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座敷童子の静雄君 2

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座敷童子の静雄君 afterのafter 前編





「うぉおおおおおおおおらぁあああああああああああ!!」


取立て最中にブチ切れ、自販機を空高く投げ飛ばす光景ももう見慣れてしまった。
後輩は今日も絶好調で凶暴だ。

とっとと自分の身の安全を確保し逃げ出していたトムは、静雄の荒業を遠巻きに見ている人だかりの群れの中に、とことこと入ってくる来良の仲良し三人組を発見した。

但し、幼馴染の正臣少年と親友の杏里という少女は、帝人を挟み、両端をがっちりガードしているつもりだったが。
なのに鈍感少女は、二人の作る防壁に全く気がつかず、怒れる静雄にぱたぱたと近づいてきたかと思うと、肩掛けかばんを開き、中からビニール袋を引っ張り出した。

「静雄さんこんにちは♪ これ、今日家庭科の調理実習で作ったチョコチップマフィンなんですが、甘い物、食べられます?」
「……お、おう……」
といいつつ、襟首を手繰り寄せて吊るしていた取立て相手のおっさんを、急いで背後にぽいっとぶん投げて隠していたが、手遅れだっつーのになぁ。

少女も静雄の無茶振りを見ている筈なのに一切スルーし、にこにこ微笑んだままケーキカップが二つ入ったビニール袋をちょっこり静雄の大きな手に乗せてるし。
見かけは普通の女の子なのに、どういう心臓を持っているのやら。
すこぶる豪胆な子だ。

「……まあ、その……、ありがとよ……」
「はい♪」
哀れな純情童貞後輩の顔は真っ赤になっていて、しかも視線を帝人ちゃんからあさっての方向に向け、そっぽを向いてるし。
目線すら合わせられず、気の効いたお礼言葉の一つや二つ、言ってやれない静雄のそっけなさ……というかヘタレ姿に、見ているトムの目頭がくぅぅぅっと熱くなる。


「おい、帝人。今日は一緒に冬物の古着見に行く約束だろ? お前ももうそろそろコートいるだろし」
「さ、行きますよ」
静雄と彼女が仲良くするのを快く思っていない二人は、あからさまに静雄を無視し、紀田には襟首、園原には腕を取られ。
「……じゃ、静雄さん……また……」
帝人ちゃんは残った片手で、必死で手を振り……ずるずる友人達に引き摺られて去っていった。


結局、静雄は今日も愛しい少女と禄に目も合わせられず、可愛くラッピングされたマフィン二つを手のひらの上にちょこんと乗せたまま固まっていて。

トムはため息をつきつつ、静雄が放り捨てた男に歩み寄ると、呆然自失状態の彼の背広から、どさくさにまぎれて長財布を取り出し、回収分の万札10枚をきっちり抜き取った。

「静雄、用事は済んだ。次いくべ」
ぽんと後輩の肩を叩くと、固まっていた彼はゆるゆるとこっちを見下ろしてきて。
「……トムさん、俺、今日も彼女の携帯番号を聞き損ねちまいました………」
そう言って、あからさまに肩を落とした。

落ち込みまくるのは勝手だが、それ以前に視線すら禄に合わせられなかっただろうて。
でも、そんな図星をズバリと指せば、トムの命日が今日になる。
「うんうん。今度会った時、頑張ろうな」

彼があの少女に片思いしているのは誰の目から見ても一目瞭然なのに、惚れられている少女はあのガードを固める親友達二人に何を吹き込まれてるか知らないが、全く気がついていない。
23年間誰とも交際できなかった静雄の初めての恋だし、年の差が難ありまくりだが、トム自身としては何とか叶って欲しいと願っているけれど、きっと今のままなら平行線だろう。
味方が欲しい。
そらっとぼけている癖に、結構頼りになるこの街の名物男に、一つ協力を仰いでみるか。


「静雄、今晩夕飯奢るから。露西亜寿司に飲みに行くべ、な♪」
もう一度ポンと肩を叩けば、消え入りそうな声で「うすっ」と返事が返ってきた。
「よし、じゃあとっとと残り二件片つけるぞ♪」


★☆★☆★


取り立てが無事終った後、約束どおりトムは静雄を露西亜寿司に連れて行った。
静雄は最初からハイピッチで日本酒を冷で飲みまくり、現在まだ9時だというのに、もうべろんべろんのグダグダで、カウンターに突っ伏している始末である。

「15の少女相手……に、今後どうすりゃいいんすかね……。俺、……」

今日散々ループした話題だが、トムはいつもの通り辛抱強く、うんうんと聞いてやる。
この真面目で純朴で怪力な後輩は、心がとても傷つきやすくてメンタルが弱い為、中学の頃から延々、同じ事を堂々巡りで悩みまくる悪癖があった。

「とっとと告白しちまえ」
「無理っす。また、壊しちまったらどうするんすか?」
「壊してねーだろ。肩の関節が外れただけだし」
「帝人は華奢なんっす。俺、油断したら絶対壊しちまう」
「……じゃ、彼女を他の男に譲るか?……」
「嫌っす。帝人は俺のモンっす」
「なら告白しちまえ」
「……無理っす……、俺、もう帝人を傷つけたくねぇ………」


本当は、傷つきたくないのは静雄自身だろうに。意気地無しの思考はグダグダの永久運動にズッポリ嵌ってしまっている。
多分、打開するには何か飛びっきりの切欠が必要なのだろう。

けれど腑に落ちない。
静雄は何時、あの少女と知り合い、恋をしたのだろう?
いつも行動を共にしていたのに、全く気がつかなかった。一目ぼれか?

「静雄、お前と帝人ちゃんとの馴れ初め、そろそろ聞いてもいいか?」
「……みぃぃぃかぁぁぁぁどぉぉぉぉ……、好きだぁぁぁぁ………」

人の話を無視し、カウンターに突っ伏したまま、気持ちよさげに目を閉じてしまった。
しかも蝶ネクタイを指でひっかけて緩めると、シャツのボタンまで外してくつろいでしまうし。

ヤバイ。こいつこのまま寝る気だ。

静雄を抱えて帰るのは、トムには絶対無理だ。
何故なら、酔って寝ぼけた彼は、力加減が全く効かない。
肩を抱えて帰ろうにも、下手すりゃ腕一薙ぎで吹っ飛ばされるだろうし、無理に起こしてむずがられれば、容赦ないパンチや足蹴が飛んでくる。
最悪、静雄と唯一渡り合える気の良いサイモンが家まで送り届けてくれるのだが、その時は露西亜寿司の閉店まで待たねばならず、きっと日付が変わる。

何時間もカウンター席を占領するのも気が引けるから、店に気を使って寿司を食い続ける羽目となり、お財布の万札が盛大に羽ばたくのも間違いない。
給料日までまだ半月以上あるし、こんな強制豪遊は避けたい。

「……おい、静雄、起きろ………、寝るな……」

いつでも逃げられるように、腰を椅子から浮かしたまま彼の肩を揺さぶる。
すると、襟首からずいぶんと大粒のサファイア石がコロリンと転がり出てきた。
以前、一度見せてもらった明らかに女物のそれは、確か弟の幽のお土産で、どうやら律儀な静雄は貰ったその日から、肌身離さず身につけていたらしい。

「……サイモン、お冷をくれ!!……」
と叫べば、商魂たくましい奴は、間違えたふりしてグラスに水ではなく、大吟醸の冷酒をなみなみと注いで寄越しやがって。

「サイモン、明日の昼ランチで静雄連れて食いに来るから、……確信犯でそういう事しないでくれる?」
「Oh、田中社長安心するネ。ワタシ、ばっちり静雄、送ってイクヨ♪ ニィ♪」

にこやかに親指立てて来たって絆されるものか。
トムは諦め、冷め切った緑茶のコップを静雄の口に宛がった。
作品名:座敷童子の静雄君 2 作家名:みかる