二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ルック・湊(ルク主)

INDEX|117ページ/174ページ|

次のページ前のページ
 

前進



「ルック。俺は家に戻る。」

いつになくまじめな顔で詩遠が言った。普通だったら“こんな時にいったいどうしたんだ?”などと思うであろうが、ルックには分かった。

「・・・そう。」

珍しく憔悴した顔をしている。きっと久しぶりに自分の紋章を呪ったのであろう。
自分がいなければ、と思ったに違いなかった。そして今この瞬間も自分がいない方がいいであろうと思っているに違いなかった。
いつもの湊だったら、“そんなの関係ありませんよ!”と笑顔で否定してたであろう。
その湊は部屋にこもっている。
ルックは詩遠に否定してあげる事が出来なかった。別に詩遠のせいだとは少しも思っていない。それでもルックには否定してあげる事が出来なかった。

「・・・いいよ、ルック・・・。それにどのみち・・・俺だとあの子を慰めてあげられない。」

そんなルックの考えを読んだかのように詩遠が力なく笑う。そして続けて言った言葉にルックが首を傾げた。

「俺だと・・・湊をさらに闇につき落としかねない。・・・今のあの子には・・・闇に住まうモノの傀儡とも言うべき俺は、さぞかし甘美だろう。闇に落ちるのは思っている以上に楽だ。でも・・・あの子には例え辛く苦しくても、ずっと光にいて欲しいんだよ。」
「・・・ああ。だがそれをいうなら・・・僕だって・・・」

闇の住人だ、と言いかけたのを、詩遠は制止した。

「あの子にとってお前はいなくてはならない存在だ。そしてお前はあの子が大切なのだろう?だったらお前はどんなに辛くても湊をあの位置から落ちないよう支えてあげられるだろう?それに・・・」

お前は闇属性に強いとはいえ、風の子だろう?風は殺しもするが、癒しもするだろう、と少しニヤリと笑いながら言い、そのまま詩遠は去っていった。
あれほど普段は唯我独尊な詩遠でも、やはり紋章の呪い、運命には抗えないの、か・・・、と何気にルックはその背中を見送りながら思った。
それは昨日の事だった。


ルックはそんな事を思い返しながらまた湊の部屋に向かう。

「開いてますよ。」

さきほどまで部屋にはいたのだが、屋上に行っていたので一度出ているし、となにげにノックするとそんな声が聞こえた。ノックしておきながら湊が起きている事に驚いているのは、自分もどうやらまだぼんやりしているらしい。それに・・・まだ明け方だったが、やはり目が覚めてしまったのだろうか、とルックは考えつつ部屋に入る。専用の階段を上ってドアを開けても見えるのは正面の壁だけ。右手に回り込まないと家具すら見えない。いつの間にか増築され完成していたこの城の、そして軍主の部屋はかなり大きくなっていた。

「あ、ルック!」

そして中に入ると、そこにいたのはいつもと同じように、鏡も見ずにスカーフを結んでいる湊の姿だった。


・・・そう、あれは昨日起きた出来事。
あの後城に皆が戻り、医務室前には人だかりが出来た。
いつも明るかったナナミは人気者だった。そしてそんなナナミを心底心配している人々で入り口付近は溢れかえっていた。

「ちくしょう・・・助かってくれよ・・・」

フリックが絞り出すように言っていた。ホウアンが医務室から出てきた時も“どうだった!!大丈夫なんだろ!!”と。もしかしたら昔を思い出していたのかもしれない。

「・・・すいません・・・わたしの力・・・不足です・・・。」
「なんだって!!そんな!!おまえそれでも!!!」
「やめろよフリック。そんな事をしてどうなる。お前のやっているのは、ただの八つ当たりだ・・・。」
「ビクトール・・・分かってるさ!分かってるけどなぁ!!それじゃあ、あんまり湊が・・・。くそっ、キバにナナミに・・・。今までがんばってきたのに!!せっかく勝ったのに!!ここまで来て!!・・・っく・・・。」

そんな中、湊は黙ってふらり、と医務室に入っていった。そして中々出てこないのでルックは様子を見に行くと、そこには声をあげるどころか瞳にもなにも映してないような様子で湊が、ナナミのベッドの横に座り、そしてただ俯いていた。
ナナミはまるで楽しい夢でも見て眠っているかのようだった。

「っ・・・湊・・・。もう、君は・・・休んだほうが・・・いい。」

そう言って手を差し伸べても身動ぎすらしない。ルックは手を湊の脇にさしこんで立たせた。それでも反応がないため、そのまま湊の部屋にテレポートする。
そしてベッドに座らせた。
それでもまったく無反応な湊。あまりにも痛々しくて、だがどうする事も出来ずに、ルックはただ、だらん、と垂れている湊の手をギュっと握った。
すると湊がピクリ、と肩を動かした。そのまま、ずっと離したくない失くしたくないもののように握りしめていると、湊の口が開く。

「ック・・・ルッ・・・ク・・・ルック・・・」

呟くように・・・意味もなく湊がかすかにルックの名を呼ぶ。ルックは何も言えず、ただ、湊を抱きしめた。

「う・・・ぁ・・・・・・・。」

湊はそれでも声もなく、だがようやくボロボロと涙を落した。ただ静かに涙を流す湊に何もしてあげられない・・・そう思いながらも、ルックは湊がそのまま眠りに陥るまで、ずっと、たまにあやすように背中を撫でながら、ただ抱きしめていた。
そしてまだ暗い明け方、少しだけ、風を感じたくて屋上まで行った後もどってくると、いつの間にか起きていた湊が、いつものようにルックに声をかけてきたという訳であった。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ