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雪割草

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〈61〉斬られた!



「しっかりしろ!格之進!」

言うや否や彼は倒れた。
助三郎は、とっさに受け止めたが、身構える程の重さを感じなかった。

おかしい、なんでこんなに軽い?

確認すると姿が違った。

女?
いや、これは…。

腕の中にいたのはさっき身を呈して自分をかばってくれた男ではなく。
ずっと会いたくてたまらなかった許嫁だった。

これは、早苗か?
格さんはどこへいった?
なんで早苗がここにいる?

どこからどう見ても女の早苗だった。
しかし、支えていた手に、生温かいものがついた。
血だ…。
良く見ると、格之進と同じ脇腹から出血していた。


斬られてる…。
なんで早苗が斬られて気絶してる?
わけがわからない…。



「…助さん!助さん!」

「ん?」

助三郎の目と耳にお銀が叫び、怒っている様子が入ってきた。

「なにやってるの!?早く運ぶのよ!」

「あ?あぁ…。」

言われるまま、医者が待機している部屋に運んで寝かせた。
とたん、お銀に追い出されそのあとも面会謝絶にされた。
とりあえず光圀を連れて宿に帰れと言われ、しぶしぶその場を去った。

帰り道、今だ頭が混乱している助三郎は一人悶々と考えた。

何なんだ?
いったい何が起こってるんだ?
格さんはどこへ行った?
あいつが早苗だったのか?
なんで早苗が男なんだ?

宿に戻ると、由紀が出迎えた。

「お帰りなさい、助さん。あれ?格さんは?」

「……。」

なにも言わず由紀の表情を読もうとした。
鈍感な自分にもわかるくらい動揺していた。

「由紀、ちょっと…。」
助三郎が彼女に食ってかかる前に光圀に呼ばれ由紀はその場を去った。

次に新助が奥から出てきた。
「助さん、お腹減ったでしょう?由紀さんとおいらで晩ごはん作りました。」

こいつは何も知らない。
グルじゃないな。

「悪いが…後にしてくれ。」

「…大丈夫ですか?お疲れですか?」

「あぁ。ちょっとな。…お前は何も悪くない。悪いのはご隠居と由紀さん、お銀、弥七だ。」

「どういうことです?」

「とにかく黙っててくれ、いいな?」

「はい…。」


新助が夕餉を皆に出したが、
誰一人箸をつけようとせず、なぜか皆黙りこくって座っていた。
陰鬱な空気が漂っていた。
皆が助三郎の不穏な様子をうかがっていた。

そこにお銀が帰ってきた。

「おや、お銀どうじゃった?」

「斬られたようですが、命に別状はない浅傷です。ちょっとした貧血らしいので、じきに眼は覚めるそうです。明日にも動けるそうですが大事を取って二三日お医者様の家に置かせてもらいます。」

「良かったの…。では、夕餉に…。」

浪人のままの助三郎が、差していた太刀の尻を鞘ごと畳に打ちつけた。
ドンという音とともに、賑わいを取り戻しつつあった一行を再び静まりかえらせた。

「なにが良かったですか…。良くも平気で飯が食えますね。」

「どうした、助さん。」

「どうしたじゃありませんよ。斬られたんですよ、あいつが私のせいで…。」

「お前さんのせいではない。相手が悪かっただけじゃ。格さんが…。」

「誰が格さんですか…。隠し立てしても意味はありませんよ!」

「は?」

「…格さんは、渥美格之進は最初から早苗だったんですか!?」

「……。」

「皆、知ってたんだろ?なんでずっと黙ってた?なぜついて来るのを止めなかった?」

「落ち着きなさい。」

「…落ち着いてなどいられません。あれに刀傷が残るんですよ!私のせいで!
他にもいろいろ、女にやらせてはいけないことさせてたんですよ!?」

「助さん。怒っても仕方ないわ、落ち着いて…。」

「お銀はだまってろ!」

「助さん、早苗は…。」

「由紀さんもだ!二人とも女でわかってるんじゃないのか!?」

「助さん。」

「なんでだ!はっきり言えよ!弥七も知ってたんだろ!?隠れてないで出て来いよ!」

「助三郎。」

「なんですか?なんの言い訳ですか?私は聞きませんよ!」

「助三郎!座れ!」

光圀が怒鳴りつけた。

「落ち着くのじゃ!怒ってもはじまらん。良いな!」

「……。」
しまった。怒りにまかせ、主である御老公にとんでもない暴言をあびせてしまった。
国でなら切腹ものだな…。

「…不満があるじゃろう。二人で話がしたい、庭で待っていなさい。」

「…はい。」


庭で待っているあいだに頭を整理し、冷やした。
皆に対する怒りは薄れてきた。

思い返して見れば格之進の言動に早苗と同じ物が多々あった。
幽霊は見える。毛虫が怖い。

親戚だから似てて当たり前だと思っていたが。
やっぱり俺は鈍感だな。


裸をみられるのを嫌がった、女遊びをものすごく怒った。
俺の行動をじっと見てた。
しょっちゅう顔を赤くしていた。
きづかなかったとは言えいろいろ悪いことしたな…。

言いたいことがあるって、このことか。
驚くかもって。確かにものすごく驚いた。
嫌いになるかも、とも言ってたな。
だが、それは絶対にない。
俺は早苗が大好きだ。格さんが大好きだ。

だが、あいつは許嫁だったか。
だから、友達って言ってくれなかったのかな?
…本物の男じゃなかったからかな?

でも、武術の鍛練一緒にできて、互角に闘えるようになって嬉しかった。
どんどん強くなるから、負けるもんかと張り合えた。
自分も強くなれた。

あいつが女だってことは、
もしかして、これからそういうことできなくなるのかな?
酒も一緒に飲みに行けなくなるのかな。
俺の前から姿を消すのかな?
悲しいし、寂しいな。


そこに光圀がやってきた。

「月が綺麗じゃの。」

「はい。もうそろそろ満月かと。」

久しぶりに空を見上げた。
毎日地面の上の汚い代官ばかりに気をとられていた。
やっと、落ち着ける日が戻って来つつあるのに、俺はなんであんなに取り乱したんだろう。

「…落ち着いたか?」

「はい。取り乱して申し訳ありませんでした。」

「よい。それより、早苗を責めてはいかんぞ。お前さんを守りたいといって男に変わっておった。武術の鍛練もお前さんと一緒にしてきたであろ?
強くなって現に体をはってお前さんを助けた。」

確かに、突き飛ばしてくれなかったら俺は串刺しになってあの世だ。
早苗の顔をもう一度拝めないままになるところだった。
だが…。

「なぜ私にずっと黙っていたんですか?こんなに長い間…。」

「お前さんが仕事に集中出来なくなるからと最初は言っていた。だからバレるのを怖がっていた。」

「そうですか…。」

さっきの俺の言動がいい例だ。
みっとも無いくらい取り乱した。
あいつはわかってんだな…。

「しかしな、近頃は隠しておくのが怖くなっていたらしい。悩んでおった。」

「…悩んでたんですか?なぜ?」

「お前さんに嫌われるんじゃないか、気持ち悪がられるんじゃないかとな。」

「それは絶対にありません。」

「そうか。じゃが、早苗をあまり刺激しないように。」

「わかりました。早苗に会いに行ってもよろしいですか?」

「ダメじゃ!」

「なぜです?」

「もう夜じゃ。それに、そんなむさ苦しい浪人が合いに行ったら、早苗がこわがる。」
作品名:雪割草 作家名:喜世