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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル22



 村雨祇孔が、両手に花とばかりに、高見沢舞子と藤咲亜里沙を伴って北区某所――汀京也退院祝い兼新年会会場についた時、主会場(メインステージ)ともいうべき居間には、誰もいなかった。
 一応は声をかけてから入ってきたはずなのだが、家主すらいない。ストーブは出されていたが、いささか肌寒さすら感じるほどの『祭りの後』だった。
 確かに彼らは、開始された時刻より二時間ほど遅れてやってきている。とはいえ、未だ夕刻だ。あっという間に暗くなる冬の日ではあるものの、まだ街灯はついていない。おひらきというには、早すぎるのではないだろうか。
 いや、そんなことよりも。ここは本当に「如月宅の居間」だろうか?
 藤咲や舞子はともかく、村雨にしてみれば、見慣れた場所のはずだった。だが。いや、だからこそとでも言うべきか。外に出て表札を確認したくなるほどに、様相が変わっていた。
 如月宅で居間といえば、六畳ほどのスペースだ。きれいに掃き清められた、江戸間の畳じきの部屋で、中央にはちゃぶ台、もしくはコタツがある。床の間には、いつも季節の花か香炉あたりが飾られ、さりげない四季の移り変わりが演出されている。日々けしてとぎれることのないそれは、男所帯に似合わぬ細やかさだ。
 もっとも、現在はその隣に文机があり、黒いキューブ型のパソコンがあり、季節を演出していた小さな空間には、アンバランスという名の生活臭が漂いはじめていた。さすがに、香炉のかわりにプリンタがおかれたりはしないのだが、ごく普通に同時に視界に入ってしまう以上、風流というには辛いところだ。
 現在は、まず、そのパソコン一式がない。床の間にも何もない。掛け軸すらない。かろうじて、部屋の反対にあるテレビだけはいつもどおりだった。さらには、襖がとりはらわれ、一部廊下に畳がはめこまれていることで、部屋の面積が二倍以上に拡大している。東京都の住宅とは思えないほどに広くなったそこは、たとえて言うならば、どこかの温泉の宴会場だった。
 蔵の奥底からひっぱりだしてきたと思われる、広大なテーブルが、いつものちゃぶ台とならんで部屋の真ん中に居所を定めている。その上には、所狭しと、大皿やビール瓶、とっくりやコップが並んでいた。床にまとめられた酒瓶の本数を数えるに、できあがっている人間は一人二人ではないと、容易に推測される。
 だが、マグロは一匹も転がっていなかった。
「何だこりゃあ……」
「外、みたいね」
 あきれかえった様子の村雨の言葉に、藤咲が閉められた障子の向こうを指した。
「の、ようだな」
 聞こえてくる、まるで小学生みたいな歓声に、村雨は苦笑をもらした。
「楽しそう。なにしてるのかなぁ」
「ヤだよ。障子開けた瞬間、京一とアランの野球拳なんてのは」
「ドッペル紫暮がラインダンスしてるよかいいだろ」
「ああ、あったわねぇ、そんなことも」
「あったのかよ、ホントに!」
 しみじみと目を細める藤咲に、自分で言い出したことにもかかわらず、村雨は目を見開いた。
「うん、なつかしいなぁ」
「……それって、卒業祝いんときの話だよな」
 うっとりと目を細める舞子を見ながら、村雨はがりがりと頭をかきまわした。最近こそ機会は減っている。とはいえ、ここに仲間が集ったのは、一度や二度ではない。だが、現在のように、襖をとっぱらい、模様替えを敢行してまでというのは、後にも先にも一度だけだった。村雨の言う『卒業祝いのとき』がそれだった。
「そうだよぉ。村雨くん、いたよねぇ」
「いや、確かにいたが。俺がいたときは、そこまでできあがっちゃあいなかったぞ……」
 三日間続いた大宴会。さすがに、全日参加した人間は、一人しかいない。家主すら中座した時間があるというそれは、参加した時間の違いで、メンツも違えばテンションも違う。村雨が顔を出した時間に比べ、藤咲と舞子は、ずいぶんと「できあがった」時間に参加していたらしい。村雨の記憶にある、さまざまなできごとをふりかえるしんみりとした雰囲気とは、程遠い発言だった。
「ねぇ、行こうよ。私たちも」
 頭をかかえる村雨に、舞子が笑いかけた。藤咲もまた、その提案に大きくうなずく。
「そうね。ここであれこれ言っててもしょうがないし」
 彼女たちが頷きあったところで、台所から、大皿と何本かのビール瓶を抱えた家主が登場した。
「やぁ、いらっしゃい。久しぶりだね、藤咲さんも高見沢さんも」
 穏やかな微笑を浮かべる彼に対し、彼女らは口々に久しぶりの声をかけた。
 ここしばらく、諸般の事情で洋装ばかりだった如月は、今日は濃緑の着物姿だった。白いたすきも凛々しいその姿は、やはり彼はこうだろうと親しい人間を頷かせるに相応しく、しっくりと似合っていた。
 瞬間、外からひときわ大きな歓声が聞こえた。
 如月は、テーブルの上をあけて、持ってきた大皿をおきながら、顔をしかめた。
「後で、近所に謝りに行かなくてはならないな」
 一応、昨日の時点で一通り挨拶だけはしてきたんだが、と。呟く家主に、藤咲が尋ねた。
「大騒ぎだねぇ。どれくらい来たんだい?」
「後で、霧島とさやか嬢が少しだけ顔を出すといっていた。間に合うといいんだが。残念がっていたのは、醍醐と黒崎、赤井の三人か。それ以外は――全員」
「すごいねぇ。卒業祝いのときだって、そんなには一度に揃わなかっただろう?」
「全く。急だったわりには、良く揃ったものだ」
「京也の人徳ってヤツ?」
「時期だろ」
「ひっどおい、村雨クン」
 口々に明るい笑い声をあげる女性陣に、村雨は肩をすくめる。
「なぁ、家主。――俺としちゃあ、コートをあまりここに置きたくないんだが」
 外から聞こえてくる歓声の賑やかさに、村雨は自らのコートをつまんで言った。
「賢明な判断だな。藤咲さん、高見沢さん。寒いというのでなければ、預かろう」
 歓声だけならばともかく、どうも剣戟の音と思える物騒な音までもが聞こえてくる。如月は大きく頷き、藤咲と舞子に手を差し出した。
「ああ、頼むよ。舞子、あの分だと早めに脱いでおくほうが良さそうだ」
「みんな、なにやってるんだろう」
 自らの黒いファーコートと、舞子の白のコート。二つまとめて、藤咲は如月に手渡す。如月は、黒革のコートを脱いだところの村雨に、そのまま渡した。
「――この流れだと、普通家主があずかってくれるというやつじゃないのか?」
 村雨は、丁寧にコートを抱えると、大げさに嘆息した。
「相変わらずだねぇ、アンタら」
「立ってる者は、親でも使えってな」
 揶揄しているとも、楽しそうとも聞こえる藤咲の言葉に、村雨は器用に片目をつぶって見せた。
「客間にハンガーが用意してある」
 如月の指示に頷くと、部屋を横切り、さらに家の奥に向かう。
 村雨が、宴会場――もとい居間から姿を消したところで、危ないの悲鳴とともに、今まで以上の爆音が響いた。
 さすがに、慣れた表情をしていた如月も顔色を変え、縁側に向かう。藤咲と舞子もまた、顔を見合わせるとその後を追った。
 家主が大きく障子を開け放つ。
「うわ」
 その後ろから顔を出し、藤咲は息を呑んだ。さらに後ろからのぞきこむ舞子もまた、口元に両手を引き寄せ、言葉を失っている。