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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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ジュブナイル23



 昼間から始まった宴会は、集まりとは逆に、少しずつ人を減らした。
 最後まで残っていた人間が、後片付けの手伝いを終えて暇を告げる頃には、そろそろ他人に電話をかけるのは遠慮するべきかといった時刻だった。もっとも、暇を告げた人間すべてが素直に帰ったかというと、そういうわけではない。最後まで残っていた人間のかなりの人数は、二次会と称し、河岸を変えたにすぎなかった。その証拠に、ここが現在の自宅である汀京也も、いっしょにいなくなっている。
 結局のところ、そろそろ日が変わろうとしている如月宅の居間にいるのは、家主の如月翡翠、村雨祇孔、壬生紅葉の三人だった。
 最後の一時間ほどで、手分けして後片付けをしたおかげもあり、宴会場と化していた居間は、すっきりと片付いている。もっとも、いつもの場所にパソコンは戻ってきていないし、襖も開け放たれたままだ。完全に片づけが終わったわけではない。
 いつもより広く、いつもより物のないそこは、ずいぶんとがらんとして見えた。
 本来ならばコタツがあるべき位置のあたりに座り、三人は家主の入れた茶を飲んでいた。
「――全く、ひどい目にあいましたよ村雨さん」
「まぁまぁ。しっかし、皆変わってねぇなぁ」
「たかが六年――というところか」
 湯飲みをおいて、如月は姿勢を正した。
 『さて』と同時に、村雨と壬生もまた表情をひきしめる。
「主な後始末の方は、松の内までには終わりそうだな」
「ああ。冬休みに、生徒たちを返したおかげで、式による調査がずいぶんと楽になった。――阿門家の当主が倒れてくれたというのも、大きい」
「火事場泥棒みたいな言い方ですね」
「ま、向こうにしてみりゃそんなもんだろ。いきなり出てきて、秋月だの何だの。怪我人にゃあ辛いだろうな」
 壬生の言葉を軽くいなし、肩をすくめる。
「彼女らを迎えに行く前に、保健の先生から電話があった。そろそろ、顔を出せとよ」
「そうだな。明日か明後日にでも、行ってみることにしよう」
「結局のところ、この後《墓》はどうするのですか?」
「埋め戻したいのは山々なんだがなぁ」
 そう言って、村雨は嘆息した。
「なにせ、空間が広大すぎる。だからと言って、放っておくには――」
「危険すぎるな。ある意味、真神の旧校舎以上だ」
「少なくともあそこは、上に乗っただけで崩れるような場所ではありませんからね」
「とりあえずは、屋根もつけて、もうちっと厳重に立ち入り禁止にするってとこか。ここんとこ、何回も阿門家の当主と顔つきあわせちゃあいるんだが。学校を閉じるというわけにもなぁ。ある意味、それが一番簡単なんだが、そういうわけにもいかねぇだろ。まぁ、夏休みをめどに、埋める方向で進めていくさ」
 しかし、どこからあれだけの土砂を調達するか。小さく呟いて、村雨は首を横に振る。
「完全に陥没していないというのが、なんとも厄介な話だ」
 如月の言葉に、壬生は大きくうなずいた。
 ロゼッタ協会、《秘宝の夜明け》、M+M機関、さらには秋月に飛水までもが関係することとなったことの後始末として、彼らがもっとも頭を悩ませているのは、伝説の回収でもなければ、目撃者の特定でもない、ましてや消える寸前の蝋燭のように燃えあがる怨念を鎮めることでもなかった。
 超古代のテクノロジで作られた、広大な地下実験施設。本来ならば、入り口を厳重に封印すればいいだけの話だろう。秋月とM+M機関、場合によってはロゼッタ協会からの情報もあわせれば、少なくとも向こう十年、不心得者を排除するに十分な封印が可能だ。それは、ごく当たり前の、のろわれた場所の後始末であり、たやすいとは言わずとも、よくある作業のひとつにすぎないはずだった。
 目覚めかけた黄龍――いや、混沌の龍による、施設の破壊がなければ、だ。
 関東大震災でも一箇所として崩落を起こさなかった、オーバーテクノロジによる堅牢は地下施設は、あっという間にガタガタにされた。今の状態は、ジェンガの終盤か、はたまた、メレンゲ菓子か。海綿みたいに大小さまざまの穴のあいた施設は、崩れ落ちていないのが不思議なほどの、絶妙のバランスをもって、存在を保っていた。
 入り口をふさいだところで《墓》ごと落ちてしまえば、十分すぎるほどの大惨事だ。こういった場所にありがちな、呪いの開放だの未知の病原菌だの普通の惨劇がなかったとしても、ありあまるほどの厄介さだ。晴れの続く関東の冬だからいいものの、これが日本海側であれば、あっという間にそうなっていたに違いない。
「で、そっちはそっちとして、センセイの様子はどうだ?」
 村雨の問いに、しばらく如月は沈黙した。
「――そうだな。いつもどおりというところか」
「いつもどおり、ねぇ」
「特に落ち込む様子もなく、後遺症もないようだ。と思う」
 最後は、少し言葉が揺れた。少なくとも、村雨と如月にしてみれば、その『元気そう』というのが、いかに危ういバランスかは、わかりすぎるほどにわかっているのだ。全く問題がないと断言するには、いささか辛いところだった。
「目が潤んでいて鼻が乾いてるなんて症状はありません、と」
 茶化すように言って、村雨は肩をすくめた。
「ああ、そういえば。まだ、復学届けは出していないようだな」
「あっちに戻る気はあるのかい?」
「単に日程の都合だろう。そういうつもりでは、ないと思う」
「すでに、在籍該当者なしということで、始末したのではなかったのですか?」
「まぁな」
 壬生の言葉に、村雨はうなずいた。
「センセイが接触した人間の記憶まではどうこうできちゃいないが、少なくとも現在、天香学園に御子神京也という人間がいた記録はないはずだ。もし、センセイが戻ろうってんなら、ちょっとばかり面倒なことになるなと思ったんだが」
「面倒、とは、どちらの意味でですか?」
「アンタいつまでイメクラする気だい? って方だな。まぁ、《墓》はもう終わりだ。あの御仁が行ったところで、面倒が起こる確率は低いだろうけどな」
「《墓》関係以外が引き寄せられてくる可能性もありますからね」
「全くだ。はいてすててもいいくらい、山ほどいやがる『世を憂う組織』に『真実の盟主』さらには『秘宝の守り手』。まぁ、《秘宝の夜明け》は顔をつっこんできやしないだろうが――」
「いくらなんでも、無用心がすぎるな。元凶がそのまま居残るというのは」
 如月は、微かに眉を寄せる。
「ああ。――保健のセンセイが言ってただろう。ええと、集団記憶喪失事件。あれを引き起こしたのが、阿門家の当主の能力ならば、同様にして『御子神京也』の記憶を持つ人間を、どうにかできないかとは思ったんだがな。芳しくねぇ」
「芳しくないとは?」
「まぁな。事後処理の大半については、秋月が主導するってことでケリがついた。が――あのセンセイの存在については、どうしても阿門家当主が首をたてに振りやがらねぇ。除籍っつーか、在学の記録を処理するについても、ずいぶん苦労した。ったく、M+M機関も交渉の表には立ちゃしねぇし」
「今回は、秋月が立った方がいいでしょうと言ったのは、そちらですが」
 無理やりってわけにもいかねぇしなぁ、と。顔をしかめ、頭をかきまわす村雨に、湯飲みを手にした壬生が、静かに告げる。