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雪割草

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〈67〉身代わり



遡ること数刻前、無事に使いを終えた助三郎は宿に戻る途中だった。
宿に帰って、早苗を誘って何をしようかとぼんやり考えながら歩いていた。
そのせいで、曲がり角で向こうから小走りに向って来た笠をかぶった侍に気がつかなかった。

互いにぶつかってしまったので丁重に謝った。
町人とぶつかれば『どこを見ている!!』と凄い剣幕でどなり、刀に手をやる侍も少なくない。助三郎も武士だが、水戸にいたころはそんな馬鹿なことはしなかった。
彼がぶつかった侍は人がしっかりできて居たようで、怒りはせず、丁寧に謝られた。

「お怪我はありませんか?すみません。急いでいたもので…あっ。」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。」

腰の低い侍だと、ふと思った。再び謝ってその場を後にしようとした時、侍に呼び止められた。

「…時間はございますか?」

「え?まぁ、有るには有りますが…。」

「では、一緒に来てくださいませんか?」

「はい…。」

不審に思ったが、斬られたら困ると思い、
しかたなく助三郎は後について行った。
町を過ぎても侍はどんどん進んで行った。
結局、人気のない町はずれの雑木林にやってきた。
その中にポツンと一軒お堂があった。
そこへ侍は入って行った。

「どうぞ、お座りください。」

「はい。」

「大変申し訳有りません。ぶつかっておいた上に連れまわして。」

やたらと低姿勢な侍だな。
町人の身なりの俺に丁寧な言葉しか使わない。

「お侍さま、何か御用ですか?」

「あなたに折り入ってお頼みしたいことが。」

そう言うと、目深にかぶっていた笠を取った。
その瞬間、助三郎は自分の眼を疑った。

自分そっくりな男がいた。
もちろん武士の髷を結い、羽織り袴を着け、大小を差してはいるが、他人が見たらどちらがどちらかわからないだろう。

声もなんとなく似ている気がする。
こりゃ双子って言ってもバレないだろうな。

「驚きましたか?私も貴方を見たとき、幽霊でも見たのかと。」

「はぁ…。それはそうと、お侍さま、私に用とは?」

「…入れ替わってくれませんか?」

「え!?」

突拍子もないことを言ってのけたが、目の前の自分そっくりな男はなぜ入れ替わってほしいか、何がしたいのか、簡潔明瞭に説明した。

「私は、城に行けと?」

なんで城?
登城日をすっぽかしたのか?

「そうです。城でじっとしていただけばありがたい。すぐに戻りますので。」

じっとしてろって言われてもな。仕事ないのか?
いや。もしや…。

「あの、恐れながらお伺いしますが、貴方様は…。」

「申し訳ありません。言い忘れておりました。一応、この藩の次期藩主の義勝と申します。」

げ。
普通の侍じゃなかった。
殿さまの身分だったか。
よりによってこんな方と瓜二つなんて、厄介なことになったな…。

「ご無礼つかまつりました。平にご容赦を!」
一応謝っておいた。

「頭をあげてください。あなたのお名前お聞きしてもよろしいですか?」

「はい、越後のちりめん問屋で手代をしております、助と申します。」

「武士ではないのですか?」

不思議でたまらないという顔をされた。

「……。」

バレてたか?どう切り替えそう。

「あっ。言いたくないのなら構いません。助さんでよろしいですね?」

人のことを根掘り葉掘り聞くのは失礼と思ったのか追及はしてこなかった。

「はい、若さま。あの、どうしてそうまでして出歩く必要が?」

「…抜け出して助けを請おうと思いまして。」

助けって、なんかきな臭い。
何か背後に危ないものがあるな。

「あの、御身が危ないのですか?」

「はい。私の命を狙うものがいます。」

「…それは危ないですね。誰かおわかりですか?」

「それがわかれば苦労しません。」

苦笑いするにも、何か奥に不安と悲しみが見えた。
自分に姿形が似ているが、下手すればコロッと騙されてしまいそうな、純粋な若様。
助けたい。力になりたい。
助三郎は決心した。

「城下の屋敷に味方がいるので、話をしに行きたいのです。ほんの少しの間だけ、受けていただけませんか?」

「いいでしょう、入れ替わりお受けいたします。しかし、条件が二つほどございますがよろしいでしょうか?」

「なんですか?」

「一つは、私には共に旅をしている主が居ります、その者が滞在している所に戻っていただきとうございます。二つ目は、その主に事の次第を相談なさってください。そして私のことは気にせず、そこに留まってください。」

「…助さんの主は、もしや名のあるお方ですか?」

「今は申せませんが、信用に足るお方です。」

「わかりました。本当に感謝いたします。」

ご丁寧に頭を下げて礼を言われた。
将来の殿さまらしくないな。

「礼は、貴方様の安全が確かなものになってからで結構でございます。」


早速、二人は互いの持ち物、服装を交換し。姿を入れ替えた。
互いの情報交換もし、それぞれ別れようということになった。
しかし、町人姿の義勝に止められた。

「助さん、ひとつ提案があるんですが。」
いたずらっぽく、笑ってそう言った。

「奇遇ですね。私も一つ。」

二人とも、同じことを考えていた。







「…という訳で入れ替わってもらいました。」

簡潔明瞭に助三郎と入れ替わってもらった事を光圀に説明した。

「…なんで、助さんの振りをしようとしたんですか?」

やっと落ち着いてきた早苗は義勝に聞いた。

「ちょっとした冗談で…お互いの相手が自分をどれだけ理解してるか確かめるために。」

「あの、若様のお相手は?」

「相手ではないですが、子供の時から一緒なので確かめてみたいなと。」

恥ずかしそうにそう言う姿が、助三郎に良く似ていた。
二人とも、奥手か…。


「義勝殿、狙われているの意味を聞かせてくれませんかな?心配無用です。ワシはあなたの味方です。」

義勝は、意を決して話し始めた。



父親である先代藩主は彼が五つの時に亡くなった。
跡目は、遺言にあったとおり、叔父が継いだ。
正室だった母親もちょうどその頃病で亡くなったので、江戸の藩邸から国家老である岸田孫兵衛に引き取られ、彼の子ども同様に育てられた。
そして近頃次期藩主候補に挙げられ、城で生活をしていた。
その頃から不審なことが続いている。

たとえば、御膳に手を出した猫が、血を吐いて死んだ。
夜な夜な天井から妙な音がするかと思えば床下からもおかしな音が。
家老が義勝に付けてくれた小姓の少年が不審な死に方をした。
梁に掛けてあるはずの槍が不意に落ちて、目の前の畳に刺さった。
的場で弓の稽古をしていると、必ず一回は弓の弦が切れるか、弓を引き分けている間に矢や弓が折れる。

この恐ろしい話を聞き、早苗は助三郎の身が不安になり気分が悪くなって席を外した。
由紀はすぐさま彼女を安心させるため、後を追った。

「申し訳ありません。早苗さんが…。」

「心配は御無用。あれはあれなりに強いので、じきに良くなります。ところで、お見方はいらっしゃるのですかな?」

「その育ての親の家老と、私の側に腰元として付いてくれている娘の小夜くらいです。
作品名:雪割草 作家名:喜世