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町内ライダー

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その19


 白く鋭い日差しが、全面ガラスの入り口から店内を照らしている。目をやると外の景色は眩しく、巧は軽く目を細めてから、手元の週刊漫画雑誌に目線を戻した。
 今日も暑い一日になりそうだった。冷ます必要のない食事が増えるのは有難かったが、暑さはそう得意ではない。ガラスの向こうに目をやった時にはアスファルトから軽く陽炎が立ち上っていたから、巧は憂鬱になって溜息を吐いた。
 奥から、忙しない足音が二人分近付いてくる。
「巧、この前みたいに居眠りしないでね、行ってきまーす」
「たっくん、僕も配達行ってくるから、居眠りしないでよ」
「うっせえな、分かってるっつうの、二人ともとっとと行け」
 巧が座る横を通り抜けて、啓太郎と真理がカウンターの外へと出て巧に声をかけた。
 軽く舌打ちして返事を返すと、啓太郎も真理も見透かしたように余裕の笑みを浮かべた。
 面白くないが、非は己にあった、誤魔化しようがない。巧が眉根を寄せ顔を顰めると、入り口の引き戸が開いた。
「いらっしゃいま……………………」
「えっ……」
 カウンターの前に立っていた啓太郎と真理は来訪した客に向き直って、言葉を失った。
 二人が邪魔で客の姿は巧には見えない。
「あの……クリーニングを、お願いしたいのですが?」
 声に、聞き覚えがあった。忘れようとして忘れられる声ではない。まさか。
 巧は立ち上がり、カウンターから出て、啓太郎を軽く押しのけて客の顔を見た。
「……お前…………」
 巧までもが絶句し、客は明らかな困惑を面に浮かべた。そこに、足音がもう一つ近付いてくる。
 これはまずい、もしかしてとてもまずいのではないだろうか。こんな所でこの客(?)と彼が顔を合わせれば、どんな惨事になる事か。
 やがて廊下から姿を現した草加が、立ち尽くす三人を怪訝そうに見やった。
「君たち、一体何をしているんだ? そこを通りたいんだが」
「あっ、おっ、お……お客さん、がさほら……」
「お客様なら、三人でそんな所に突っ立っていないで早く対応したらどうなんだ? 失礼だろう」
 啓太郎が誤魔化そうとするが、全く何もカバーできていない。草加は再び歩き出すと、啓太郎の肩を押しのけて通り抜けようとしたが、すぐに足を止めた。
「……きっ……き、き、貴様…………一体どの面下げて、ここへ、来たあっ!」
 目を見開き、草加は怒りに震えていた。その気持はよく分かるが、巻き添えを食いたくはない。三人はそっと足音を立てずに、じりじりと後退った。
「全く……これが客に対する態度ですか。君たちは、先程から何を言っているんですか? 私を誰かと勘違いしているのではないですか?」
「貴様の顔を、見誤る筈があるか、琢磨ああぁっ!」
 草加の絶叫が狭い室内に響き渡った。草加が激昂するのも無理はない。どういう訳かラッキークローバーの一員・琢磨が、スーツ姿で衣服が入っていると思しき大きな袋を持ってそこに立っていたのだ。髪が少し長いし眼鏡をかけていないが、どこからどう見ても琢磨その人だった。
 溢れる怒りを押さえきれないのか、歯を食いしばって草加は琢磨らしき男の襟首を鷲掴み、掴みかかった。
「うわっ、何をする、暴力は……」
「黙れ! 貴様は俺が殺してやる、呑気にクリーニングなんて出しに来た事を後悔しろ!」
「ちょっと、待って下さい、たくまとは、誰、なんですか! 私の名前、は、北條、透です!」
「まだそんな嘘を!」
 ワイシャツの襟元を掴まれて、琢磨らしき男は息苦しそうに切れ切れの言葉を発したが、草加が聞く耳を持つ筈がない。
 どうも様子がおかしいと察知した啓太郎と真理が、草加を抑えにかかった。
「ちょっと待って草加さん、この人嘘吐いてないんじゃない、落ち着いて!」
「そうだよ草加くん、こんな所でやめて!」
 真理の言葉が決め手になったのか、草加は大きく音を立てて舌打ちしながら、男の首元から漸く手を離した。
 一頻り咳き込んだ後で、『ほうじょうとおる』と名乗った男は襟元を整えながら、鋭い視線で草加を睨み付けた。
「……一体、何なんですか君は。初めて顔を合わせた人間に襟首を掴まれるような覚えはありませんよ」
「貴様が琢磨ではないという証拠がない、琢磨なら俺に殺されて当然の相手だ」
「穏やかじゃありませんね。いいでしょう」
 北條は面白くなさそうに顎を持ち上げて、手に提げた大きな袋を床に置くと、懐から何かを取り出して開き、示してみせた。
 それは所謂警察手帳で、顔写真も本人の物、名前欄には「北條透」の文字が印刷されていた。
「何なら問い合せて頂いても結構ですし、私を知る人間をここに呼んでも構いません。一方的に勘違いされて暴力を振るわれたままでは私の腹の虫も収まりません」
「あっ、あの、草加くんがすいませんでした、でも……大嫌いな人と凄く似てて、別の人だなんて全然分からない位似てて……草加くんが我慢できなかった気持ちも、あたし分かるんです、でもすいませんでした、許してください」
 警察手帳を見て不愉快そうに横を向いた草加に代わって、真理が何度も頭を下げながら、必死に北條に詫びる。それを見て啓太郎も真理に倣い、すいませんすいませんと詫び始めた。
 二人の謝罪攻勢に遭って、北條は居心地悪そうに眉を寄せると、一つ息を吐いた。
「まあ怪我もしていませんし、そこまで似ているのなら仕方ない、という事にしておきましょう。お二人に免じて」
 啓太郎と真理の二人がかりの攻勢の怖さは巧もよく知っている。北條もばつが悪くなったのか面倒になったのか、とにかく表情を和らげた。
 二人は顔を上げるとぱっと明るく顔を綻ばせた。面白くなさそうに舌打ちをしたのは草加だけだった。
 抑えられていた手が離れたのは幸い、草加はそのままドアを潜り大股で外へと出て行った。
 この世には自分にそっくりな人間が三人はいるという。だが、そんな瓜二つの人間は、自分だけでなく知り合いも含めても、一生に一度出会えるか出会えないかだろう。
 この間も真理そっくりだという女性の話を聞いたが、こうも短期間でまた知っている顔のそっくりさんに出会うのもおかしな話だ。
 結局北條透は不愉快さを押さえきれなかったのだろう、他の店に行くと告げて出て行った。当然の結果だが、啓太郎は溜息を吐いて真理は放心状態。遅刻すんぞ、と真理に告げて巧は、カウンターに戻り漫画雑誌を開いた。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ