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比翼連理

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28. 天ノ罠

 
-1-

 ――――時はムウがシャカを追って光の防壁に阻まれた頃に遡る。

 静寂のしじまに揺れる、凝縮された眩しいばかりの光球が空中に浮かんでいた。その光球を見守るひとつの影があった。
「絶対防壁の卵、か」
 柔らかな陽の光にも似た髪をかき上げ呟くのはシャカを連れ去ったヘリオスである。陶然と光球を見つめながらヘリオスは光球の中で眠る尊き命に想いを巡らしていた。

 ―――孵化の瞬間はもうすぐ訪れる。
 ―――殻を破り出てくるのは白き翼を持つ者となるか、黒き翼を持つ者となるか。

 先刻現れたプロメテウスが光球の中に消えてどれほどの時間が過ぎたのだろうとヘリオスは思う。それは瞬きほどの時間でもあり、悠久のようでもあった。
 戦いの果てに散っていった神族たちの魂が集まる場所と連動するように輝きを増す美しい光を見つめながらヘリオスはプロメテウスが戻るのを待った。
「一体どれだけの命が……果てたのだろう」
 ぼそりと誰に言うでもなくヘリオスは呟いた。
 何も知らぬまま理想郷を得ようと戦い続ける血族たちをとても哀れだと思う。いや、欲に駆られた血族たちが愚かなのかもしれない。
 そしてプロメテウスを貶めた当然の報いでもあるのだと、ヘリオスは皮肉っぽく笑った。
 唯一プロメテウスの企てを知っていたのは絶対防壁を紡ぐことのできる己と戦いの最後の砦となるであろう、父ヒュペリオンのみだった。
 父であるヒュペリオンはその企てを聞いたのち「彼が望む未来には邪魔な存在ともいえる者たちの排除であるとともに、これはプロメテウスの復讐でもあるのだろう」と言っていた。

 ―――オリンポスの神々、そしてティターンの神々に向けての復讐。

 哀れな彼の母親もペルセフォネの力による傷を癒される前に、光の滴と化して二度と再生叶わぬように他の魂と融合させられた。
 遠い過去にゼウスからプロメテウスが奪い取った『天球』に。
 神々の魂が集められた球……『天球』は恐ろしいほど巨大に膨れ上がっているのがヘリオスにはわかる。
 恒星ほどの光と熱量となった光の球は『天球』の大きさと熱量を反映するように仕掛けられていたから。『天球』はゼウスがすべてを支配するために秘密裏に創造されていたものだった。人間はもちろん、神々のすべてを支配する力を得るために創造された『天球』。
 その存在を遠い過去に知ったプロメテウスはすぐさま破壊を試みたらしい。しかし、それは失敗に終わったということだった。
 あれを破壊するためには『破壊者』の力が必要なのだといっていた。だがその存在は諸刃の剣だとも。
 『天球』を破壊するということはつまるところ、『天球』の力を『支配』するということでもあり、その強大な力を持ち得る存在はある意味、脅威の存在でもあるということだった。
 その力を持つ者自身が望まなくとも、その力を欲する者は大勢いるのだと。
「もしも破壊者が現れなければ、ゼウスひとりが強大な力を得ることとなり、力を得たゼウスは人間を滅ぼし、神々を従わせるだろう。だが破壊者が現れ、『天球』を破壊した場合、未来はいくつかに分岐する。破壊者自身がその力を制御できず、暴走する危険性も極めて高い。制御できたとしてもゼウスのように君臨しようとする恐れもある。ゼウスの力を阻止できたとしても破壊者を得るために四界の統治者が奪い合いの醜い争いを起こし、世界は混沌と化すかもしれない。だが、それでも……人間には希望が残る」
 プロメテウスは確信に近い予言をヘリオスにそう告げたのだった。
 またもう一つ、破壊者自身の力が『天球』の力と共に消滅した場合は平和に解決する可能性もあるのだとプロメテウスはカウカソスの山に繋がれる前、ヘリオスに打ち明けてくれたのだった。
 プロメテウスがゼウスから奪い取った『天球』を破壊することのできる存在を、知ることができたのはカウカソスの山に繋がれる少し前だったらしい。だが、その存在がペルセフォネだとは思いもよらないことだったようだ。
 やがてペルセフォネが破壊者なのだとプロメテウスが確信したその時には、もうその魂の存在さえ危うい時だったのだと。しかし彼の先見の力はペルセフォネの再来を告げていた。
 それはまさしくそのとおりになったのだと、今の状況を見れば言えることだ。プロメテウスが視た未来はいくつかの危険性とともに可能性をも秘めている。
 ひとつだった未来はプロメテウスが介入したことで、さまざまな変化を遂げたのだろう。
 ペルセフォネが破壊の力を得られなければ、神々にも人間にも災厄が訪れる危険性。ペルセフォネ自身が暴走し、災厄となる危険性。ペルセフォネが『天球』を破壊したのちに訪れる四界の争い、人間には希望が残る可能性。
 そして、ペルセフォネが『天球』とともに消失し、世界に平和が訪れる可能性。
 この殻を破ることができなければ、それは『天球』の破壊が失敗したことを意味し、災厄の時が訪れる。ゼウスが望む未来であり、プロメテウスが望まぬ未来。
 またペルセフォネ自身が災厄となることも恐らく望んでいないことだろうと思う。
 そして残る二つのうち、どれかがプロメテウスが望む未来なのだろう。
「でも……どれも君が望むほんとうの未来ではないよね」
 プロメテウスがほんとうに望むのはペルセフォネと共にあれることのはずだとヘリオスは思ったのだ。
 消えていくティターンの魂の数を数えながら、オリュンポスの神々と人間の気配が少しずつ迫るのを感じ取ったヘリオスがプロメテウスに伝えようと思ったその瞬間、光の壁が揺らいだ。



作品名:比翼連理 作家名:千珠