ルック・湊(ルク主)
金狼
湊がルックやナナミと一緒に、兵舎代わりに使わせてもらっている学生寮を出ると、向こう側に最近見たばかりの姿が見えた。
「え、あ、あれ!あの人って湊に襲いかかってきた人でしょ!?お、追いかけよう!!」
ナナミが言った。その横でルックがものすごく嫌そうな顔をしている。湊は苦笑しながらルックに黙礼だけして、ナナミに“じゃあ、行ってみようか?”と答えた。
校舎から秘密の抜け穴を抜けた後、3人はまたびっくりする事になった。
「ジョ、ジョ、ジョウイ!!」
ナナミが飛びあがるように驚き、声に出した。ジョウイは悲しげに微笑んだ後、後ろに立っているルシアの方を向いた。
「ありがとう、ルシア殿。もう戻ってくれていいよ。」
「お前の身を守るため、ここに残ろう。」
「・・・すまない。」
湊とルックは体をピクリ、とさせた。
・・・身を、守る・・・?あなたが?僕達からジョウイの・・・?
・・・身を守る、だって?ふざけるなむしろこちらがアンタらから湊を守りたいんだよ、ていうかなんだったら今すぐ吹き飛ばしてやろうか・・・?
「・・・ジョウイ、どうして、どうしてここに・・・?」
ナナミが聞くと、ジョウイはこちらに近づいてきた。
「ナナミ・・・。・・・湊、君に友として頼みがある。今すぐ同盟軍のリーダーをやめて逃げてくれ。僕は・・・君と戦いたくはない。」
「・・・それは・・・無理だよ・・・。」
「どうして・・・。君が同盟軍のリーダーである必要はないだろう・・・。」
すると湊が口を開く前にナナミがジョウイにすがりつくようにして、言った。
「だって、だって、湊は・・・。そうだ!そうだよ!ジョウイがハイランドを・・・」
「それは出来ない・・・。・・・そうか・・・そういう事だね・・・。僕に、捨てられないものが出来たように・・・君にも、捨てられないものが出来た・・・。時が流れすぎ・・・、お互い、昔のように・・・とはいかないんだね・・・。」
「・・・ジョウイ・・・。」
ルックは黙ってそれらの会話を聞いていたが、なんとなく面白くない。ナナミがほとんどジョウイに話しかけているというのに、ジョウイはほとんど湊に話しかける。そんなささやかな事が気になって仕方がない。
一方湊は湊で憤りを感じていた。
ジョウイ・・・。ほんとに・・・もう・・・。君が選んだ道だろう。滝壺につっこんだのも。戦争に憤りを感じて無力なまま参戦させてもらったのも。そして紋章を受け取ったのも。アナベルさんを殺害したのも、ハイランド側についたのも人参が嫌いなのも王様になったのもっ・・・!!バカ、バカバカ、ジョウイのバカッ・・・。
それでも・・・。湊は本当に憤りを感じているのは自分に、だった。
ジョウイが選びとった。そして、僕は。
ただ、それについていくだけだった・・・。自分の責任だ。決めない、選ばない事によって選びとってきた、自分の責任。
「ねぇ、・・・ねぇ、ジョウイ・・・、ジョウイはハイランドの王様になったんでしょ。だったら・・・だったら戦争なんかやめて、ハイランドがミューズから引き揚げればそれで、まるくおさまるじゃない。そうじゃない。ね、ね、ね、だからね。」
「それじゃ・・・それじゃダメなんだよ。ナナミ・・・。」
「どうして!どうして!!」
するとジョウイが目を瞑り、それから目を開けて湊を見た。そして右手を挙げる。すると湊も自らなのか勝手になのか、同じように右手を挙げた。2人の手からお互いの紋章が光り浮かび上がる。
「湊・・・。この二つの紋章を手に入れたあの時から僕らが戦う事は決まっていたのかもしれない。いや、それが運命だとしても、僕は僕の想いをつかみとり、君は君の想いを広げた・・・そう思いたいね・・・。」
そしてジョウイは湊らに背を向けた。
ていうか、ナナミの問いは無視かよ!と何気にルックは内心で突っ込む。
・・・紋章がどうした、運命がどうした。お前ごときに紋章や運命を語って欲しくない・・・ただでさえ・・・紋章が絡める運命については嫌というほど考えさせられているというのに・・・。ルックは少し俯き加減でそう思っていた。
「湊、僕はハイランド王国の皇王として、この地に新たなる秩序をうちたてる為に戦う。・・・さようなら・・・湊、ナナミ。」
「待って!待ってよ!!昔みたいに!!昔みたいに!!!ね!ね!!お願い!!」
それでもジョウイはそのまま振り返らず歩いて行った。ナナミが後を追いかけようとしたら、ルシアが立ちふさがる。
「皇王の身を守るため、ここから先へは進ませぬ。」
「やだ!やだ!やだよぉ!!」
だが視界からはどんどんジョウイが遠ざかっていった。しばらくするとルシアも去って行く。
「うう・・・行っちゃった・・・どうして・・・どうしてなんだろう・・・。・・・戻ろうか・・・湊・・・。」
ナナミは俯いていたが、ふ、と顔をあげて少し力ない笑顔ではあるが、湊に笑いかけてきた。
「・・・ナナミ・・・。・・・うん。・・・あ、ルックも・・・ごめんね。」
「・・・謝られる意味が分からないよ。ほら、そろそろ兵達の準備も整っている頃だろ。」
そうして3人は少し黙りがちになりながらも、また来た道を戻った。
戻ると湊は、アップルに出陣の合図を出し、軍を率いてミューズに向かった。
ミューズまではあっという間に到達する。クラウスが言った。
「ここまで敵軍の抵抗がなかったのはおかしいです。気をお抜きにならないように。」
「・・・うん・・・。」
湊もうなずく。グリンヒル戦の時から何か違和感がぬぐい去れない。でも・・・先ほどジョウイに会った時・・・逃げろ、とは言っていたが、その他はジョウイは何も言わなかった・・・。・・・ジョウイ・・・君は何を考えているの・・・?
そのまま、癒えたばかりの傷の事も忘れて、湊は突き進んだ。
しばらく王国軍と戦っているとなぜかジョウイらが撤退した。そのまま、カラヤ兵を倒し、湊らは無事ミューズへ到着した。
「やつら、しっぽ巻いて逃げていきやがったな!」
ビクトールが言うと、クラウスが首を傾げた。
「そうでしょうか?これには裏が・・・」
「確かに・・・」
いつもは寡黙なハウザーも同意した。
「お前も心配性だなぁ、クラウスちゃんよ。」
「・・・」
ビクトールの『ちゃん』呼ばわりに、ルックやアップルが白い目を向ける事で答えている。
ナナミがニナやメグ達の影響で、内心“ちゃん、ですって?何それビククラフラグ!?”とかふざけた事を思っているのは、誰も気づいていなかった。
「さぁて、さっそくミューズに入ってみようぜ。」
ビクトールが中に向かった。湊らも後に続く。
「こいつは・・・ずいぶんとガランとしちまって・・・マイクロトフが言ってたように住人は皆、儀式とやらに・・・」
そのまま中にどんどん進むと、市庁舎のところで先に様子見で来ていた兵士達の様子がおかしい事に気づいた。
「どうしたの?」
「いえ、どうも中でなにか・・」
ビクトールが放っておけない、と言いだし、ルックは大きくため息をついた。
とりあえず皆で中に入ると、兵士達がどんどん出入り口めがけて逃げてくる。化け物、と叫びながら。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ