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IS  バニシング・トルーパー リバース 003-004

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Chapter-04 痛




 
 
 夢を、見ていた。
 夢を、絶え間なく見続けていた。

 そして今この瞬間も、夢を見ている。
 とても懐かしくて腹立たしい、出会いの夢だった。

 夢の中で、私は怯えていた。
 家の隅に転がって、寒さで身を震えながら私を警戒的な目で睨んでくる、泥まみれの少年に怯え、私は母の背中に隠れた。

 あの子、だれ?
 母の服の裾を手で引張って、私は問いかけた。
 そして帰ってきた答えのは、さあ……名前はまだ聞いてなかったわ、だった。

 じゃ、どうして家に連れてきたの?
 それは多分、この子が私たちのパンを盗もうとしてたからじゃないかしら、と母はニコリと笑った。
 えぇぇええええ?!

 それって、泥棒じゃない!
 私たちの晩飯を盗もうとした泥棒を、どうして家に連れてきたの!?

 母の行動を、私は理解できなかった。
 でも母はお人よしでよく騙されるから、私が守っていかないとダメだ。
 そこの泥棒、見てなさいよ! すぐにこの家から追い出してやるからな!


 *


 果てしない蒼き宇宙(そら)を背景に、青色の機影二つは丸く凹んだ痕跡が大量に見える白き大地――月面で激しく衝突(デュエル)する。
 地球の六分の一の重力に惹かれて、青い亡霊(ゲシュペンスト)は跳躍してデブリの蔭に身を隠しながら相手へ迫っていく。
 しかしこのゲシュペンストは、前線へ大量に投入されている量産型とはやや違う。肩装甲の先端は量産型の白ではなく青に塗装されており、左腕から突き出している三本の棒状パーツも量産機のプラズマステークではなく、非実体剣のプラズマカッターになっている。
 これは、マオ・インダストリーが量産型ゲシュペンストMK-IIの試作機として作られた三機の原型機のうちの一機、ゲシュペンストMK-II タイプSである。
 大出力のジェネレータや分厚いの装甲、そして強度の高い関節パーツで、機体のパワーと防御力を重点的に向上させたタイプSは強大な肉弾戦能力を誇るが、その思想が既に量産型PTの発展方向から外れたため、結局量産されることはなかった。
 しかし機動兵器として高い完成度を持つタイプS自体は、今の戦場に投入しても全然問題ないくらいの戦闘力を持っている。

 そして今、何の火器も携えていないこの機体が向かう先にはあるのは、凶鳥の名を継ぐダークブルーのPT、ヒュッケバインMK-IIだった。
 ダークブルーの外部装甲に、黄色のV型アンテナ、そしてツインアイタイプのデュアルセンサー。
 量産型ヒュッケバインMK-IIの試作機として作られた本機はコストパフォーマンスを重視して開発したため、一部のEOTを除けば、量産機ヒュッケバインMK-IIとほぼ同じ基本スペックを持っている。
 フォトンライフルを手に握り締め、ヒュッケバインMK-IIは乱射を繰り返しながらバーニアを軽く吹かし、後退していく。
 コックピットの中に座っているのは、一般兵のとはかなり違うデザインを持つ、水色のパイロットスーツを着た女性兵士一人。細いアンテナが二本伸びているという、特殊な形状をしているヘルメットの奥に、髪を頭の後ろに纏め上げて、おでこを出しているアジア系少女の顔が見えた。

 地面にから突き刺さっているデブリの裏に着陸して左右のモニターを一瞥し、少女は眉を顰めて苦い表情になった。
 相手に近づかせないことを過度に意識したせいで、戦闘開始からまだ五分も経っていないのに、相手のわざとらしい派手な動きに釣られて、フォトンライフルの弾丸を無駄に消耗しすぎた。
 しかも丁度このタイミングで、さっきまで派手に飛び回っていたゲシュペンストMK-II タイプSは視界から消えた。

 「どこに隠れているの!?」
 周囲に目を配って、少女は相手の姿を必死に探すが、何も見つからなかった。
 巨大なスペースデブリが大量に存在するこの地帯では、センサーの感度が悪い。左操縦桿を握っている中指と小指の下にあるボタンを押し、少女は自分が設定したショートカットでセンサーを高感度モードに切り替えようとする。
 しかしまるでこの瞬間を狙っていたかのように、コックピットに耳障りな警報音が響いた。

 バジャアァァ!!
 正面から来る、野太いビーム砲撃だった。その凄まじい威力は射線上の障害物を蒸発し、ヒュッケバインMK-IIを飲み込もうと襲い掛かる。ペダルを踏んで、少女は間一髪のタイミングでビームの射線から離脱する。
 が、かわしきれなかった。
 普通の集束ビーム砲やビームライフルなら、ヒュッケバインMK-IIの動きではすでに十分だったかもしれない。しかしそれはゲシュペンストMK-IIタイプSの胸部装甲に内蔵した高出力ビーム砲「メガ・ブラスターキャノン」による砲撃だった。
 僅かに掠っただけで、ヒュッケバインMK-IIの脚部表面装甲が既に剥がされ、内部フレームまで溶解された。
 そしてヒュッケバインMK-IIが着陸する前に、コックピットのアラームがもう一度鳴り出した。

 「こっちか!!」
 こっちへ突っ込んでくる熱源一つを映ったレーダーに一瞬目をやったのと同時に、少女は反射的に標的をロックオンして引き金を絞る。
 しかし引き金を引いた瞬間に、少女はそれがミスだということに気付いた。
 飛んでくるのは囮、一本のプラズマカッターだった。

 「しまった! 上から……?!」
 本命は、既に少女が囮に向けて攻撃した瞬間に空へ飛び立った。残り二本のプラズマカッターの握り締め、ゲシュペンストMK-IIは上空から舞い降りて、光の剣を振りかぶる。

 「豪快! ゲシュペンスト! 月面十文字斬り!!」

 ゲシュペンストMK-IIのパイロットの雄叫びと共に、交差する剣戟はヒュッケバインMK-IIの装甲を切り裂き、大きな十文字を完成する。
 煌きのあと、ゲシュペンストMK-IIはヒュッケバインMK-IIに背を向けて立ち、センサーの奥にあるツインアイが光る。

 「成敗!!」
 「きゃあああああ!!」
 ヒュッケバインMK-IIのパイロットが悲鳴を上げ、コックピット内が一気に闇の中へ沈んだ。
 だが、爆発による震動は来なかった。
 そして数秒後に、コックピット内の機器やメインモニターに再び明かりがついた。

 静かな月面地帯に、暗い宇宙空間。
 周囲の光景を映っているモニターの中央に、「YOU LOSE」というメッセージが点滅する。

 切り裂かれ、溶解されたはずの表面装甲はまったく損傷がなく、岩やデブリの焼かれた痕跡もどこにも見当たらない。
 まるで、さっきまでの激戦が夢だったように。

 「また俺の勝ちだな、メイロン少尉」
 モニターの隅に、小さな枠から一人の青年の顔が映り出された。
 後ろに立つ、ゲシュペンストMK-IIタイプSからの通信だった。

 「織斑少尉……くっ、も、もう一回!!」
 「いいぜ、何回でも。手加減はしないけどな」
 悔しそうに唇を噛み締め、ヒュッケバインMK-IIのパイロット――リオ・メイロン少尉は再戦を要求し、それをゲシュペンストMK-IIに乗っているパイロット――織斑一夏少尉はすぐに快諾した。