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雪割草

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〈63〉初めての逢い引き



助三郎はぼーっとしていた。
いつもなら、誰かに起こされるまで寝ているのに、珍しく早く目が覚めた。
誰も起きてはいなかった。

「お伽噺…ってあったんだな。」

そう呟きながら、眼の前で今だ眠っている男の寝顔をぼんやり眺めていた。

しつこいかもしれないが、まだ実感がない。
女が男になっていた。

異国の物語などにもいろいろ載っていた。不思議な話が。
日本にも鶴やキツネが女に化けたとか言う話があったが、本当にあるんだな…。
細くて小さい女が、こんながっしりした男に変わってたなんて…。

もとから綺麗な可愛い顔をしていたからか?
男になってもかなりの美男の部類に入る。
いい男だ。うらやましいな。
こいつの笑顔で女がクラっとするのもわけないな。

…しかし、どこから見てもやっぱり男だな。

全体的に、デカい。
良い体付きだ。
もっと鍛えろって言ったけど、自然に鍛えられてたか…。
まぁ、俺も筋肉前よりついたしな。
でも、こいつ俺を担いで歩けたんだもんな。
格さんのほうが力が強いのか。
俺も見習って、もっと鍛えないとな。

だが、早苗を抱き締めたら柔らかいけど、格さんのときはゴツゴツするんだろうな…。
男だもんな。当たり前か?

いろいろ考え事しているうちに、目の前の男の眼が開いた。

「ん?」

「あっ…起きたか?」

「…なんだ?俺の顔になんかついてるか?」

男の口調で声も低い。なにもかも早苗と違う。
でも、優しい目は変わってないな。
俺の好きな早苗と格さんの温かい、優しい目。

しかし、口に出さずにはいられなかった。

「お前、早苗だよな?」

「おい、まだ信じないのか?」

「いや。そうじゃないんだが…。」

「…これでもダメ?」

彼は眼の前で早苗に戻った。

早苗だ。本当に早苗だ。

「また驚いてるの?早く慣れてね。」

「わかった。」



皆で朝餉をとった。
昨日とは違い、賑やかな席で食事は進んだ。

しかし、助三郎の箸はしょっちゅう止まっていた。

「なにさっきからボーッとしてるんです?」
その様子を新助が目ざとく見つけ、聞いた。

「いや、なんでもない。」

そう言うと茶碗の飯をかきこんだ。

いかん。早苗に見とれてた。
いつも格さんがいたところに早苗がいる。
笑ってる。笑顔が、かわいい…。

「…早苗。」

「なに?」

「ただ呼んでみただけだ…。」

声も可愛い。女の子の高くて澄んだ声だ。
本物の早苗だ。

思わず二ヤけていたようだ。

「助さん。何ニヤけてる?」

「ん?」

この声は…。

はっとして、早苗を見やると、すでに男の姿だった。
もう変わったか…。

「何やってる?早く食べろ。箸が動いてないぞ。」

「わかった…。はぁ。」

早苗をもうちょっと見たかったな。


朝餉を終えるとすぐ、出立した。
いつもどおりに歩いていたが、助三郎はいままで意識していなかったことに気がついた。

「なあ、格さん、何でおれより背が高い?」

「へ?あぁ、ちょっとの差だろ?理由は分からん。兄上も高いからかもな。」

「早苗は小さいのに…。」

腕の中にすっぽり入った。自分を下から見上げてくる様子が好きだ。

「デカくて悪かったな。」

「悪くはないが、元から男の俺としては、なんかな…。」

新助がこの聞き捨てならぬ発言を聞いて、助三郎に詰め寄った。

「助さん、それだったらおいらどうなるんですか?」

彼は、背がそんなに高くなかった。
早苗の元の姿や、由紀よりは高いが、背が大きい格之進、助三郎には到底及ばなかった。

新助の姿を見て、助三郎は意地悪い笑いを含んで一言。

「…じゃあいいか。」

「なんですかそれは!?」

理不尽な中傷にも取れる発言に新助は憤慨した。

不憫に思った早苗は彼を擁護した。
「助さん、新助がかわいそうだろ?」

「あぁ、格さんのほうがやっぱりやさしい。」

当てつけのように、新助は早苗の方へ寄って行った。
それを見た助三郎は焦った。

「新助、格さんに近寄るんじゃない!」

「あっ。焼き餅ですか?助さん、そうですか…。」

「違う!」

「恥ずかしがらなくてもいいでしょう?」

「違うったら、違う!」

なぜか猛烈に否定する助三郎の様子がおかしかった。

「ははは、変な奴だな。」




次の宿場で、早めに宿をとった。
たまっていた日誌と帳簿をつけていた早苗の所に助三郎がやってきた。

「格さん…。」

「なんだ?」

「仕事、終わったか?」

「あぁ。」

「なら…二人で、出掛けないか?」

「飲みには行かないぞ。まだ明るいから。」

「いや、その、早苗と、出掛けたい…もちろんご隠居に許可はいただいた。」

「え?」

「…戻って、くれるか?」

精一杯の勇気を出して言ったらしく顔が赤かった。
どうしてそんなに勇気がいるの?
でも、うれしい。誘ってくれた。

「…ちょっと待っててくれ。」

ドキドキしはじめた心を落ち着かせながら、部屋を出て考えた。
一緒に出かけるって、もしかしたら、もしかして…。
親友に真っ先に教えようと姿を探した。

「由紀?あっ、居た!」

「どうしたの?そんなに浮かれて。ぎゃっ…。」

早苗はうれしさのあまり、由紀を抱き締めた。
背に余りの差があって、由紀が宙吊りになってるのにも気づかず、浮かれていた。

「聞いてくれ、助三郎と二人きりだ!初めての逢い引きだ!誘われた!」

「それはそれは、良かったわね…。グェ…。」

「なんだ?グェって?」
妙な声をあげた由紀を見ると、苦しそうにもがいていた。

「離して!つぶれる!」

しまった。男のまま抱き締めてた。
力が強かったかな?

「…ごめん。痛かったか?」

「やっぱり前より筋肉ついてるじゃない!道理で力が強いわけよ!」

「うるさい!」

恥ずかしいことを言われたので怒鳴ったが、そんな事でひるむ由紀ではなかった。

「まぁ、せいぜい男同士で楽しんできなさい。」

「…こっちで行くもん!男同士じゃない!」

「ふぅん。良かったわねぇ。格さん。」

口ゲンカが始まるところだったが、お銀がやってきて止めた。
「ついに居酒屋じゃない逢い引きね。うらやましいわ。とにかく、怒ってないで支度しなさい。」

「このままじゃダメですか?」

「当たり前でしょ?お化粧して、可愛くしないと。」

「そうよ。普段格さんで、いい加減なことしかしてないから余計やらないと。」

「いい加減で悪かったわね!」

由紀とお銀二人がかりで、早苗の身支度をし始めた。




助三郎は部屋で早苗をボーっと待っていたが、新助が話し相手になってくれたので、暇つぶしをしていた。

「へぇ。助さん、そんなことしたんで?」

「そうだ、でさ…。」

ようやく支度を終えた早苗がやってきた。

「支度出来たわよ!」

「遅かっ…。」
文句を言いかけた助三郎だったが、早苗の姿を見て、言いかけた言葉を飲み込んだ。

その様子を面白そうに眺めた新助は気を利かせて、
「へぇ…。お二人とも、楽しんで来てくださいね。では…。」
と言い残し、立ち去った。

「行ってくるね、新助さん。ご隠居さまのことよろしく。」

「…行くか?」
作品名:雪割草 作家名:喜世