二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

町内ライダー

INDEX|62ページ/72ページ|

次のページ前のページ
 

その17


「翔太郎くん、翔太郎くん、事件よ事件! 金よ、金の匂いよ!」
 けたたましくドアを開けて駆け込んできたのは、所長・鳴海亜樹子。奥のデスクで新聞に目を通していた翔太郎は、思い切り顔を顰めて騒音の主を見やった。
「何だ亜樹子、うるせぇぞ。事件なのは分かったからもうちょっと落ち着いて話せねぇのか」
「何おぅ、それもこれもあんたがちゃんと仕事探してこないからでしょ、何呑気に新聞なんか読んでんのよ!」
「あのセンスの欠片もねぇビラなら毎日頑張って撒いてんだろ。寧ろ問題はあのビラのクォリティじゃねえのか? 十年前のパソコン教室じゃねえんだぞ、ハートなんか飛ばしてないでもっとハードボイルドにだな……」
「二人とも少し落ち着きたまえ、おちおち本も読めやしない。亜樹ちゃん、事件って何だい?」
 果てしなく広がっていきそうな応酬を、奥のベッドに寝そべって白紙の頁を繰っていたフィリップが嗜める。勢いを削がれて翔太郎は肩を竦めて口を閉ざして、フィリップに目線を移した亜樹子が口を開き始めた。
「うん、あのね、最近急に増えたって話なんだけど、この近くで、妖怪が出るらしいの」
「…………は?」
 妖怪。そんな単語を突然口にされても、反応に困る。翔太郎は、それこそぬらりひょんでも見たような不審げな表情で亜樹子を見たが、フィリップに話し掛けている亜樹子には無視される。
「あっ、信じらんないよね、そんなのいるなんて。でも、見たっていう人がもう十人以上いんのよ。何かねえ、河童だって河童」
「……それで、それを俺らにも信じろってか? 河童に胡瓜でもやりゃあいいのか?」
 一欠片も信じていない事がありありと伝わる目線を向けて、翔太郎がまた横から口を出すと、亜樹子は業を煮やしたのか、憤然と翔太郎へと向き直った。
「うっさいわね、あたしはフィリップくんに話してんのよ。河童みたいなアホ面でポカーンとしてる暇があるなら、ビラでも撒いて依頼の一件も持ってきなさいよ」
「か……おいコラ亜樹子、俺のこのファニーでありながらハードな男の厳しさも併せ持った渋いフェイスのどこが河童だってんだ!」
「何が渋いよ、自分で言ってりゃ世話ないわ。あんたのそのアヒル口とか超河童っぽい。一緒に胡瓜でも齧ってればいいんじゃない、味噌位はつけてあげるわよ」
「んだとこの、黙って聞いてりゃ好き勝手抜かしやがって! お前だってどことなくアルパカとかサバンナの草食動物っぽいと思ってんのに口に出さない俺の優しさが通じねえのかお前には!」
「んなもん通じるか、っていうか言ってんじゃん! 河童の分際で!」
「にゃにおう!」
 又も際限のない応酬が始まろうとする。フィリップは仕方がないと言いたげに深く息を吐くと、開いた本をばたりと音を立てて、強く閉じた。
「二人ともストップだ。鳴海探偵事務所始まって以来の危機に、肝心の所長と探偵がそれじゃどうしようもない」
 大きな音で意識がフィリップに向いた二人は、続いた一言にはっとして項垂れた。
 確かに今は、鳴海探偵事務所が始まって以来(正確には鳴海荘吉を失った直後以来二度目)の経済的危機だった。
 地道な広報活動は行っているものの、探偵の仕事は信用が命。腕や依頼に対する誠実な対応が積み重なって、実績が出来ていく。彼等は今まで彼等の庭たる風都で築いた信頼や情報網を全て失っていた。一から築くのは、そう容易ではない。故に、ペット探しや浮気調査の仕事すらそうそう舞い込んではこない、非常に厳しい状況に置かれていた。
「で、亜樹ちゃん。河童を探しても、直接探偵の仕事に結び付くとは思えないんだが、君の狙いは一体何だい?」
「えっ、だって河童よ河童。見つけたら大騒ぎよ。もしかしたらマスコミとかが情報を高く買ってくれるかもしれないし、テレビとか雑誌とかの取材が来てあたしは有名人、事務所の知名度だって鰻登りだよ。あたしは美貌に目を付けられてスカウトされちゃったりしてさ」
「それは有り得ないから安心しろ、それだけは断言できる」
「ぬぁんですって! ……まあいいわ、お父さんが遺してくれた事務所の危機なんだから、河童もどきの妄言は放っておいて」
「おい、お前あんまり調子乗り過ぎんなよ亜樹子!」
 摘んでも摘んでも応酬の芽は尽きない。睨み合う翔太郎と亜樹子を眺めて、フィリップは軽く笑いを漏らした。
「いつもの事だが騒々しいな。まあいい、亜樹ちゃんの案、中々面白そうじゃないか。僕も河童なる生物が実在するかについては、大いに興味がある」
「フィリップ……お前まで」
「まあそうむくれないで。もしかしたらライダー絡みかもしれないし、どうせ他にする事なんてビラ配り位だろう? それに、気になる事がある」
「気になる事?」
「最近この近辺で、行方不明事件が増えている。もしかすると、何か関係があるかも」
 フィリップの言葉にやや冷静さを取り戻して、翔太郎は顎に人差し指を当てると、ふむと軽く唸った。確かに行方不明は相次いでいる。まさか妖怪に関係があるとは考えなかったが、ライダー絡みなら有り得ない話でもない。ドーパントだって、妖怪みたいなものと言えなくもない。
「とにかく、河童というだけではキーワードが足りなすぎるから、しっかり情報を集めてくれたまえ、探偵さん」
 フィリップに諭されて、探偵事務所の大黒柱は、河童に似ていると評判の口を尖らせ突き出して、不平不満を面に浮かべつつも、不承不承頷いたのだった。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ