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比翼連理 〜 緋天滄溟 〜

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17. 闇撫



「くそっ……!外れぬか!」
 右手に嵌る指輪を忌々しげに見つめ、いっそ、この指ごと落としてやろうかとタナトスが考えていた時、くすりと笑う声を聞いた。
「死に掛けのくせに……笑うな」
「それは思念がみせる幻影……たとえ十指を落としても、形を変えて……おまえを絡み取るだろう」
 血の気を失くしたままの青い顔をタナトスに向け、疲れたようにシャカは云った。
「―――幻影?」
「そう―――おまえの中に潜む……恐らくは思慕ともいえるそれが……この太古の森に溶け込んでいるプロメテウスの思念と同調したのだろう」
 はぁと大きく息をつき瞳を閉じたシャカの胸倉をタナトスは乱暴に掴むと大きく揺すった。
「ふざけたことをぬけぬけと……!貴様如き死に掛けの人間など、この場で今すぐにでも消し去ることができるのだぞっ―――!?」
 胸倉を掴む手をシャカの掌が包んだ。うっすらと瞳を開けて、タナトスを醒めるほどの蒼い瞳が見つめていた。
「―――おまえがとても……優しいのを……知っている」
「な……にを…」
 タナトスは眩暈にも似た感覚に陥った。おぼろげな記憶が形となって鮮やかにその姿を現していく。遠い、遠い過去―――白き指先がそっと額に触れながら、同じ言葉を吐いたことを。
 蠱惑的な瞳で、魅惑的な力でタナトスを捉えた、隠された秘密の主。
「穏やかで、優しいのだよ……終点であり、始点でもある。その腕に抱かれる時が来るのを人は抗いながらも、焦がれる。私とて同じ。いつかは……訪れる。その時が」
「……」
「いや……おまえが焦がれるのはアレなのだな。残酷なほどに美しい光。今もなお、囚われ続ける……私がアレを破壊するためには……おまえの力も必要だ」
「それが……何を…どういう意味を成すのか……わかっているのか?」
 見開かれた銀色の瞳に答えるようにシャカは瞳を閉じた。
「どのような結果に至ろうとも……それが私の進むべき道。いや、私のエゴともいうべきものだろう。それでも私は―――。タナトスよ、ここで安穏と過ごすよりは私を連れて行って欲しいところがある」
「―――死ぬぞ?」
「それでも―――行かねばならぬ」
 熾烈なまでの微笑を浮かべるシャカ。かつて、あの白き指先に求めたものが、如実に表されていく。冷たく醒めた蒼い瞳の奥に潜む、凶暴な破壊の力。

 ――――駆け巡り、己の身体を貫いていく。

 抗いがたい衝動の波がタナトスを攫っていった。