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【どうぶつの森】さくら珈琲

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17.しゃしん(とまとside)


「あ、ヴィス、そこ開けちゃ……」

 さくらさんが言ったときには、時すでに遅し。ヴィスくんはクローゼットから大量に流れ落ちる何かに押しつぶされる。

「わわっ、ヴィスくん大丈夫!?」

 ヴィスくんのピンチだというのにさくらさんは笑って謝っただけだった。もうっ! 大変なのに!
 ところで、これ、なんだろう? またさくらさんが村の人とやりとりした手紙かな?

「……アルバム?」

 ヴィスくんがふしぎそうに尋ねる。
 何十枚ものどうぶつたちの写真が額に収められていた。この村にはいない人のも、たくさんある。

「さくらさん、まさかそんな趣味が……」
「違うって。この村の慣習でね、とても親しくなった人には自分の写真を渡すんだって。」

 どうりでどの写真も飛びっきりに笑顔のはず。ってことはこんなにたくさんの誰かの信頼を得たってことなんだ。やっぱりさくらさんはすごい人だ。
 ヴィスくんからも、尊敬のまなざしを受けていた。一見無表情に見える彼の微妙な表情の変化にあたしは気づいている。
……ところでこの村に住んでから、あたしのもらったことがある写真は、一枚もない。

「さくらさんどうすれば写真もらえますかぁ!?」
「え、だから親しく……」
「あたし、今すぐ写真がほしいでーす!」

 こうしちゃいられない、あたしもモテる女になってやるんだから!


「バニラ、写真ちょーだい!」

 バニラを見つけてすぐにあたしは叫んだ。バニラは口ごもる。

「なんでくれないのー?」
「え、えっと、それは……」

 こんなに頼んでいるのになかなかくれない。それ、あたしとまだ仲良しじゃないってこと?
 なにそれ、毎日一緒に遊んでるのに! お手伝いだってしてるのに! 親友だって思ってたのに〜!!

「なんでなんでなんでぇ!?」

 バニラは今にも泣き出しそうだ。こうなったら泣いても写真を奪ってやる!
 すると、ぐいっとあたしは誰かに引っ張られた。
 振り向くと、そこにはレベッカ姉さんの姿だ。

「あ、レベッカ姉さんこんにちはぁ」
「何してるのよ!」

 あれ? なんかずいぶん怒ってるみたい……って、レベッカ姉さんはいつも怒りっぽいんだけどさぁ。
 そのままあたしはレベッカ姉さんにどんどん引っ張られていった。小さな体なのに、すごい力だ。
 そうだ、レベッカ姉さんなら!

「姉さん、写真ちょーだい!」
 
 レベッカ姉さんはため息をついた。

「写真ってのは、本当に大切な人にしかあげられないのよ」
「それってあたしが大切じゃないってことですかぁ!?」
「ほら、そういう話になっちゃうわけでしょ。だから、自分から写真を欲しがるのはタブーってワケ」
「たかが写真が?」
「それでもとっても大切なの! 自分の一部をあげるのと同じことなんだからね!」
「じゃぁあたしのと交換ってことで……」

 レベッカ姉さんは「理解するまで話しかけないで!」と去っていってしまった。ケチ! っていうか、あたしそんなにおかしなこと言った?
 たかが一枚の紙切れを、どうしてそんなに大事にするのかあたしには不思議だった。
 村中を回ってみんなに頼んだけど、結局誰一人写真をくれたりはしなかった。
 休憩しようと家に戻ると、さくらさんがすぐに話しかけてきた。

「とまと、聞いたよ。写真をくれって言い回ってるんだって?」
「はいはい、わかってますよぅ。無理に欲しがるなって話でしょぉ〜?」

 あたしがすねてみせると、さくらさんはレベッカ姉さんのようにしつこく続けることはなかった。きっとあたしが聞かないってわかってるから。
 いいよね、さくらさんはジンボウがアツくて!
……うまくいかないんだもん、あたしの場合。しっかりしようと思っても、全然うまくいかない。
 なんだかどんどんつまんない気持ちになって、あたしはもう一度家を飛び出した。

 そして丘の上に走ると「あーあ!」とため息と共に声を出した。
 時々ヴィスくんがさくらさんを見てるのを知ってる。
 あたしには決して見せてくれない、切なくてやさしい顔。
 それに気づくたび……あたしはとっても悲しくて悔しくなる。
 でもあたしは、さくらさんのこときらいじゃないよ。むしろ尊敬してる。しっかりしててかっこいいもん。だけど、ヴィスくんが好きだから、すごく、複雑。
 やっぱり、あたしみたいなドジな子よりさくらさんのような人の方がいいのかなあ。
 村の人たちの態度もどこかよそよそしく感じられる。
 なんで、何もかもうまくいかないの?
 信頼は目に見えないのが辛い。だけど、それが写真一つでそれが叶うなら、何が何でもほしい。
……こんなわがままなあたしって、やっぱりきらわれてるのかなぁ。

 家に帰りづらくてそのままぼーっとしているうちにとうとう日が落ちてしまった。
 収穫はゼロ。
……ああ、レベッカ姉さんを怒らせたままだった。謝らないといけないな。

 信頼が見えてないなら、どうすれば手に入るんだろう。わかるんだろう。
 どうすれば、誰かに好きになってもらえるんだろう?

「レベッカ姉さん、ごめんなさい」

 あたしがそう呟くと、後ろから声がした。

「反省できたみたいね?」

 振り返ると、そこにはレベッカ姉さんの姿があった。
 驚いているあたしの顔を見ると、そっとハンカチで涙をぬぐってくれた。

「これ、渡そうと思ってね」

 そして、ポケットから何を取り出したのか、すぐにわかった。

「写真だ!」

 その、擦り切れた紙を見るなり、あたしはふき出してしまった。

「何よ!」
「だ、だって、レベッカ姉さんっ、ふ、ふふふ……だめ、我慢できない!」

 なんだか、今目の前にいるレベッカ姉さんとは別人みたい。ずいぶん前に撮ったものなのかな?
 目が薄目になってるし、写真慣れしてない感じ。
 あまりにも怒るから、あたしも笑いをこらえながらこう言った。

「大事にしまーす」
「ほんとにもうっ。
 ……アナタたちからしたら、手紙や写真とか、この村の慣習って珍しいかもしれないわね。
 都会の方では、携帯電話ですぐにメールが出来るんでしょう?
 けれどね、あたしたちどうぶつはレトロのなものが好きなのよ。
 データじゃなくて、手に残るもの。検索してすぐ得られるものじゃなくて、掃除のときにふと見つけて、なつかしくなれるもの。
 そういうのがまだ、今のあたしたちは好きなの。それってアナタたちから見てダサいことかしら?」

 あたしはあわてて首を横に振った。
 そして、村に来る前の自分を考えた。ケータイが大好きだった自分。好きなときに連絡をして、誰かとつながっていて、一人をきらっていた自分。
 どうしてあんなにひとりぼっちを嫌がったのだろう。この村ではどんな時でも、誰かの温もりを感じられる。

「本当に大切な人にだけしかあげない写真なんだからね、もう欲しがったりしちゃだめよ」
「ごめんなさぁい……」
「反省したならいいわ。あたしの大切な人はとまとちゃんだもの。カレシよりもね!」

 なんだか涙がまたあふれてきて、思わずレベッカ姉さんに抱きついてしまった。

「暑苦しいわねっ」

 そう言いながら姉さんは不器用にあたしの頭をなでてくれた。