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町内ライダー

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その11


 道の先に、小さな人だかりが出来ている。その中にいる男の顔を見て、五代雄介は、三百五十ミリリットル入の炭酸飲料を五本連続で一気に飲み干した後のような顔をした。
 彼は今店の買い物の途中なのだ。なるべく関わり合いにならないように。脇を通り抜けようとするが、それは叶わなかった。彼が避けようとしていた男の目敏さは異常だった。
「待て、五代雄介! この俺の前を挨拶もなく素通りしようというのか!」
「あの……俺、仕事中なんで、急いでるんで」
「俺はボランティアにおいても頂点に立つ男だ。その俺に募金をせずに素通りするとは許せん!」
 そう。その青年、神代剣は、他のスタッフと揃いの黄色い化繊のジャンバーを白いタキシードの上から羽織り、首から紐の付いた箱を下げていた。
 何でこんな所でこんな事をしているのか。それは愚問なのかもしれない。ある意味この行動力には敬服する。
「……何の募金ですか?」
「何の、とは、どういう事だ」
「いや普通、募金って、何か目的があって集めるじゃないですか」
 車椅子や介護カーなどの寄贈、災害義捐金、などなど。普通は募金には目的がある。
 別に募金をしたくないという訳ではない。ただ、募金箱に印字されている募金の名称が、『たすけあい募金』という使途不明の名前だった。
 五代は募金する前に、募金がどのような使途で利用されるのかを確認したかっただけなのだが、応じた神代は戸惑ったように眉根を寄せ、困惑した顔を見せた。
「…………まさか、とは思いますが、どういう募金なのか分からないでボランティアを?」
「そそそ、そんな小さな事は、きき、貴族は、気にしないものだ!」
「……まぁいいんですけどね」
 言って五代は財布を取り出すと、五百円玉を取り出して神代が提げた箱へと入れた。
 横で他のスタッフが、交通事故で親を失った恵まれない子供達の為に、と声を張り上げ呼びかけている。そういう事なら、出来る範囲でも力になってあげたい。
「おおお! 五代、でかした! 感謝するぞ!」
「どうしたしまして。それじゃ俺はこれで」
 神代がぱっと顔を輝かせたのを見て、五代も嬉しくなって微笑んだ。マイペースで人の話を聞かないが、神代は多分悪い奴ではない。目的を把握していないのはどうかと思ったが、募金活動も彼なりに精一杯なのだろう事は伝わる。相手をするのは疲れるが、決して嫌いではなかった。
 だが、ここでそんな神代の一生懸命さに笑いをこぼさなければ良かった、などと後悔する事になろうとは。
「……お前、今、弟を笑ったな?」
 神代の後ろからぬっと現れた男は異様だった。右袖を切って肩を出した黒い皮のロングコート。ネックレスを幾重にもじゃらじゃらとつけている。歩く度に、ブーツの拍車ががちゃりと音を立てた。その彼が何で、首から募金箱を提げているのか。
「俺も笑ってもらおうか!」
 俯いて上目遣いに睨まれ凄まれるが、五代には何とも答えようがない。
「……神代さんのお兄さんですか?」
「いや違う。俺の兄弟は、今は亡き美しい姉上ただ一人だ。こいつらは地獄の住人」
「はぁ……地獄、ですか……」
 何で地獄の住人がボランティア活動に精を出しているのかは、謎という他ない。
 とりあえずそんな事は今は問題ではない。問題は、この異相の男が、五代が笑いかけた対象を勘違いしているらしい、という事だった。
「あの、俺、神代さんに笑ったんで、決してあなたの弟さんを笑ったわけじゃ……」
「……兄貴ぃ、あいつにも、地獄を見せてやろうよ」
 五代の説明を遮り、神代の後ろの男の後ろから、更に異相がもう一人現れた。今度は左袖を切り落とした黒い皮コートに赤いシャツ、やはりネックレスをじゃらじゃらとぶら下げ、前髪を長く伸ばした白い顔には傷跡が刻まれていた。そして何故か彼も募金箱を首から提げている。どうやら彼が問題の弟らしかった。
 嫌な予感がした。彼等も、神代同様、通常の会話が通用しない相手ではないのか?
 無言でにじり寄ってくる二人から距離を取ろうとして、五代も何歩か後退った。
 こういう時は、無用な争いは避けるべき。三十六計逃げるに如かずだ。
 だが、五代が踵を返すと、その進路を、頬に笑いを貼りつけた通行人達が遮った。
「……!?」
「……お前は、仲間じゃなかったのか」
 後ろから、片袖コートの男の声が追い掛けてきた。
 仲間、とはどういうことだろう? 五代は状況もよく分からないまま、貼りついた笑いに包囲されていた。包囲は徐々に狭まっていく。
「いい加減に正体を現せ、ワーム共!」
 神代の声も上がる。正体? ワーム? 何が何だかさっぱりだった。
「五代よ、引き留めて悪い事をした。だがお前は、この剣に誓って、俺が守ってやろう」
 神代剣はいつの間にか、黄色いスタッフジャンバーを脱ぎ捨てて、その右手に長剣を構えていた。どこからか蠍のような機械が這ってきて、剣の柄に納まる。
「変身!」
『Henshin』
 神代が宣言すると、彼の体はハニカム模様の何かに覆われていき、あっという間に全身が紫と橙を基調とした鎧のようなものに覆い隠された。
 それに呼応するかのように、周囲の人たちの姿が変わる。皮がずるりと剥けた、とでも言えばいいのか。人間ではないものが、何でもない人達の皮を脱ぎ捨てて現れた。
 ずんぐりした頭部を持ったそれらは、ぬめった緑色をしている。芋虫か蛹をどことなく連想させた。
「やっと出てきたね、兄貴」
「ああ……あいつ等も、地獄に来てもらおうかぁ! 変身!」
「変身」
『Henshin――Change KickHopper』
『Henshin――Change PunchHopper』
 電子音声が上がる。振り向くと、そこには緑と銀のメタリックなプロテクターで全身を包んだ男が二人、立っていた。
「全てのワームは、俺が倒す!」
 叫んで、神代が駆け出した。五代を守るという誓いはどこに行ったのか。緑色の怪物たちは、容赦なく五代も標的に定めて襲い来る。
 背に腹は替えられない。
「変身!」
 簡単に構えを取って叫び、五代はその姿を赤のクウガへと変えた。飛び掛かってきた蛹のような虫のような怪物の拳を躱して、パンチを叩き込む。
 神代は長剣で、銀色はパンチで、緑はキックで、それぞれに怪物を叩き伏せていく。戦い慣れたその様子に感心しながら、五代は怪物の攻撃を躱していた。
 やがて、怪物のうち二三匹の様子が変わった。ふいごにかけたように赤銅色を帯びたかと思うと、膨れ上がり皮が砕け、姿を変える。
「いかん、脱皮か! 五代逃げろ!」
 神代が叫ぶが、逃げられるものならばとうに逃げている。五代は囲まれていて、緑の怪物の攻撃を躱すだけで手一杯なのだ。
『Cast Off, Change Scorpion』
 電子音声が鳴り響き、神代の体を覆っていた鎧が一部分、体から切り離されて、高速で飛散して彼の周囲の怪物を弾き飛ばした。
 脱皮、したのだろう。姿が変わり、刺々しく頭身が高くなった異形が、突然ふっと姿を消した。消えた、と思うか思わないかのうちに、赤のクウガは何かに強く殴り付けられていた。
「うわあっ!」
「五代!」
『Clock Up』
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ