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雪割草

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〈66〉貴方は?



朝早く、早苗と助三郎はクロと遊んでいた。

「クロ、取っておいで!」

棒を投げると、走ってくわえて帰ってくる。
その棒を渡し、投げてくれと言わんばかりにせがむ。

「偉いなぁ。よし、今度はもう少し遠くだ。」

助三郎が力いっぱい投げると、大喜びですっ飛んで行った。

「可愛いな。」

「うん。」

遠くに行ってしまったらしく、クロはまだ帰ってこなかった。
しばらく沈黙が続いた。

「…早苗。」

「なに?」

そっと手を重ね、じっと見つめられた。
彼の黒い瞳に引き寄せられた。

この人の眼にわたししか映っていない。

周りに誰もいない。
朝だけど、二人きり。
もしかしたら…。
期待してもいいかな?

鼓動が激しくなった。
それを抑えようと、そっと目を瞑った。
肩にそっと手が触れた。
やっぱり。期待しちゃう。


しかし、モサモサした暖かい物が彼女のほっぺたに当たった。

「くすぐったい!」

眼をあけると、自分の顔に当たっていたものはいなくなり、代りに助三郎の顔をなめていた。

「なんだ、クロ?邪魔するとはいい度胸だなぁ。」

「ワンワン!」

棒をとってきたが、主人二人に除け者にされた気になって、クロは二人の間に割り込んだ。
二人に再び相手をしてもらえたので、大喜びだった。

「あれ?クロ。棒はどうしたの?もう終り?」

「ワゥ!」

すぐさま棒を加え、早苗に渡した。
まだ遊び足りない様子だ。

「おい、まだやるのか?」

「いいわ、でもこれで終わりよ。御飯食べなきゃいけないから。」

「ワンワン!」

「とっておいで!」

再び、クロは棒を取りに突っ走って行った。

「あいつ、足が速いなぁ。」

「そうね。」

…助三郎さまチュッてしてくれるつもりだったのかな?
クロに邪魔されちゃったけど、またいつか、してくれないかな?
楽しみにとっておこう。




手短に昼を済ませた後、宿を出立した。
クロは途中で抱っこしなくても、一匹で十分歩けるようになった。
一行の後になり先になり勝手気ままに歩いていたが、絶対に行方知れずにはならない。


山道で少々道が荒かったので、茶店で休憩することにした。
しかし、一匹の姿が見えなかった。

「格さん、クロどこいった?」

「ちょっと先に行ったみたいだな。クロ、帰ってこい!」

そう早苗が声をかけ少しすると、戻ってきた。

「お、帰ってきた。偉いなぁ言うことちゃんと聞く。聞かないのは新助だけか。」

「そういう事言わないでくださいよ。」

新助は助三郎に嫌味を言われ不満顔だった。

「なら新助、お座りさせてみろ。」

鼻を明かそうと堂々と命令した。

「お座り。」

しかし、仔犬は地面に這いつくばった。

「ハハハ、伏せしてるぞ。」

しかも、ころころと転がり始めた。

「…だったら、お手。」
手を差し出すと、違う方の手が返ってきた。

「おかわりになってるわよ。」

「…格さんちゃんと教えたんですか?」

あまりにもおかしいので、新助は早苗に泣きついた。

「もちろん。見とけよ。」

クロは賢かったようで、すぐ普通の犬がすることは皆覚え完璧にこなせた。

「伏せ、お座り、お手。」

「すごいわ。よくできたわね。ごほうびあげる。」

お銀に非常食の干し肉をもらい、満足げな様子だった。

「……。」
助三郎に言われたとおり、クロは新助の言うことを一つも聞かなかった。
情けなくなった新助は黙りこくってしまった。

「新助、そうしょげるな。クロ、この人をからかったらダメだぞ。返事は?」

「ワン…。」
不満げに低く一声吠えた。

「新助、もう一度やってみろ。」

「お座り。」

今度は新助の言うことをしっかり聞き、命令に従った。

「ほら、できたじゃないか。」

「へぇ。凄いですね格さん。」

早苗は理由がわかっていた。新助が悪いのではなく、原因は助三郎だった。

「あんな意地悪助さんの真似したらダメだぞ。素直が一番だ。」

飼い主の行動をよく見ている。
面白半分に真似していたようだ。

「はぁ?俺は意地悪じゃない。」

「どうだか。」

「口喧嘩はごめんじゃ。行くぞ。」

光圀の制止が入ったので、嫌味の言い合いは未然に防がれた。



天気が思わしくなかったので、早めに宿を取った。
クロが仲間に増えてからは、なるべく庭付きで犬を入れても良い宿を探すようにした。

宿についてすぐ、旅装を解いてない助三郎は再び出かけようとしていた。

「早苗、ご隠居とみんなを頼む。ちょっと行ってくる。」

「お使い?」

「あぁ。そんなに遠くないから、昼過ぎには戻ってくる。そうしたら、二人で出掛けないか?」

「いいの?」

「褒美らしい。行きたい所、考えておいてくれるか?」

「うん。…では、助三郎さまお気をつけて。」

「あぁ。早苗もな。」

それから早苗は仕事を手際よく終わらせ、助三郎の帰りを待ちわびながら、二人で何しようか考えた。


二回目の逢い引き!
もっと二人でおしゃべりしたいな。
それとも、クロを連れて散歩?
お弁当持って三人でボーっとすごす?

何にしようかな。





しかし、助三郎は約束した昼になっても帰ってこなかった。
そればかりか、日が暮れても帰ってこなかった。
少し良くなっていたと思われた雲行きは以前よりひどくなり、今にも降り出してきそうだった。

早苗はなぜだか、胸騒ぎがした。


「助さん、おそいですね。また寄り道してたりして!」

「そんなことしないと思う。昼には帰ってくるって言ってたから。」

早苗が心配性だと言うことはこの前の件で新助にはよくわかった。
特に助三郎のことになると、ひどくなる。

「…心配しなくても、大丈夫ですよ。ちょっと道に迷ったとか。いろいろありますよ。」

安心させるために無難な言葉を選び、話しかけた。

「そうかな?」

そうしているうちに、人の気配がした。

「…ただいま戻りました。」

「噂をすればですよ!お帰りなさい、助さん、遅かったですね。」

「あ?まぁ…。」



何かおかしい。
目の前に居るのは助三郎さまに違いはない、
しかし早苗は一目見た瞬間感じだ違和感を拭えなかった。
庭の隅から彼の姿を見つけ走り寄って来たクロも、なぜかうなりはじめた。

自分を拾って助けてくれた助三郎を一番好いている。
それなのにうなるなんて…。
やっぱり、おかしい。
助三郎さま、クロに近寄ろうとしてない。
どうにかして逃げようとしてる。
これは…。


「どうしたんです?早苗さん。」

「…なんでもない。」

敏感な新助さんも気付いてない。

「…早苗?」
助三郎が声をかけた。


間違いない。
でも、しばらく様子を見よう。

後ろに立ち、彼の様子を見張りながら、ついて行った。


「助さん、どうだった?」

「疲れたじゃろ?」

由紀もお銀も、光圀でさえも普通に会話をしている。
誰も何も気が付かないようだ。

知らず知らず、彼を見る目が険しくなっていたようだ。光圀に聞かれた。

「早苗、どうかしたか?」

「いえ、なんでもありません。」

隙を見せたらいけない。
この人は何なのか、確かな証拠を見つけないと。
作品名:雪割草 作家名:喜世