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【どうぶつの森】さくら珈琲

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18.さよならバニラ


 夏の朝はやはり心地が良い。昼間のようなけだるい暑さもなく、過ごしやすい時間だ。
 寝坊しがちのとまとは、今日は珍しく早起きをしてヴィスと釣りデートに行っている。
 さて、いざ一人になると、特に特にやることもないからついつい眠気が……。

「さくらさん」

 誰かが自分の名前を呼んだ気がするけれど、ほとんど夢の中にいるから、たぶん気のせいだろう。

「さくらさん!!」

 どうやら、夢ではなかったらしい。 
 地震かと思うほどの強い振動に、思わず目が覚める。

―――い、いつからいたのバニラ!?
「おじゃましてます、勝手に部屋に入って本当にごめんなさい! どうしましょう、どうしましょうどうしましょう」

 礼儀正しいバニラはあいさつと謝罪を欠かさなかった。しかしそれも早口で済ますほどに、彼女は今までに見たことないくらいパニックに陥っていた。
「どうしましょう」を繰り返しながら、必死にわたしの肩を揺さぶり続ける。あまりにも激しくて、船酔いみたいに気持ち悪くなってきた。
 わたしはバニラから少し距離を置いて、何があったか尋ねることにした。
 しかし、こんなに慌てているバニラを見るのは、彼女の部屋に遊びに行ったときにアレが出たときくらい。
 まあ普段からパスタをゆですぎたとかスズランを枯らしたとかシャンプーとリンスを詰めかえ間違えたとかでちょこちょこ騒いでいるけれど。こうやって人の部屋に勝手に入って揺さぶるほどのパニックは、今までになかった。

「わたし、とっちゃったんです」
――とった? 何を?
「小説の、コンクールにダメモトで応募したら……受賞してしまって。それも……大賞を!」

 しばらく、バニラの言葉の意味をすぐに呑み込めなくて、お互いに無言になってしまった。
 去年買った扇風機の微かな音だけが、部屋に響いていた。
 そして、わたしはやっとこれだけのことが言えた。

――えっ、本当!? 

 バニラはこの現実が逃げてしまわないように、とばかりに早口で告げた。

「何度も何度も確かめたんです。問い合わせたんです。そしたら、わたし、ライム文学賞受賞って……それで、それで……」

 確かそれって、普段あまり本を読まないわたしでも知っている、とても大きな文学賞のことだった。

―――才能が認められたんだよ、おめでとう! 授賞式はいつなの?
「来週で、それで……」
―――すごいよ、本当に! やっぱりバニラはやると思ってたよ。

 しかし、その後に続くバニラの言葉は、ますます信じられないものだった。

「わたし、編集部の近くに引っ越さないといけないみたいで……つまり、都会に行くんです」