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町内ライダー

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その18


 オリエンタルな味と香りの喫茶店・ポレポレ。こだわりのカレーが密かに高い評価を受けている、隠れた名店である。
 ここに何故か、生まれ育った環境も性格も様々な男達が集っていた。狭い店内は男達で埋まり、何かしらの熱気が匂い立っているようにも思える。
 ここに集った彼らの共通点はただ一つ。
「いいよなぁ……お前らは……」
 店の奥まった席に弟こと影山瞬と隣り合って腰掛けているのは、矢車想。相変わらずの死んだ魚のような目で、店内をぐるりと見回した。
「そんな事全然ないですよ……俺達も矢車さんと同じです。だからここにいるんです」
「翔一さん……そうですよ、この苦しみは一人だけのものじゃない……! 俺たち皆のものです!」
 カウンターに腰掛けた翔一の肩に手を置いて、五代が力強く頷く。
「……それはいいんですが、何で僕までこんな所に……大体こんな集まりは、非生産的極まりないんですが」
「それは言わない約束だぜ刑事さん……あんたもアレだろ、当てがないんだろ?」
「なっ、失礼な! 当てくらいあります、僕は津上さんに無理やり引っ張られてきただけです! こう見えても僕はですね……!」
「まあまあ氷川さん、落ち着いて下さい。分かってるんですよ……氷川さん絶対あのタイプだって」
 翔一の隣で苦り切った顔をした氷川誠に、窓際の席で物憂げに外を眺めつつコーヒーを啜る翔太郎が声をかける。大人気なく椅子から腰を浮かせて反論を始めた氷川を、翔一が窘めた。
「あのタイプとは何ですあのタイプとは、人を見透かしたような事を言わないでください!」
「氷川さんアレですよね、『いい人なんだけど』って、語尾に『けど』が付くタイプ」
「…………!」
 翔一の指摘があまりにも図星すぎたのか、氷川は驚愕で引き攣った顔のまま暫くぱくぱくと口を動かした後に、やや泣き出しそうな顔を見せて、がっくりと項垂れた。
「あー……何か分かるなぁ。お兄さんそういう感じだよねえ。ってそういう津上先生も同じ系統?」
「あははは、やっぱバレました? ははははは……はは…………は」
 ヒビキに指摘され、笑い声も次第に勢いを失って、翔一はがくりと肩を落とした。
「何でもいい、早く食わせろよ……イライラするんだよ」
「えっ……今日ってそういう集まりなの?」
 何故かいる浅倉威の横に空席の都合上座らざるを得なくなった白井虎太郎が、思わず小声でツッコミを入れる。
「翔太郎、知っているかい? カカオ豆の生産は主に西アフリカで行われ、最大の産地はガーナ。赤道付近で広く栽培されていて、産地によって品種や味、香りが大きく異なるんだ。現在世界で最も多く生産されているのはフォラステロ種、全体の実に八割を占める生産量を誇るんだよ。だがその栽培は、年端もいかない子供達の労働力によって支えられているという現実があるんだ……」
「何の話をしてるんだよフィリップ……それが現実なのは分かるが超盛り下がるなその話題」
 仕入れた知識を早速披露するフィリップを翔太郎が嗜めるが、側でそのやりとりを耳にした剣崎が顔色を変え、唸る。
「子供が……子供が可哀想だ! こんなイベントは間違ってるんだ……俺は戦うぞ、戦えない全ての人達の為に!」
「剣崎さん、それ、繋がってるようで全然繋がってないですよ……」
「いや、分かるぞ、俺は分かるぞ剣崎! そんなの間違ってるんだ! こんなイベント、悲しみを生み出してるだけなんだ!」
 渡のツッコミも虚しい、城戸が剣崎に同調し男泣き。背後で沸き起こった意味不明の盛り上がりにとうとう耐え切れなくなったのか、乾巧は拳でテーブルを打った。
「…………だあーっ! 何で俺がこんな辛気臭ぇ所にいなきゃいけねえんだよ!」
「だって乾くん、君も俺達と同じだから……」
「木場ぁ……俺はな、お前の事は嫌いじゃない、嫌いじゃないが……一緒にすんな!」
「往生際が悪いよたっくん。もう諦めようよ」
「そうだよ乾くん。君は俺達の中では、一番ここに相応しいんじゃないかなぁ?」
「うっせえぞ草加、お前に言われたくないっつうんだよ!」
 この沈鬱な雰囲気の中でも草加の笑顔に宿る乾巧への悪意は一点の曇りもない。
 彼は純粋な人なのよ、とララァなら言ってくれるだろうか。ベクトルがどうであれ。
「ホントに俺……何でこんな所にいるんだろう……何かおかしいよこれ」
「もう諦めましょう……ここはここでほら、人が一杯いて、楽しいですし」
 もはや諦め悟った面持ちの良太郎が、嘆息する加賀美の肩を叩いた。加賀美もこんな場所に参加せずに済む別世界の物語を持っているが、それを彼が知る事はない。
「ところで津上さん……何で君は僕は引っ張ってくるのに葦原さんは連れてこないんですか」
「あれ? 知りませんでした? 葦原さんって超モテるんですよ」
「…………!」
 再び自分から地雷を踏み、氷川は受けたダメージのあまりの大きさに轟沈自爆する。
 喧々囂々、百家争鳴、呉越同舟。ばらばらに雑談を積み重ねる彼らには、共通の、とある悲しみがあった。
 読者諸賢は既にお気付きの事と思う。この集まりは、二月十四日に開催されている残念会。ある共通の残念な点を持つ者たちが、知り合いを誘い合い集まった。
 聖バレンタインがローマで信仰の為に迫害に耐え抜いてついに斃死した事を悲しみ偲ぶ会、ではない。
 リア充爆発しろというフラストレーションを(浅倉以外が)ぶつけ合って、おいしいカレーでも食べて元気出そうぜ、という会だった。
 そこにあるのはただ悲しみ、集った面々があまりにも残念すぎる、という悲しみ。
 そう、彼らのただ一つの共通点とは、『バレンタインデーに本命チョコを貰う当ても見込みもない』事だった。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ