ルック・湊(ルク主)
決断
「湊殿、無事で何より、でした。」
シュウがホッとしたように言った。
「しかし困りました。ミューズは落とせませんでしたし・・・これは、打つ手なしという事でしょうか・・・。」
フリード・Yが考え込むように言った。アップルは落ち込んだように黙っている。ビクトールがいつもの調子で口を開いた。
「まぁ、なんとかなるさ。明日になれば、良い考えが浮かぶかも知れん。湊も、あんまり落ち込まないでメシ食って、寝たほうがいいぜ。」
「お前はいつもそれだな。」
横でフリックが呆れたように言っているが、湊はそんなビクトールが好きだった。
その後湊は目安箱などをチェックしてから何気にシュウの執務室に立ち入ろうとしたとき、キバ将軍が入っていくのが見えた。
そこに入って行くのはまずいだろうかな、と思い、そっと階段のところで様子をうかがっていると、しばらくしてからキバが出てきた。なにやら少し思い詰めたような表情をしている。湊は気になりつつも、とりあえずシュウの部屋に入った。
「シュウさん・・・。」
「ああ、湊殿。丁度良かった。策は定まりました。この戦い、王国軍と同盟軍の本当の決戦になります。戦いの為に多くの力が集まり、それが限界に達しようとしています。この戦いに勝利した者が、全てを得、敗れし者は、全てを失うでしょう。それは、都市同盟、ハイランド、それぞれの存亡をかけた戦いです。」
「・・・はい。」
「あなたには2つの選択があります。・・・一つはこのまま何もせず、ただ敗れ去る道。これはた易き道なれど隷従です。」
「・・・。」
「もう一つは、人々の為戦い勝利を得る道。これはイバラの道なれど王道です。」
「・・・。」
「・・・ご決断を湊殿。」
「・・・戦おう・・・。」
「分かりました。それでは皆をしばらくのちに集めます。皆が集まりましたらお呼びいたします。」
「はい。・・・シュウさん。先ほど、キバ将軍が部屋から出て行った。なにか思い詰めたような顔つきだった。僕はそれについて聞いても、いい・・・?」
「・・・。マチルダをおとすには・・・おとりが必要となります。王国軍のマチルダに駐在している兵力を少しでも減らすには・・・それしかありません。危険な作戦ですが、キバ将軍にはミューズ市方面に軍を出していただきます。」
「・・・そう。キバ将軍は・・・なんと・・・?」
「一度敗れた身に未練はない、と・・・。クラウスを頼む、と。」
「っ。・・・教えてくれて、ありがとう。そして、つらい役割・・・お疲れ様・・・シュウさん。」
湊は一度シュウをギュッと抱きしめると、頭を下げた。
「っ・・・。湊殿。軍主が軍師に頭を下げるものではありませんよ。」
「あはは、そっか。・・・じゃあ、集まったら・・・呼んでね。」
そうして湊はシュウの飼っている猫を撫でてから部屋を出た。その足で石板の所に行こうとして思いとどまった。
いつ呼ばれるか分からないのに部屋にいないのは・・・やっぱまずいだろうな。
そう思い、俯き加減で自分の部屋に向かった。
「やあ、遅いよ。」
「っルック!!」
部屋に入るとルックがいた。まさかいてくれているとは思わず、湊は思わず駆けていってルックに飛びついた。
「ちょ。何。どうしたのさ。」
「・・・ううん。ごめん。でも嬉しくて。」
そういいながら湊は顔をルックの耳元にうずめるように抱きつく。そして深呼吸をした。ルックの匂いは落ち着いた。
「・・・湊。大丈夫かい?」
ルックはそんな湊をベッドに座らせて自分は前に立ち、そして湊の頬にそっと手を添えた。
「・・・うん。だい、じょうぶ。ルック、今シュウさんが広間に召集をかけてるよ?石板のとこにいなくて大丈夫?」
「そこにいなかったら、君のとこにいると思うだろ。・・・召集。そうか。なんとかしてロックアックスに攻め入る策を立てたんだな。」
「うん。多分それでも全然兵の数は違うだろうけど・・・同盟軍は負けない。」
湊は添えられたルックの手に、自分の手を重ねた。
「湊・・・君はきっとまた前線に出るんだろうね。仕方ないとは分かっているけど・・・でも一つお願いがある。」
「うん、なぁに?」
ルックは湊の顔を両手ではさみこみ、顔を近づけて湊の目を見つめた。
「癒すのは他の術師、医師、もしくは僕に任せるんだ。君はあの紋章は使うな。頼む。」
「・・・ルック。・・・うん、分かったよ・・・僕も・・・まだここで・・・いや、いいや。うん。使わない。」
すると真剣だったルックの顔が少しほころんだ。
あ、綺麗・・・そう思っていると、更にルックの顔が近づき、そして唇が重なった。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ