【どうぶつの森】さくら珈琲
14.アニマル3と村荒らし
「1ごう参上! とぅ!」
とまとと買い物に行った帰り、変な人に会った。というか立ちはだかってきた。赤い大きなマスクをかぶっているネコだ。
どうしてわたしの周りのネコは、変わった人が多いんだろう。
1ごうと名乗るネコは後ろに置いてあるラジカセの(自分で録音したと思われる)メロディに合わせて踊り、ポーズを決めた。
「おいらはアニマル3の1ごう! 村を回り悪を裁くために現る!」
いや、いきなりそんなこといわれても。この村は至って平和である。とまとに帰ろうか、と言おうとしたら、彼に向ける目が尊敬のまなざしになっている。初めて特撮アニメを見た男の子みたいだ。
「かっこいいですぅ!」
1ごうも嬉しそうにポーズを決めた。
「だろ!」
「すごーい! ヒーローだぁ!」
「まぁな! おいらたちは村を守る『アニマル3』だ!」
―――……一人しかいないじゃん。
「実は、任務中に仲間とはぐれてしまったんだ! どうか世界を救うと思って助けてくれよ!」
最初からそれが目的で話しかけてきたようだ。でも、単純なとまとはすっかり世界を救うというこの言葉に魅了されている。それにこの1ごうってネコも調子に乗り始めたようだ。
「お前は筋がいいからおいらの弟子にしてやる! 今日から4ごうと呼ぶぞ!」
そういってとまとに黄色のマスクを渡した。とまとはもう大喜び。
無邪気なのは可愛いけど、わたしには夕飯の支度がある。
―――とまと、わたし先に帰ってるよ。夕飯までには帰ってきてね。
「なにいってんだよ5ごう!」
―――へ? 5ごう?
「お前も協力するに決まってるだろ!」
「そうですよぉ! はやく2ごうさんと3ごうさんを探しましょぉ! さくらさ……あ、5ごうさん!」
と当たり前のように黒いマスクを渡された。これをかぶれ、と。しかも何故、黒をチョイスしたんだ。
とまとがこれだけ乗り気だから一応探すけど、「絶対かぶらないから」と念を教えておいた。
「もうリーダー! どこにいたのヨ!」
2ごう―――青いマスクをかぶった、白色のリス―――は、あっさり見つかった。同じように1ごうを探して、村の中をうろうろしていたようだ。
そして、再会したばかりだというのに、1ごうと2ごうは早速仲間割れを始めた。
「怒りたいのはこっちだ1ごう! どうしていつも勝手にいなくなるんだよ!」
「何ヨ! こんなチーム出てってやるんだから!」
どうやらそれほど仲睦まじいチームではないらしい。4ごうであるとまとが一生懸命仲裁に入っている。
そんなことより、まだ3ごうを探さなくてはいけない。大変だなぁ。さっきからわたしは今夜作るビーフシチューのことばかり考えている。あーあ、今日はいつもより早く帰れそうだから、じっくり時間をかけて作ろうと思ったのに。いっそゆでるだけで済むそうめんに変更してしまおうか。
「5ごう! 気が抜けてるぞ!」
―――そりゃわたしは夕飯の支度しないといけないわけだし。そんなにピリピリしなくても、この村は平和だから大丈夫だよ。
「ふっ……お前はな〜〜〜んにも知らないんだなぁ」
と、1ごうは「チッチッチ」と楽しそうに舌でリズムを打った。その頃2ごうはつまらなさそうに尻尾の枝毛をいじっている。
「『村荒らし』って知ってるか?」
1ごうは言った。
「最近流行ってるんだよ。急に村に訪れて荒らしていく連中さ」
―――そんなの初めて聞いたけど。
2ごうもめんどくさそうに説明した。
「最近流行ってるみたいヨ。ま、アタイたちも見たことないんだケドね〜。なんか、『コンコン団』っていう名前のチームみたい」
―――コンコン団?
「なんか怖いですねぇ……」
震える4ごうこととまとに、1ごうは笑って言った。
「恐れるな4ごう! おいらたちがいる限り大丈夫!」
しかし、その笑いは急にかき消された。誰かの泣き声が聞こえたからだ。
「あの声は、3ごう!?」
どう聞いても赤ちゃんの声にしか聞こえないんだけど……。
そしてレッツゴーという掛け声と共に、泣き声の元へと走り出した。ああ、今夜はそうめんだ、とわたしは呆れながら思った。
作品名:【どうぶつの森】さくら珈琲 作家名:夕暮本舗