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ゴーストQ

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「アイドルのくせに泣くなよ」



 わずかな物音で意識が覚醒した。薄く目を開けると部屋の中は暗かった。まだ日が昇っていないのだろう。頬に冷気を感じる。
 明日オレ早いから寝ててー。
 水谷の言葉を思い出し、また目を閉じる。寝てていいって言ってたし、起きる義理もないし、オレはこのまま授業の時間までベッドの中にいたい。
 今までに数回、オレと水谷は一緒に寝ている。決していかがわしいことなどしていない。純粋な意味で同じ布団に入っている。高校のとき合宿でそうしたように、本当に、ただ寝ているだけだった。
 当然狭い。初めて寝たときオレはベッドから落とされたので、次から壁際で寝るようにした。水谷はどうなのか知らないし、どうでもいい。客用のふとんを出して別々に寝ようと提案したけど、水谷だけならまだしも、オレがそうすることも頑なに断られた。水谷はどうしても二人で寝たいらしかった。だからあいつは多分落ちてもいいんだと思う。
 最初は正直寝付きにくかったけど、次からは別にどうってことなくなった。元々順応性が低くなかったし、一緒に寝るのは合宿っぽかったし、すぐに慣れてしまった。
 来る日は大抵水谷から連絡が入る。オレは風呂と着替えを貸すくらいで、普通の友達が泊まりに来るのと何ら変わらなかった。
 どうしてこんなことになったかという経緯は、いつもの「嫌?」「嫌じゃない」で決まったことなので、大変つまらない。それより水谷がオレの扱い方を覚えてきているようで癪に障る。
 静かにドアが閉じ、続いて施錠される音がした。ああそうだ、水谷はいつ来るかもいつ出てくかも不規則だから、合鍵を持たせたんだった。
 仮にも付き合っている関係なのにこれはいいんだろうか。いいのか。いや、悪いよな。オレはまた最近になって、水谷から好きって言われたし、キスもされたんだぞ。もう少し貞操の危機について重く考えるべきなのかもしれない。いつ思い描いている最悪の事態が引き起こされるかわからない。
 でも水谷は本当に何にもしてこない。多分仕事で疲れているからだろうけど、大抵オレより早く眠りにつき、間抜けな顔ですうすう寝息を立てている。ここずっとめっきり寒くて、二人で寝るととても暖かく、その緩い感覚に意識を委ねると心地よく眠りに落ちることができた。だから、まあ、いいかなって……。
 とか思ってるオレは相当水谷に毒されてるんじゃないだろうかー。こんなの普通じゃないってことくらいオレだってわかってる。でも一応あいつとは付き合ってる関係なわけで、その基準で考えると全然普通なわけで。
 目的と手段がぐねぐね入り組んで、考え出すとますますわからなくなる。寝返りを打つと、水谷の寝ていたところがまだ暖かかった。あいつもう出てったんだよなぁと思い出し、少しだけ胸が痛くなる。
 何勝手に切なくなってんだオレは。慌てて感情を訂正したけれど、水谷がいなくて寂しいという気持ちが湧き上がったのは事実だった。
 考えれば考えるほど状況が自分にとってより不利な方向へ傾いているようで、オレはそれ以上推測するのをやめ、また寝てしまった。

作品名:ゴーストQ 作家名:さはら