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Love of eternity

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君の強さ


1.

「邪魔だ。そこをどけ、アイオリア」
 ぴんと張り詰めた空気に響く、鈴のような声。一触即発といったこの場に居合わせてしまった不幸な雑兵たちは、聖衣を纏わぬその少女のような見た目の持ち主と、少年から青年へと成長期にある二人を見比べた。

 どうみてもアイオリア優勢―――。

 しかし、少女のように繊細に整った顔立ちの少年から、その見た目からは窺い知れないほどの強力な黄金の光の小宇宙が高められていくのを感じ、ただ呆然と震えながら、ある者は腰を抜かし、ある者は仲間を見捨てて逃げ出そうとした。
「そのような雑兵ごときを、何故にかばう必要がある?」
「おまえが拳を向ける必要がないからだろう!?納めろ、シャカ!」
「納めろ?誰に向かってそのような口を聞いているのかね?雑兵諸共、おまえも六道に落ちるかね?」
 一気にシャカの熱量が増していくのを感じ、アイオリアは臨戦態勢に入りながらも、辛抱強く説得を試みる。
「この者達がおまえに何をしたかは知らぬが、女神の下僕でもあるこの者達を、女神の許しなく葬ることはだめだ!」
 アイオリアの後ろでただブルブルと震える愚かな雑兵たちに目を遣りながら、慎重に間合いを計る。
 私闘は禁じられていることは重々承知しているが、この哀れな雑兵を見捨てることなどできなかった。
 一体、この雑兵たちは何を仕出かしたのだろうか。選りによって最も厄介なヤツの怒りを買うなど、自ら殺して下さいと言っているようなものだとアイオリアは思いつつも、偶々通りかかり目撃してしまったものは仕方ない。
 ただでさえ、最近、聖域周辺で怪しげな死体が発見されるといった不穏な事態が起きていたのだ。これ以上聖域を地に貶めるようなことがあってはならないのだとアイオリアは自分なりにシャカと対峙する理由をつけた。
「誰も葬るなどとは言ってはおらぬ。六道に落とし、反省させてやろうというだけではないか」
 整った顔だけに、その冷たい笑みはなんとも言えぬ迫力を見る者に与えた。
「聖闘士でもない、鍛錬もされておらぬ雑兵がおまえの技を受けて、ただで済むわけがないだろう!?」
 最も神に近い男と綽名されるようになったシャカの技を聖闘士でもない者が喰らえば、その先にあるのは「死」しかあるまい。
「さぁ……それはやってみなくてはわからぬだろう。ものは試しという言葉もある。その男たちが、果たして生きて戻れるか、技をかけてみるのも一興ではないか?」
「そんな愚かなことを考えるのはおまえくらいだ!」
 我慢ならぬとばかりにアイオリアがシャカ目掛けて光速の拳を放つ。ふわりと羽が生えたようにシャカは空に舞い上がるとアイオリアの頭上を越え、ぴたりと背中合わせに降り立った。
「!?」
「そこの者、先ほど申していたことを、もう一度、この獅子の前で告げてみよ!」
 ヒッ!と悲鳴を上げながら、許しを請うように地に這い蹲る雑兵の前に、容赦ないシャカの小宇宙が威圧した。
「おい、どういうこと―――」
「申せぬか?申せぬであろうな!申せばこのシャカだけではなく、アイオリアの怒りに触れることは間違いなかろうて!己の申すことに責任を持てぬというのであれば、端から口を慎むが良い!この虚け者たちがっ!」
 ビシッと大地が裂け、雑兵たちはぎゃあと悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「一体、どういうことだ……」
「ふん。馬鹿獅子が知るところではないわ。下らぬ。このようなところで無駄な時間を過ごしてしまったではないか!どう責任をとるつもりかね?」
「どう責任たって……おまえが勝手に怒って、勝手に絡んできただけだろうが?」
「おまえが邪魔をしなければ、私の胸は空いたはず。あのような下賤の輩、この聖域に必要ないわ」
 すいっと方向を180度変えて、黄金に輝く髪を颯爽と靡かせながら、十二宮の方へと歩き出すシャカをアイオリアが追った。
「だから、シャカ。おまえが何故そんなに怒っているのか教えてくれって。俺に関係あることなのか?」
「……」
 スタスタと無言で突き進むシャカの前にアイオリアは踊り出ると、シャカの細い肩を掴む。
「っつ!痛いではないか。離したまえ」
「無視するな!人が聞いたことにちゃんと答えろよ」
「では聞くが。おまえはおまえの兄を愚弄するものを許せるのか?おまえはおまえの友を辱める言葉を聞いて許せるのか!?私は許せぬ。断じて許せぬ!」
「シャカ、おまえ―――」
「わたしを失望させるな、アイオリア」
 呆然とするアイオリアの手を払い、シャカはそのまま十二宮へと続く階段へと姿を消した。


作品名:Love of eternity 作家名:千珠