを受け取る。掲げると、もう一度、部屋の中心を見た。
 細かなところを見るには、距離がありすぎる。だが、少なくとも、白光を発している印(シンボル)がないのだけは確かなように思えた。
 もう一度、ランタンを皆守に返す。
「行きましょう」
 傍らの皆守を見ることなく、京也は言った。
「――ああ」
 少し遅れて、くぐもった声が答えた。
 そして、ゆっくりとした足取りで、部屋の中心に向かって足を踏み出す。
 あとほんの数歩で円に足を踏み入れることとなる。異変は、その時起こった。
「――!」
 遺跡が揺れる。
 京也は目を細めた。
 目線の先では、印が次々に発光しはじめていた。最初に足を踏み入れた領域(エリア)を示すものから順に、一つずつ、印(シンボル)が命を得て輝き始める。
「ラスト」
 小さく呟くと同時に、今まで一度も目覚めたことのなかった印(シンボル)が目を覚ます。
 印(シンボル)にそって、円の中心部が光を放った。
「――」
 小さく京也の口が動く。
 皆守はパイプを下ろした。
 白光が新たに出来た円のラインに収束する。
「扉が開いたっていうには、手荒だな――」
 皆守の言葉に、京也は頷いた。
 白光にそって、床が崩れ始める。
 床が、丁度その部分だけ陥没し、新たな入り口を作る。
 そして。
 それは、始まったときと同じくらい唐突に終了し(おわっ)た。
 大広間全体を震わせていた振動が収まり、白光が消える。
 消えてもなお、しばらくの間、彼らは動こうとしなかった。
「――御子神」
 皆守の声に、京也はゆっくりと頷いた。そして、口元にいつもの胡散臭い笑みを蓄える。
「再利用不可って、地球に厳しい構造ですね」
「おまえな……」
 わざとらしいため息を聞かせる皆守に対し、ひらひらと手を振ってみせる。
「行きますか。……他にできることもなさそうですし」
「ああ」
 一度止めた足を、再び動かす。目的地までは、すぐだった。


「――こんな場所があったとはな」
 顔をしかめ、てのひらの具合を確かめながら皆守は言った。
 小石を投げ込んで計った穴の底は、一息に降りるというには厳しい深さだった。
「いやぁ、どうやって上がりましょ」
 大広間近くの部屋においてあったロープを使いはしたものの、ラスト二メートル強、長さが足りなかったくらいだ。
 ロープを降りるのに使った軍手を、もう一度ポケットにつっこみながら京也は肩をすくめる。
「かたぐるまでもして、頑張るしかないだろうな」
 皆守の言葉に、京也は声をあげて笑う。そして、辺りを見回した。
 学校の体育館を思わせる広さの空間だった。今まで、生徒会執行部、役員たちが待ち受けていた部屋と同じくらいだ。
 ただ、部屋の壁は見えない。地平線が見えているわけではない。炎に囲まれているのだ。
 燃え盛る炎が壁を為し、部屋を形作っている。
 もっとも、部屋そのものの暑さはといえば、《秘宝の夜明け》(レリックドーン)を追って入った領域(エリア)に比べれば、大したことはない。丁度、春先の心地良い気温が保たれていた。
 京也は、炎の壁にそっと手を伸ばした。
「御子神?」
「やめておきますか。――皆守クン?」
 皆守は、着てきたコートを脱いでいた。そして、床に置く。
「置いてくんですか?」
「ああ。ロープを取ってきたときに、おいてくるんだったな」
 京也はジーンズのウエスト部分につっこんだ携帯端末(H・A・N・T)を見た。
「さすがにそれは無理だろ」
「ううん、ないと困るだろうなぁ」
 言うと、ポケットにつっこんだ軍手を引き抜き、皆守のコートの上に放る。
「無理に置いてかなくてもいいんだぞ」
「いや、そういうわけでは。――行きますか」
 京也の目は、部屋の隅にある獣のあばら骨を思わせる梯子を捕えていた。他には、扉や何かは見えない。もしかしたら、この炎の壁が消えるか何かするのかもしれない。だが、その手がかりは、立ち止まって見回しただけでは、ないように思えた。
「そうだな。ああ、ちょっと待ってくれ。――アロマを――」
「そんなん、いつもみたいに歩きながらで」
 皆守は、歩き出す代わりに京也に呼びかけた。
「御子神」
 ライタに火がつく。その音が、やけに大きく響いた。
 京也は、歩き出そうとした足を止めた。
「――どうしても、行くのか?」
 京也は口元に笑みを形作った。そして、肯定の返事を返そうと口を開きかけ、閉じた。
 新しいアロマの新鮮な香りが、古い空気に混じる。
 皆守が、深く息を吐く。そして、目を細めた。
「今ならまだ間に合う」
 向けられた柔らかな笑みを、ぶあつく下ろした前髪の下から、京也はまっすぐに見返した。
「何に、ですか?」
「勿論」
「勿論?」
 京也と向き合うことに耐えられなくなったかのように、皆守は顔を伏せた。
 それは初め、嗚咽のように聞こえた。
 だが、すぐにわかる。
 笑い声だった。
 微かな笑い声だった。少しずつ大きくなった。
 再び、皆守は顔を上げた。