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雪割草

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〈68〉尽きない気苦労



若様と入れ替わった助三郎は、城に向かった。
教えられた裏口から城に入り、描いてもらった地図を頼りに部屋に行った。
入った途端、腰元らしい女からキッと睨まれた。

これが、小夜さんか?

「若様、どちらへ行かれていたんです?」

「ちょっとそこまでだ。何か文句があるのか?」

「いいえ。」

言われた通り、尊大に話すようにした。
どう考えてもあの若様が話しているわけがないが。

部屋の奥の座布団の上に腰かけ、脇息にもたれながらそっと小夜を観察した。

早苗より背は大きい、すらっとした美人だ。
若様がひそかに想ってるだけあるな。側室にでもする気か?
綺麗もいいが、やっぱり可愛い方がいいな。
早苗みたいなの。性格も見た目もすべて可愛い!
優しいし、芯が強くて賢い。
心配症なのがいけないが、俺の大切な友達にも変われるから、あれ以上良い女はいない。
しかし、小夜さん、性格も気が強くて怖そうだな。
妹の千鶴に似ているかもな。あいつ怒るとめちゃくちゃ怖い。将来夫になるやつは可哀想だ。
見合いやってるのかな?早く義弟欲しいな。

やることが無く暇すぎてついつい余計なことを考えていた。

知らない間に、夕餉が目の前に出された。しかし毒見をした後ですっかり冷めきっていた。
周りを囲む女中達は無表情で黙ったまま。静まり返っている。

味気ないな。みんなでワイワイ食べる方がいい。
どんなに豪華で美味い料理もこんなんじゃまずくなる。

しかし、腹が減っていた助三郎はすべて平らげた。

なぜかそこで小夜が人払いを命じた。
数人いた女中は皆いなくなり部屋はさらに静まり返った。

「若様、お茶を一服どうぞ。」

そういうと、彼女は部屋の隅で茶を点てはじめた。
慣れた手つきで御手前をやってのけ、助三郎の目の前に茶碗を置いた。

一応、洗練はされてないが一通りの作法はわきまえている。
茶碗を手に取り作法通り飲み干した。
茶碗を置き『結構なお手前で』と言おうと思い、小夜に目をやった。
しかし、彼女はさっきいた場所から消えうせていた。
姿を探そうと、首を回したとたん、ひんやりとしたものが首筋に当たった。


思ったより過激な女だった。
懐剣でいつでも彼を始末できるように、ぴったりと首の動脈に沿って当てていた。

「…お前は何者だ?わたくしの眼を騙そうなどと百年早い!」

威圧感たっぷりに脅しをかけてきた。
綺麗な顔なので余計怖い。

「…はは、気づかれましたか?」

「笑うでない!名を名乗れ。名乗らねば切るぞ!」

冗談が通じない。真面目にしないと殺られる。

「助と申します。わけあって身分は申せませんが、若様に頼まれてここに来ました。文がここに…。」

念のために義勝に書いてもらった文を手渡した。

「若様はどこにいる?」

一通り眼を通した後、一言聞いた。

「私の主のところにいるはずです。」

「本当であろうな?」

「はい。信じてください小夜さん。」

そこへ、人払いをしていたはずなのに、女中がやってきた。

「小夜さま、お風呂が沸きましてございます。」

「勝手に入るでない。寄るなと申したはずだ。」

「申し訳ありません…。」

「まぁよい。すぐお入りいただく。さあ、若様参りましょう。」

「あぁ…。」

小夜が作った笑顔が恐ろしかった。


案内された風呂場で早速湯につかった。

「ふぅ。生き返る…。」

宿の小さい風呂とは違い、大きくてゆったりした浴室だった。
湯船も大きく、広々として落ち着ける。

「良い風呂だ。早苗が喜ぶなぁ。…早苗。」

あんな怖い女の子良く好きになるな、あの義勝殿は。
人の好みはわからんな。

「若様、お背中お流し致します。」

「え!?」

声に驚き振り向くと、軽装に着換えた小夜がいた。
話には聞いたことがあるが、紀州の若様は風呂場で母上が手をつけられたから生まれたんだとは聞いていたが…。ほんとにあるんだ…。

「…油断大敵です。どこに敵がいるか。」

風呂も安心して入れないんだな。かわいそうに。
しかし、俺は若様じゃない。

「…小夜さん、湯女みたいな事して、平気なんですか?」

「…いつもの事です。若様を守るためなら。」

「…そうですか。」

「…それはそうと、人前で裸になってはいけませんよ。」

「…なぜ?」

「…顔は一緒でも、体格が違う。貴方町人では無いでしょう?」」

「はい?」

「…お店の手代ごときが身体鍛えても意味無いでしょう?」

あの若様、武士なのに鍛えてないのか?
俺の方が、筋肉付いてるのか?
まぁ、あっちの方が逞しかったら、早苗になんて思われるか…。
待てよ…。あっちに惚れちまったらどうしよう。
義勝殿の方が絶対教養も所作も洗練されている。
俺はふざけてるし、荒っぽい。ヤバいかな…。

不安に一瞬駆られたが、それどころではない。
今は仕事だ。仕事に集中しないと格さんに怒られる。
でもなぁ、格さんにも会いたい。
城はつまらないから、あいつと将棋でもしながら無駄話したいな。
クロと棒の取り合いも面白い。
動物この城にいないのかな。

「…若様も、弓を引く筋肉以外をもう少し鍛えて下されば、男前が増すというもの。」

無駄な事をひたすら考えていたが、その言葉で現実に戻された。
女の人に裸をまじまじと見られ、背を流されているうちに、ものすごく恥ずかしくなった。
今まで、早苗に無意識のうちに見せつけ、由紀には風呂を覗かれたが、こんな至近距離で初対面に近い女に見られたことはなかった。
その緊張のせいで、ついついふざけてしまった。

「つかぬことをお聞きしますが、若様は貴女とここで…。」

「何を聞くのです、若様。ほほほほほ。」

笑いながら、素肌を思いっきり抓られた。

「痛ってぇ…。爪が食いこんだぞ!手加減してくれよ…。」

「汚い言葉遣いはなさらぬように。良いですね。貴方は若様の身代わり。わかりましたか?」

「はい…。」

怖い女はイヤだ。
早苗に会いたい…。癒されたい…。





次の日、光圀は義勝に付いて早苗とお銀と共に家老の屋敷へ出向いた。
互いに入れ替わった話は聞いていたようなので、話は早かった。
真相究明に手助けすると確約し、義勝も助さんとして匿ったままにすることにした。
しかし、助三郎でもない男を『助さん』とは呼べない。
義勝だから、『義さん』と呼ぶことに決めた。



早速、宿に戻り義勝の技量を確認することにした。
次期藩主、それ相応の高い技術をもったなんとか流の先生が何人かついているはず。
できるに決まっているが、どれくらいできるか確認をしておきたかった。

「義さん、好きにやってくださいな。早苗の心配はいりません。そうじゃな?」

「はい。今の私は男です、遠慮は御無用。どこからでもどうぞ。」

「この者は柔術は得意じゃが、剣術はまだまだじゃ、義さんの足元にも及ばんかも知れんが、相手をしてみてくだされ。」

「…はい。」
とは返事が返ってきたが、全く乗り気でない様子がひしひしと伝わってきた。
構えてはいるが、一歩も動かなかった。

「あの、私から行ってもよろしですか?」
痺れを切らした早苗が言った。

「…はい。どうぞ。」
作品名:雪割草 作家名:喜世