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比翼連理 〜 緋天滄溟 〜

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5. 布陣



『―――冥界は天界に背く意思はない。だが、ゼウスよ。余はおまえの意に従うつもりもない』
 神々の王ゼウスを前にして一歩も退かなかったハーデス。
 清々しさ半分、愚かなことを……という嘲り半分でアーレスが顛末を黙って眺めていたのは幾数日も前のことである。
「そう……あなたは誰の意に従う必要もない」
 もうすぐ憑代に導かれて我が膝元に訪れるであろう、冥王の至宝。
 ほんのささやかな楽しみを待つアーレスは煌めく金色の髪を指先で玩びながら、過去へと意識を巻き戻した。



 冥界の主は突然の呼び出しにも割合、素直に応じた。突然とはいえ、どちらかといえば遅すぎるほどではあった。ハーデス自身もいつかはこのような日が必ず訪れることをわかっていたのだろう。
 微塵の動揺すら浮かべることなく、むしろ、ふてぶてしいほどの余裕さえも感じさせる堂々たる登場に神々の王は悪意を薄く張り付かせた微笑で冥界の王を迎えた。
 お決まりの社交辞令が済むと、ただちにプロメテウスの災禍が天界にも及んだ件について、話し合いの場がもたれた。薄皮で限界まで張られた太鼓のように、いつ破れるともしれぬギリギリの茶番を不思議な色合いを見せる双眸でアーレスは黙したまま口を挟む事無く見つめる。
 アーレスにすれば、ほんの些細な……それこそ微傷でしかすぎないと思われたが、ゼウスにとっては大誤算、大きな痛手だったともいえる今回の災禍。ゼウスは周囲に対して極めて冷静な態度をとりつつも、隠しても隠しようのないほど内面から滲み出るその憤りは凄まじいものだった。裏切りを明確に示した実娘であるアテナは当然のこと、今や同盟関係にある実兄であるハーデスにも向けられていた。
 力の均衡を保つ上で地上と冥界の結びつきはゼウスにすれば避けたかったのもあるのだろう。そして、それは海界にもいえる。三つの世界が互いに牽制することで天界は頂点を支配してきたのだから、その支配を崩すきっかけを作ったともいえるプロメテウス、そしてアテナの聖闘士に対しての恨みは言葉に現すこともできないほど根深いものとなっていたようだ。
 しかし、どうやらそれだけではなさそうだと極秘裏に調べた結果、プロメテウスの災禍は辿ってみればゼウス自身が力の糧として存在させた者にあったということを掴んだ。プロメテウスにその力が渡りかける危機を実兄に保護させることでまんまと牽制したゼウス。
 たとえハーデスの元にその者を委ねたとしても、互いに惹かれあうことなどないだろうという目論見だったのだろう。だが、プロメテウスが介入したことで違った展開を見せ、奥底に引継がれた力を持つらしいアテナの聖闘士はゼウスの元に戻ることのないまま、存在している。
 そして、どのような協定が結ばれたのかはわからぬが、本来地上にいるべきアテナの聖闘士がハーデスの元にあることがわかった。
「―――あの人間は“まやかし”に過ぎぬ。ハーデスよ、おまえが望むものは我が手の内の中。可愛い我が子が器を欲しているのだ。おまえにとっても悪い話ではないはず」
 必死だな……そう心の奥底で笑いながら、兄と弟の話し合い……『化かし合い』の場をさしたる興味もなさそうに振舞いながら、アーレスは立ち会う。
「―――あのときに見せた力の片鱗か。それこそ、まやかしにしか過ぎぬのではないのか?おまえの魂胆は知っている。知っていてなお、余は譲歩しているつもりだ。アレを渡すつもりはない」
 怜悧な声が心地よくアーレスの耳元を過ぎていく。
「譲歩?何をもって譲歩というのか。おまえは何一つ譲歩などしておらぬではないか。余の望みはただ一つ。ハーデス、おまえの庇護下にあるアテナの聖闘士を献上せよ」
「断る」
 断崖絶壁にある剥き出しの巌のように頑ななまでのきっぱりとした口調。強い信念を示すかのように、タンッと愛剣の先を床に打ったハーデスをスッと目を細めたゼウスは氷の刃の如くの眼差しで見つめた。