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雪割草

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〈06〉初対面



 長かったようで意外と短い特訓の最終日。
早苗の身体は、悲鳴を上げていた。
 そこら中の筋肉が張り、切り傷かすり傷打ち身だらけだった。
彼女は一抹の不安を感じた。

「…父上、跡になりませんよね?」

「大丈夫だ。跡なんか残ったら、ふくに殺される」

 しかし、早苗はどうにも信じきれなかった。

「本当ですか?」

 すると、不満げな父親は脹れながら言った。

「疑うのなら、元の姿に戻って確かめるのが一番だ」

 再び早苗は父に窺った。

「…本当に、戻れるんですか?」

 又兵衛の眉間に皺が寄った。
疑い深い娘に、彼は落胆を通り越して憤りを感じていた。

「…また疑うのか? …そのまま男で旅に出て、ずっと男で過ごすか?」

「イヤです! 厠も風呂ももう懲り懲りです!」

 一向に慣れないこの二つに早苗は悩まされていた。
短い特訓中でさえ耐えられないのなら、長い道中の事、到底できる筈が無い。

「父上、教えてください。元に戻る方法」

 精一杯可愛く父に懇願したが、又兵衛はそっぽを向いてぼやいた。

「…やっぱり娘の方が良い」


 結局、彼女はその夜元の姿に戻る方法を教えてもらい、つかの間の休息を楽しんだ。


 次の日、朝早くから早苗は再び格之進になった。
父と兄に再び着物を剥かれ、初めての裃姿に。
 慣れない格好に、彼女は溜息をついた。
その姿を見ていた兄の平太郎はそっと彼女に声を掛けた。

「どうした? 帯が苦しいか?」

「いいえ、どうもこの恰好に慣れないので…」

「すぐ慣れるさ。さて、仕上げだ」

 突然、早苗は自身の身体が重くなったように感じた。
それもそのはず。彼女の腰には大小が鎮座していた。
 
「これで完璧。どこからどう見ても侍だ」

 早苗は、侍の証。刀の重さに驚きを感じていた。
父や兄から受け取ることはあったが、自身で差したことなど無い。
 手で持つのとは違う重みを彼女は肌で感じていた。





 西山荘へは、建前上『親戚』である又兵衛と共に行くことになっていた。
仕事がある平太郎は、玄関で妹を見送った。

「さぁ、格之進。どれだけ女にもてるか確認して来い!」

「はぁ?」

 訳の解らない激励に辟易としながらも、早苗は出立した。
久しぶりの外出。屋敷内で籠って特訓していた時に感じた閉塞感はすぐに消えた。
 新鮮な空気を胸一杯に吸い込み、彼女は父に従って歩き出した。

 西山荘への道すがら、早苗は幾人も友人や知人を見かけた。
挨拶をしようとしたが、今の姿ではわからないと思いなおし、会釈で止めた。
 父に挨拶をする彼女たちに、早苗は微笑を湛え会釈した。
 すると彼女たちはこぞって眼を伏せ、顔を赤らめた。
 彼女たちの中には、少し遠ざかってから黄色い声ではしゃぎ会う者までも。

 不審に思った早苗は、父に聞いた。

「…父上。私の格好、どこか変ですか?」

「なぜだ?」

「あの子たち、私を見ると皆様子がおかしくなります」

 言った途端、又兵衛は笑い出した。
しばらく笑った後、こう言った。

「わからないか? 格之進」

「なにがです?」

 すると、又兵衛はニヤッとして早苗に耳打ちした。

「…あれはな、お前が良い男だという証拠だ」

「は?」

 『良い男』という身に覚えのない言葉に、彼女は困惑した。
しかし、父は遠い眼つきで独り言を言い始めた。

「わしも若いころよくそういう経験をしたなぁ…」

 そんな父を見て彼女は聞こえないように吐き捨てた。

「…ぜったいウソだ」

 しかし、そんな声は聞こえない又兵衛。
若いころの怪しい思い出を早苗に聞かせた。
 彼女はそれを半分以上聞き流し、知人友人のおかしな様子の理由探しを続けた。
 そんな彼女の肩を又兵衛は笑いながら叩いた。

「助三郎と格之進。美男二人で若いおなごの目をひきそうだな。ハハハハハ!」

「そんな事ありません!」

 しかし、格之進の姿の早苗は女の子の視線と黄色い声を集め続けた。
そして、自身の姿にその問題があると認めざるを得なくなった。




 やっとの思いで、早苗は西山荘につくと、徳川光圀の前に参上し挨拶をした。

「御老公、これが元は某の娘の早苗、『渥美格之進』でございます」

「お初にお目にかかります。格之進でございます。到らぬことも有りますが、よろしくお願いいたします」

 丁寧に挨拶の言葉を述べ、頭を下げると上機嫌な声が返って来た。

「格之進、よろしく頼むぞ。しかし、あの早苗がのう…」

 どんな言葉が返ってくるのかと、当の本人は待ち受けた。
しかし、それは早苗をムッとさせた。

「…良い男ぶりじゃの。ハッハッハ!」

「はい。なかなかいい息子になりました。」

 二人で早苗を『男』扱いする。
先ほど、若い女に『良い男』扱いされ、疲れた早苗は父に反論した。

「息子ではありません!娘です!」

「ハッハッハ! からかうのもこれくらいにしよう。安心しなさい。道中機会を見つけては、おなごに戻れるようにするからの」

 優しい言葉に、絆された早苗だったが甘えてはいけないと、一端断わることにした。
旅は『仕事』。男の姿がイヤだだけで通じるものではない。

「お気遣いありがとうございます。されど…」

 早苗の辞退は光圀の言葉で有耶無耶になった。

「よいよい。お前さん、厠と風呂にどうしても慣れないそうじゃからな。ハッハッハッハ!」

 早苗の顔から火が出た。





 三人が仕事の話やらなんやら光圀と話していると、助三郎がやってきた。
約束の刻限よりも遅かった。

「遅かったの。寝坊か?」

 じろりと光圀は彼を一瞥した。
助三郎は慌てて弁明し始めた。

「いえ、少々支度に手間取りまして…」

 しかし、光圀の冷たい眼は変わらなかった。
すぐに、言い訳を止め素直に謝った。

「…申し訳ありません」

「明日は遅れるでないぞ。よいな?」

 そう窘めると、助三郎は大人しく頭を下げた。

「仰せの通りに」

 すると光圀は話題を変えた。
これが助三郎の身を救った。

「お前さんの遅刻などより、明日からの仕事が大事。早速話し合いに入るかの」

 説教が無くなった助三郎はホッと一息ついた。
心に余裕ができた彼は、同じ部屋の見知らぬ顔の存在に気付いた。

「…あの、橋野様。そちらが代わりを勤められる?」

 彼の眼には、『格之進』が映っていた。



 早苗は顔をその時初めて彼に見られた。
バレるのでは、驚かれるのではと疑心暗鬼してはいたが、助三郎の顔は何の驚きも疑いもない表情。
 少しばかり緊張が垣間見えるだけだった。

 又兵衛は将来の娘婿に『格之進』を紹介した。

「そうだ。『渥美格之進』と申す。よろしく頼む。歳が同じだ。気遣いが要らず楽であろう?」

 どことなく嬉しそうな笑みを浮かべた彼は、さわやかな笑顔で会釈した。

「よろしく頼みます。渥美殿」

 あまり見たこと無いその表情に、見惚れそうになったが、早苗は我に帰り彼と同じように挨拶をした。

「こちらこそお願い申し上げる。佐々木殿」

 二人の挨拶が終わるとすぐ光圀からの業務連絡が。
作品名:雪割草 作家名:喜世