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雪割草

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〈64〉拾い物



早苗の、とは言っても格之進の姿の傷はだいぶ良くなった。
痛みはなくなったので、普段どおり
の生活ができるようになった。
しかし未だ鍛錬は光圀から止められているので、助三郎は物足りなさを感じていた。


近江を出て、美濃の国に差し掛かっていた。
山道ばかりだったが、開けたところへ出た。
助三郎はその場所に歴史的観点から興味を抱いたが、隣の早苗に不満だった。
なにも無い所を良く眺めている。
あれだ…。
あれに違いない…。

「格さん、頼む、変なとこ見ないでくれ…。」

「なんで?」

「…いるんだろ?」

「あぁ。昼なのに凄い量だ。怨念が消えてないみたいだな。」


その場所は関ヶ原だった。
戦から百年と経っていない。
早苗の眼にはおびただしい雑兵の亡霊、馬の亡霊が映っていた。
徳川家康の孫である光圀を凄まじい形相で睨む者も多くあった。

危険を感じた早苗は、念のため光圀に話した。
彼女の話を神妙に聞き、光圀は、近くにある寺に祈祷を頼むことにした。
そのための寄進を助三郎に託した。新助も供につけた。

「ワシらは宿場で宿を探して待っておる。頼んだぞ二人とも。」

「はい。お任せを!」


助三郎は言われたとおり、寺に寄進をし、ついでに仕事もした。
関ヶ原の戦に関わる歴史資料を貸してもらい、それについての説明を聞き、この地に伝わる噂や伝説も教えてもらった。
しかし、彼の苦手な幽霊話が多く、帰途に着くころにはゲッソリとしていた。

薄暗くなっていたので、助三郎は先ほど聞いた話をいろいろと思い出し、怖くなり内心びくびくしながら、宿場へ急いだ。

新助に悟られないように強気でいたが、見透かされていた。

「助さん、何にも出ませんよ!」

「わかってる。怖くなんかない!」

キャン…。

「助さん、なんか聞こえませんでしたか?」

「へっ、変なこと言うな!」

キュン…。

「聞こえますよ。あっちの方から。」

「おい、変な所へ行くな!」

一人で道に残されるのは怖い。
でも、こいつに付いてって変なものに出くわしても怖い。
迷ったが、声の主を探している新助の後ろを助三郎は恐る恐るついて行った。

「あっ!」

「なんだ!?幽霊か?」

「違いますよ。犬です。」

「は?犬?」

良く見ると、仔犬が数匹籠に入れられ、悲しそうに鳴いていた。

「可哀想に…。助さんどうします?」

「連れてくか?捨て犬だろこいつら。」

「え?どうしてわかるんで?」

「文が入ってる。ほら。」

仔犬を頼みます。
可愛がってください。

「かわいそうにな。お前ら飼い主に捨てられたか。母上と離れ離れか?」

中の仔犬たちは助三郎をじっと見ていた。

「とにかく連れて行こう。…早苗の土産になる。」

遅くなって怒ってるに違いない。
でも、これ見せれば笑ってくれるはず。

「助さんは、犬好きですか?」

「好きだぞ。でも早苗は俺よりずっと好きだな。」

「ほんと動物好きなんですね?早苗さん。」

「あぁ。」




宿場に入り、宿を見つけた時すでにあたりは暗くなっていた。

「ただいま戻りました!」

早苗の姿を期待したが、出てきたのは眉間にしわを寄せた男だった。

「こんなに遅くまでなにやってたんだ?」

怒った顔は見たくなかった…。

「怒らないでくれ、事情があったんだ。なぁ?新助。」

「そうです格さん、のっぴきならない事情だったんで。」

「へぇ…。」

これ以上不機嫌な顔を見ていたくない。
この拾い物見せれば一件落着だ。

「格さん、これ見ろ!」

籠を目の前に差しだした。

「あっ可愛い!どうした?」

パッと表情が明るくなった。
やっぱり、喜んでくれた。

「拾った。だから遅くなった。」

「そうか。貸してくれ!」

「ちょっと重いぞ、持てるか?」

「あぁ、平気だ。」
そういうと籠を受け取り、奥に入って行った。
その様子を見て助三郎は唖然とした。

あいつ、やっぱり俺より力が強い…。
仔犬とはいえ何匹も入って重かったのに。
あんなに軽々と持って行った…。


そこへ光圀がやってきた。

「寄進はできたかな?」

「はい。滞りなく。歴史資料もいただきました。それと、犬を拾いました。」

「犬?」

ご隠居に見せないと。
部屋に置く許可をもらわないといけない。

「早苗、どこやった?」

探しに行くと、彼女は由紀と二人で仔犬を眺めていた。

「可愛いわね。」

「うん。すっごく可愛い。」

助三郎の眼には早苗しか入っていなかった。

やばい。
早苗、かわいい…。
仔犬なんか霞んじまうな。

顔がニヤけてしまうのをどうにか抑えようとしていると、新助にからかわれた。

「助さん、何鼻の下伸ばしてるんです?」

「うるさい!」



皆で、拾ってきた仔犬を確認した。
柴犬、紀州犬、甲斐犬いろいろ混ざったような雑種だった。
茶色がかった白いのが二匹、焦げ茶色のが二匹、真っ黒が一匹。
雌と雄バラバラの五つ仔。

「もらってくれる人を探すかの。」
光圀の一言で決まった。

明日から、旅しながら仔犬の飼い主探し。
仲間が一時的だが増えた。



夕餉をとった後、犬の世話をしながら、助三郎は早苗に言った。

「早苗、お前は飼い主募集をやるな。」

「なんで?」

「…犬なんかどうでもいい変な男が寄って来たら困る。」

「…それだったら、貴方だってそうでしょ?」

「は?」

「…女の子、たくさん寄ってくるもん。」

「…妬いてんのか?」

「…だって。」

彼女が恥ずかしがる様子がたまらなかった。
犬をほっぽり出し、早苗を抱きしめたくなった。
だが、もう夜だ。もう少しで格之進になっちまう。
今のうちだ。
手だけでいいから、握りたいな。

そう思い、恐る恐る手を伸ばした。
早苗も、そっと手を差し出してきた。
お互いの手が触れると思った瞬間、邪魔が入った。

「ねぇ、二人でなにイチャイチャしてるの?」

由紀が興味津津で覗いていた。

「何でもない!」

二人でどなり、何事もなかったかのように、仔犬の世話を再開した。






次の日の朝、散歩に出かけることになった。

早苗は助三郎と新助と犬を抱っこして歩いていた。
しかし、仔犬が少し重く腕が疲れてきた。

「大丈夫か?」

「うん。でも、二人とも持てないわよね?」

「あぁ。」

助三郎も新助も二匹ずつで手いっぱいだった。

「しょうがない。変わる。」

眼の前から早苗が消え、格之進が現れた。

「よし。これで軽くなった。」

「便利でいいな。重いもの楽に持てる。」

「だろ?男の方が力が強いからな。」

しかし、腕の中の仔犬が暴れはじめた。

「どうした?」

言うことを一切聞かなくなった。

「格さん、危ないから戻れ!」

言われるまま、早苗に戻った。
重みがまた復活したが、仔犬はおとなしくなった。

「なんでですかね?」

男を嫌がるのかと思い、二人に代わる代わる抱かせてみたが、同じようなことはなかった。

やっぱり、わたしがイヤなのかな?
なぜか男の姿を嫌がる動物が多い気がする。
本能的に、何かを感じ取り、得体のしれない術で姿を変えていることを気味悪がっているのかも。
作品名:雪割草 作家名:喜世