二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

金色の双璧 【連続モノ】

INDEX|13ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

Scene7 24.手紙


-1-


 実質的には謹慎処分。
 この大事にあって、自分はいったいシャカの何を見ていたのかと我ながら呆れ果て、ぼんやりと自宮でアイオリアは過ごす。ただ無意味に時間だけが浪費されていくような時を過ごすのは苦手だった。
 同じことばかり繰り返し悩んでは一応の結論を導いても、またそれが果たして正しいことなのか、間違ってはいないだろうかといった調子だった。
 まるで、嵌らないパズルのピースをどうやって嵌めようか悩んでいるかのような気がした。

 ―――大切な事ほど、シャカは隠すというのに。

 何度目かの溜息を零しながら、また同じことを考える。
 シャカは己の意思を揺ぎ無いものとするために、あえて他人との接触を避けるところが昔からある。いまは個人的なことをどうこう言っている場合ではないことを百も承知していたが、やはりシャカの鉄面皮から心情を窺うことができなかった自分への悔しさと、水臭いシャカに対しての苛立ちが沸き起こるのだ。

 ―――これではまるで聖戦の時と同じではないか。

 シャカの聖戦前の行動。彼はあの時、一切の交流を絶っていた。厭なことを思い出してしまい、ブンブンと大きく頭を振った。

 ―――あの時とは違う。
 同じ過ちを繰り返したりはしない。
 今度こそ、手を拱いたりはしない。

 そう、己を叱咤するようにアイオリアはぐっと拳を握り、腹底に力を入れた。
「―――邪魔するぞ?」
「兄さん・・・ノックぐらいして下さい」
 音もなく背後からかけられた声に顔だけを向け、アイオリアは顰め面でアイオロスを出迎えた。
「あ、悪い。・・・“コンコン”これでいいか?」
「口で言わないでください」
 脱力するアイオリアにアイオロスは邪気のない笑顔を浮かべ正面の椅子に座ると、すっと真顔になった。
「教皇からの言伝だ。アイオリア、おまえは獅子宮の守護に当たれとのことだ」
「兄さん・・それは・・・」
「シャカの元にはシュラ、そしてデスマスクにアフロディーテが向かった。小宇宙の質的な問題だ。・・・抑えるべくは大地の揺らぎと水の暴走。そして聖域においては火と風が禍となるのだと星が告げているそうだ。ジャミールには老師とミロ、アルデバランが向かった。残る者たち・・つまり俺とおまえ、サガに教皇・・・その他の聖闘士たちが聖域を守る」
「ジャミールも守るのですか?」
「当然だ。前々聖戦ではあそこが決戦の地だったのだから。必ず奴らはそこを軸に動くだろう・・・亡者たちもウヨウヨいるから雑兵にするにはもってこいの場所だしな」
「ムウが飼い慣らしているんじゃないのですか?」
「飼い慣らす・・・多少語弊があるようだな。おまえ、あいつと馬が合わないのか?」
「別に・・・まぁ意見でぶつかることはよくありますけど」
 実際はぶつかりまくりだなぁと思いつつ、「人類皆兄弟」をスローガンにしている節のある兄に面と向かって「ムウは苦手」などと言おうものなら、余計な説教を喰らうのは目に見えているのでわざとらしく目を逸らし誤魔化すアイオリアであった。
「ま、どっちにしろおまえはシャカには当分会えんということを覚悟しておけ。・・・俺はあとでインドまで様子を見に行く予定だから、なんだったら・・・手紙渡してやるぞ。いや、書くべきだな。一時間後にもう一度ここへ来るから、ちゃんと書けよ?」
 言うだけ言うと、アイオロスはすっと姿を消した。この兄には瞬間移動禁止という文字は存在しないらしい。
「あ・・・ちょっと兄さん!・・・・まったく、返事もしてないというのに」
 さっさとその場から姿を消した兄に向かってぼやいてみせながら、う〜んとアイオリアは両手を組んで考え込んだ。
「手紙・・・ねぇ」
 何を書けというのか。いや、何を書くべきなのかわからず、ウンウン唸り声をあげる。
「こういうのは・・・苦手だ・・・」
 面と向かってちゃんと話すほうが好きだとアイオリアは思うのだ。字も汚ければ、おおよそ気の利いた言葉など浮かぶはずもない。元気か、とか天気はどうだ?とか書くのも間抜けているし・・・かといって、思うことをつらつらと遜色なく文章化することなど、それこそアイオリアからすれば神業ともいえることである。
 大体、報告書を提出しろといわれて一度たりとて出した試しなどないのだから。
 全部、口頭で伝えていたのだ。好んで本を読んだりはしないが、読むこと自体はそれほど苦痛ではない。書くのが大の苦手というタイプの文章アレルギーである。
 そんな自分に手紙を書けなどと命じられ、アイオリアはこれはひょっとするとアイオロスなりの嫌がらせなのかもしれないと思うのだった。

「できたか?・・・何だか、ひどく消耗してないか、おまえ?」
 一時間と一寸過ぎた頃、ひょっこりアイオロスは姿を現し、机の上で屍と化している弟に声をかけた。アイオリアの周囲には紙屑の山である。
 すると顔を上げることもなくアイオリアは指に挟んだ封書をひょいとアイオロスに掲げた。
「へぇ・・・本当に書いたのか。愛の力は恐るべし」
「・・・・うるさい、です。おかげでこっちは小宇宙を使い果たしました・・・」
 はははっと陽気にアイオロスは笑いながら、屍同然の弟の指から手紙を取ろうとした。が、アイオリアはそれをサッと引っ込めるとムクリと顔を上げたのだった。
「・・・絶〜〜〜対、勝手に読んだりしないで下さいよ?」
「読まない、読まない。俺を信用しろよ」
 にやにやと笑うアイオロスを胡散臭そうにアイオリアは眇め見る。
「絶対ですよ。アテナに誓ってください」
「・・・本当に信用ないのだな。兄は悲しい・・・」
 しくしくと泣く振りをするアイオロスを呆れたようにアイオリアは見ると、「絶対ちゃんとあいつに渡してくださいね」と念を押してようやく手紙をアイオロスに預けたのだった。


作品名:金色の双璧 【連続モノ】 作家名:千珠