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Hero-ヒーロー-

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4章 アフタヌーンティー



「帰ることは無理!」
あっさり、ハリーは白旗を上げた。

「家主が出て行けと言っているんだ。さっさと去れ!出て行け!」
ドラコの指がブルブルと震えながらも、しっかりと出口のドアを指した。
「だからー、今は無理だって」
首を振りながら腰をかがめてよろよろと歩くと、ドサリと赤いビロード張りのソファーに座り込んだ。

「勝手に腰掛けさせてもらうよ。長い時間箒にまたがってきたから腰が痛いんだ。それなのにまた箒にまたがるのなんか、無理だよ。無理、無理、絶対にムリ!」
許可を取るよりも先に行動するのが、いかにもハリーらしい。
「まったく!誰も座っていいと言ってないのに……」
とぶつくさ言うドラコを尻目に、ハリーはふぅとため息をつきつつ曲がった腰を擦った。
「ああ、イテテて……」と顔をしかめていると、「日ごろからトレーニングをしてないからだ」とドラコが、容赦なく叱り飛ばしてきた。

確かに鍛錬をしていないから、足腰が弱っているのは確かだけれど、それに加えて、この座っているソファーも、結構ヒドイ代物だった。
生地が薄くてしかも擦り切れ気味で、中のスプリングが尻の下に直接当たっているのかと思うほど、デコボコしていて、座り心地は全くよくない。

(――こんなのはマルフォイの持ち物じゃない)
ハリーはそう思った。

こんな安物はドラコには似つかわしくなかった。
目の前に立つ相手の着ているシワシワ洋服は、洗濯だけはしっかりしているようだけど、アイロンもろくにあててないから、ひどくかっこ悪く見える。

またハリーは思った。
(――こんな服、ドラコらしくない)

シワだらけの服も、安っぽい家具も、しみったれた家だって、あのドラコのものだとはとうてい思えなかった。
自慢していた銀髪も手入れがされてないから、パサついたゴワゴワの白髪になってしまっている。
ろくな食事も取っていないのかガリガリに痩せて、骨の上に皮膚がはりついていて、まるでしゃれこうべだ。

(多分、屋敷しもべに暇を取らせたというのは、真っ赤な嘘だ。言い訳だ。きっと、雇う金が底を尽きて、大きな邸宅も維持できなかったんだ。服だって何年も買っていないのか色あせているし、シワだらけの所を見ると、自分でアイロンがけをしているのだろう。そして、きっと食事も自分で用意して――)
そう思うとやりきれない気持ちになってきた。

「悪を倒す」という自分のしてきたことに、もちろん後悔などない。
(だけど、こんなにも相手が落ちぶれていたなんて……)
なんだか、ひどく悪いことをしたような気分になった。

「……マルフォイ。もしかして僕はここへ来るべきではなかったのか?」
しわだらけの年老いた自分の顔の中で唯一、若い頃と変わっていないエメラルドの瞳でそう問いかけ、じっと相手を見詰める。
ドラコはその視線を受けて、ぶつぶつと文句を言い続けていた口を引き結んだ。
相手の薄灰色の瞳が、じっと自分を見詰め返してくる。

「招待した覚えはないが、来たものはしょうがない。――仕方がない」
はぁとため息をつき首を振りそう答えると、踵を返して奥のキッチンのほうへ歩いていく。
やかんをコンロにかけて、それが沸騰する間にカップなどを用意し、器用とは言いがたい手つきで、ブルブルとスプーンを震わせて派手に葉っぱを振りまきながら、紅茶の葉をポットに入れる。
それにお湯を注ぎ、しばし待って、カップへと注ぐ。
それをまた震える手で持つと、歩いてハリーの前へと持ってきた。

「ありがとう」
差し出されたお茶に素直に礼を言い受け取ると、不機嫌な相手の顔が少し緩んだように見えたのは気のせいだろうか?

(……しかし、まさか老いたドラコと、こうしてゆったりと顔を突き合わせてお茶を飲むことになるなんて、年は取ってみるもんだなぁ)としみじみと思った。
ハリーは何度か大人しくカップを口に運びそれを飲みながら、今の考えを何度も反芻してやはりたまらず、プッと噴出して笑い転げる。

ドラコは突然笑い出した相手に、顔をしかめて嫌味を言ってきた。
「とうとう、ボケまで加わったのか、ポッター?いったい何がそんなにおかしいんだ」
「だってさ、ナイフで切るか切られるか、剣で刺すか刺されるか、魔法で殺すか殺されるかで争っていた僕たちが、こんなにのほほんと、顔を突き合わせてお茶なんか飲んでいるからさ」
「ふん、そうだな」
さして面白くないような仏頂面のまま、ドラコは肩をすくめた。

コチコチと柱にかかったやたら大きな古い時計が静かな音を立てている。
ハリーはなんだかこの空間が少しだけ、居心地がいいものに感じてきた。

「それを飲んだらさっさと帰れ。ついでに痩せろ、みっともない」
「だからまだ腰が痛くて無理だって。しかも、それと自分の体型は関係ないだろ」
(相変わらずの憎まれ口ばかりだな)などと思い、少し下を見る。

むかしから一度だって友好関係になったことない相手だ。
いがみ合って、喧嘩ばかりしていた。
ふぅーっ……とため息が漏れて、少しばかり沸き立ったような気持ちがあっさりとしぼんでしまう。

気を取り直して、カップを持ったまま尋ねた。
「じゃあさ、僕の腰の痛みが治まるまで、何か話しでもする?――お互いの潜り抜けてきた、輝かしい歴戦の数々とか?」
「それはやめろ。お前が何人を倒したということは、わたしの陣営が何人か減ったということだからな。貴様が喜ぶことが、自分には悔しさにしかならない」
「それなら、もっと過去に戻って、学生時代の思い出話とか?」
「あまりにも古すぎて何も思い出せないぞ。よく口喧嘩したことぐらいしか思い浮かばない」
確かにハリー自身もそんな記憶しか残っていない。
本当に自分たちの過去はろくな思い出しかなかった。

(――それだったら、なんでここにやって来ようとしたんだろう、自分は?)

日々があまりにも退屈で、前日と同じことの繰り返しで、その中でふと思い出したのがドラコだった。
自分の過去は闇の帝王を打ち破ったことですべての役目が終わり、あとは穏やかで静かな日々が待っているはずだったのに、ダークロードの後を継ぐように、ドラコが次に立ち上がってきた。
そのせいでせっかくののんびりとした日常が、苦難と緊張の連続に埋め尽くされたけれども、それなりに充実した日々だった。

しかし、パタリと20年前からやって来なくなってしまった。
いくら待ってもやって来ないから、こちらからやって来たという寸法だ。
……ただし、20年もたってやっと重い腰を上げるハリーもハリーだ。
かなり変わっている性格だ。

「じゃあさ、天気の話とか、物価の話とかを話そうか?」
「それならば聞いてやってもいい」
「それぐらいしかないよね、僕たちの共通の話題は」
ゴホンと咳払いを話し始める。
「ええっと……天気のいい日が続いているよね」
「ああ、そうだな」
「おかげで近頃、野菜も安くなってきたよね」
「そうだな」

話題が途切れて、後が続かない。
(……会話終了。1分も持たないじゃないか、自分たちは)
はぁーと何度目かのため息をついた。

(やっぱりこれを飲んだらさっさと帰ろう)とハリーは思ったのだった。


作品名:Hero-ヒーロー- 作家名:sabure