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ルック・湊(ルク主)

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果実



「湊さん達はここでゆっくりされるんですか?」

ヒューゴが聞いてきた。彼はどうやら湖の城、と呼ばれている所に行くらしい。なぜ行くのかは言ってはいないが、詩遠も湊もこっそり聞いて知っていた。
炎の英雄。炎の運び手。それらがその城に潜んでいるかもしれないらしい、と体格のいい男がヒューゴに話をしているのを陰で見ていて読話で察していた。

「うーん、いや、色んなとこをうろついてみたいなぁって思ってるんだー。そのお城にも行ってみたいし、もしかしたら立ち寄るかも。また会えたらいいね!ちょっと僕らは用事があってお見送りに行けないけど、気をつけてね。」

湊はニッコリと答えた。

「は、はい!」

ヒューゴはまた顔を赤らめつつ微笑んで頷いた。横ではジョー軍曹がそんなヒューゴを黙って見ている。
そんな様子を逆に詩遠は楽しげに見ていた。
用事で見送れない訳ではないが、リリィがどうやら一緒についていくらしいので遠慮した。湊らの姿を覚えていて、今騒がれたら何かと面倒だろうなと判断してのことである。
先にヒューゴ達に別れを告げてから2人は大空洞を出た。

「炎の運び手って昔から色んなとこで噂出てますよねー。」
「だよね?結局盗賊団とかが勝手に名乗ってるだけみたいだけど。」
「ていうか僕はそれよりもヒューゴ君にその話をして、湖の城に行くよう言っていた人が気になりました。」
「ああ、俺もね。」
「ですよねー。ずいぶんなじんでるし、結構長い間宿してるような気がします。ただ・・・なんか不思議な宿し方をしているような気がしますが。それにしても、真の紋章継承者っていっぱいいるんですね!」

湊はニッコリと言った。詩遠は苦笑する。

「いや、いっぱい、て訳はないと思うけど・・・。んーとりあえず、俺としてはあんな中途半端な宿し方をしてたからだろうね、彼が持ち主だって分かったのは。多分彼はずいぶん長い間宿してるだろうから、普通だったらもっと上手く隠せてるだろうし。まあどうでもいいけど。ああ、水がいるなら火も確かにいそうだよね?」
「はい。・・・詩遠さん。」
「何。」
「今回のルックの件・・・。僕、真の紋章絡みだと思います。」
「・・・うん、そうだね。俺もそう思うよ。湊、君、ルックが真の紋章持ってるって、気づいてるの?」
「詩遠さんも?はい、多分そうだろうな、て。ルックは話をしてくれた事はないんですけど・・・。なんか、ね。でも・・・何か僕らとは、違う気がします・・・。」
「確かにね。」
「とりあえず、もう少しだけ真の紋章について調べてみたいです。それからルックに会って文句言うんだ!あ、あと仮面について突っ込むの。えっと、それでいいですか?」
「ふふ、いいよ?」

お互いニッコリと笑い合い、そして2人は特にあてもなく歩き出す。気づけば険しい山道を歩き、途中変な化け物をあっという間に2人で倒し、夕刻あたりにはカレリアという街に到着していた。

「うっわーすっごい活気ある街ですね!」
「だね。それになんかやたら傭兵らしき人が多いね・・・て、湊?」

詩遠が辺りの様子をうかがっている隙に湊は楽しそうに近くの露天を回っていた。

「さすがと言うか何と言うか・・・。」

詩遠は呆れたように、だがニッコリと笑ってその様子をうかがいつつ同じく露天の店でどのみち必要そうな道具を買いながら店員に街の様子などを聞いたり、近くにいた傭兵の会話をさりげに盗み聞きしたりしていた。

「詩遠さんも何か買いました?」

後で湊が笑顔で聞いてきた。

「んーまあ、必要なものを、ね?湊はまた、なんていうか、食べ物ばかり?」
「えへ、何か食べます?けっこう変わったものがいっぱいあるんですね。あと、多分詩遠さんも色々店の人に聞いていたんだろうけど、ここってハルモニアだったんですね!南部辺境の街だって。」
「みたいだね。案外ルックも近くにいたりしてね。俺は今はいいよ、湊もあんまり食べると夜ごはん食べられなくなるよ。まあ少し喉渇いたし、その果物はもらおうかな。美味しい?」
「いたりしてー。あ、はい、どうぞ!うん、すっごくなんか甘くて美味しいです!なんだろ、ここってけっこう位置的には北部なイメージなのに南国のフルーツって感じーっ。」

湊はやたら楽しそうに果物を渡してきた。普段からテンションは高いが、ここの活気のせいだろうか、いつも以上にテンションが高い気がする、と詩遠は少し思った。
そしてその果物を齧り、咀嚼して一瞬黙る。それから湊に聞いた。

「・・・これ、湊どれだけ食べた?」
「へ?他の食べ物も食べてたから一個しか食べてませんけどー?なんで?気に入りました?もっといる?」
「・・・いや・・・。でも一個食べちゃったか。・・・とりあえずは宿をとっておこうね。」
「はい!」

詩遠が何を思ったのか分からないままだが特に気にする事なく、湊は楽しそうにうなずいた。
宿屋はすぐに見つかった。時間が時間だからか、奥の食堂らしきところがとても混んでそうではあったが、部屋は取れた。

「じゃあとりあえず部屋に行こうね。食堂は今は混んでるみたいだし、後でいいんじゃないかな。」
「・・・ふぁい。」

・・・返答がおかしな事になっている。
やはりな、と詩遠は思った。
先ほど一口食べた果物。確かに甘かったが熟しすぎていた。むしろ発酵していると言っても過言ではない。
ため息をついていると受付をしてくれた宿の人が同情するように言ってきた。

「お客さんの連れ、持ってるところみると、もしかしてあの果物、食べちゃったんですか。」
「えっと、あれって、何。普通の果物じゃないよね?むしろ酒類と言っても過言じゃないような・・・」
「ああ。この辺の者にとっては有名なんですけど、旅人にはなじみないんですね。確かに発酵してますけど、あれ、まあなんていうか・・・新婚さん向けというか熟年夫婦向けというか・・・。」
「・・・は?」

困った、と詩遠は思った。とりあえず部屋に着くと水差しから水をいれて湊に飲ませる。少しでも薄まれば、と思いつつ。
酔ってしまったのでは、と思い危惧していたが、いくらなんでもまさか強精剤のような果物とは思わなかった。
いくら年数が経とうとも自分達の身体は若いままである。しかも至って健康な。
自分は一口、口にしただけだったが湊は・・・。
困ったように湊を見ると、あきらかに苦しそうである。そして少しこちらの目の毒でもある。

「あの・・・詩遠さぁん・・・。僕・・・ちょっとシャワー、浴びてきますぅー・・・」
「うん。行っといで。」

そこでスッキリすればいいんだが、と少しホッとしたように詩遠は答えた。
その間に荷物を解いたりしていたが、一向に湊が出てくる様子がない。もし一人でがんばってるにしてもちょっといくらなんでも長すぎやしないか、と少し心配になってきた。

「湊・・・?大丈夫?」

ドア越しに声をかけるも返事がない。ため息をついてからノックし、また口を開いた。

「湊?ごめん、ちょっと開けるよ?」
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ