ルック・湊(ルク主)
和議
その後、トランの英雄をも伴って、ようやく湊は本拠地に帰ってきた。
2階にある大広間に入ると、それに気づいたキバがまず口を開いた。
「っお前はクルガンッ」
その場にいた皆も驚いて湊らを見る。ビクトールが言った。
「ちきしょう!湊を離しやがれっ!!」
そんなセリフに、クルガンは“むしろこちらが離してもらいたかった・・・”と少し遠い目になって思った、が、とりあえず軽く咳払いをして口を開く。
「勘違いなさらないでもらいたい。わたしは和議を申し入れに来ただけです。」
「和議?」
シュウが聞いた。
「えぇ。、ルカ・ブライト前皇王は既に亡くなり、軍の指揮官を務めている、次期皇王ジョウイ・ブライト様に戦いを続ける気はありません。」
「ジョウイって、あのジョウイがハイランドの皇王・・・。」
フリックが呟いた。
「我がハイランド王国と都市同盟との間に休戦条約を結ぶ事を希望します。本来なら、都市同盟の盟主ミューズ市市長と条約を結ぶべきなのですが、今はそれもかないません。それゆえ、こちらの同盟軍のリーダー湊殿と、グリンヒルの市長代行テレーズ様に、ミューズまで、お越し頂きたく参上しました。これが、ジョウイ・ブライト様よりの書状です。お納め下さい。」
そう言ってから、クルガンは湊に書状を手渡した。
「湊殿、ジョウイ様は平和を望んでおられます。是非、ミューズまでお越し下さい。それでは、失礼いたします。」
そしてクルガンは出て行った。何か本当に解放されたようなすっきりとした表情で。
その後話合いがなされた。
罠の可能性がある、という意見にはナナミは必死になって反論していた。“ジョウイがそんな事、するわけがない”と。
最終的に湊に意見を聞かれ、少し黙って俯いた後、湊は“行きます”とはっきり言った。
シュウは何か考え込むような様子を見せた後、湊にチャコを連れて行くよう言ってきた。役に立つであろうから、と。
「ねえ、湊。君は罠だと疑った上で赴くのか?」
道中でルックは湊に聞いた。
「・・・うん。ナナミ・・・ナナミには、可哀そうだけど、直接事実を見せたほうがいいのかもと思って・・・。出来る事なら知らないままの方がいいのかもだけど、きっと今後、それではまずいと思うんだ・・・。それに・・・やっぱり僕自身、ジョウイに会いたいし。・・・ん?どうしたの?ナナミ?」
ルックに答えた後、ナナミに呼ばれた湊は“ちょっと、ごめんね。”とルックに断ってナナミの元へ行った。
「・・・ふーん。」
「おやおや、そのジョウイとかって子に死亡フラグ、立った?」
ニッコリと詩遠が言った。ルックはそんな詩遠をめんどくさそうに見る。
「・・・どこまでついてくるのさ。このヒマ人英雄。」
「えー?だって湊に呼ばれたしね?それに面白そうだし?でさ。」
「・・・何。」
「ジョウイって、何?」
ニッコリと聞かれ、ルックはため息をついた。
「・・・湊の親友らしい。家族同然だったと聞いた。そして、あの紋章の片割れにして、敵国ハイランドの皇王になる。」
「っうっわ。何その最悪な羅列は。俺にしてもあの子にしても、なんていうか、真の紋章はヒトの不幸がお好みか?」
「・・・・・・かもね。」
詩遠が軽く言った言葉に、なぜかルックは少し考え込むように答えた。そんな様子のルックに首を傾げつつ、詩遠が続けた。
「そのジョウイとやらが何を考えているのかは知らないが、きな臭い事には代わりないな。湊もそれは感じとっているようだったけど・・・それでも会いたい、か。切ないねえ、ルック?」
「うるさい。とりあえず、あんたも気、抜かないでよね。」
「はいはい、わーってますよ。」
湊はナナミやチャコ、テレーズと何やら楽しそうに話しているようであった。
ミューズに到着したとたん、チャコはちょっと見てくる、とどこかに飛んで行ってしまった。とりあえず、そのままジョウストンの丘にあがる。そして建物の中に入り奥に進めばジョウイと、この間本拠地にまで来た、軍師だと言っていたレオンがいた。
「ひさしぶり・・・だね、湊、ナナミ。」
「ジョウイ、本当にジョウイなの?元気にしてた?」
ナナミが心配そうに、だけれども嬉しそうに尋ねた。
「ああ、そうさ。名前は変わっちゃったけどね、『ジョウイ・ブライト』・・・・・と。湊、君は元気にしてたかい?」
ルックはひそかに、聞くのは湊だけかよ、などと思っていた。
「・・・うん。」
「良かった・・・。」
そんな中、テレーズが言った。
「これは和議の話しあいということでしたが、とてもそんな準備がされているようには思えませんが、どういうことかしら。」
それに対してレオンが答えた。
「もちろん、これは和議の為の場です。あなたがたが、全面的に降伏する、という形ではありますが。」
「な、何を言っているのですか?それでは、まるで・・・」
「ジョ、ジョウイ・・・どうして、ジョウイ?これは、どういう事?ジョウイはルカ・ブライトを倒す為に、戦いを終わらせる為に、ハイランド軍に入ったんじゃないの!?その為に私たちをおいて・・・」
理解できない、と言った様子のナナミに、ジョウイは辛そうに答えた。
「そうだよ、ナナミ・・・でもね・・・世界は僕らが思っていたほど簡単ではないんだ・・・。・・・湊。お願いだ。ここで僕の前に、ハイランドの軍門に下ってくれ。そうでなければ・・・」
「なんで!なんで!ルカ・ブライトを倒せば、それで・・・」
泣きそうになっているナナミの後をテレーズが続けた。
「それでは、あなたの望みは叶わない、という事ですね。そして・・・断れば、あの弓が一斉に鳴るという事かしら。」
いつの間にやら、周りには弓をかまえた兵士達が取り囲んでいた。
「・・・すまない、湊、ナナミ。僕はハイランド軍の指揮官となり、湊、君は同盟軍のリーダーとなった。今は幼馴染としてではなく、それぞれの立場の人間として君に問う。我々に・・・降伏してくれないか・・・湊。」
「ジョウイ・・・。」
「君を帰すわけにはいかないんだ・・・お願いだ。この戦いは・・・ルカ・ブライトと僕らの戦いじゃない・・・もっと大きなものとの戦いなんだ・・・だから。」
「それは出来ないよ・・・。ねえ、ジョウイ・・・なんか、そんなの、変だよ。なんの為に君はハイランド軍に入ったの・・・?なぜ降伏させようとするの?戦いを避ける為に、逆にハイランド側が降伏するという考えはないんだよね?それって平和の為じゃなくて他の権力者と同じ考えになっちゃうんじゃないの?わ、分からないよっ。」
「頼む。分かってくれとは言わないが・・・君を失いたくない。」
このやりとりをしている中、詩遠はこそっとルックに話しかける。
「ねえ。何この劇。」
「ちょ。劇ってなんだよ。」
「だって、ねぇ。まあ、いいけど。しっかしさすがレオンだね、血も涙もないというか。どうせレオンの入れ知恵なんだろうし。さて、どうする?ルック。なんだったら紋章、ここで使って脱出してもいいけど?」
「・・・最終手段は僕とあんたでそうさせてもらう。とりあえずはまだ、様子を見る。」
「そ。分かった。」
相変わらず断る湊に、レオンが口を開いた。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ