二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

雪割草

INDEX|159ページ/206ページ|

次のページ前のページ
 

〈74〉相談



助三郎は次の日思いついて、早苗に一輪の花を摘んで差し出した。

動物の方が好きな子だけど、花が嫌いじゃない。
小さいときに一度、あげたことあるし。
その時は笑ってくれた。
今回も、きっと大丈夫だ。

期待を込めてそっと差し出した。

「なんだ?」

「これ…。お前に…。」

ちらっと早苗は花を見たが、
「なんの真似だ?用事ないなら行くぞ。」
と鼻で笑われ、受け取って貰えなかった。

一輪じゃダメかな。
もっといっぱい摘んで束ねて綺麗にすれば喜んでくれないかな?

再び、差し出した。

「またか、なんだ?」

「これ…お前に。」

花束なら…。
笑って欲しい。自分を見てほしい。

しかし、その期待は裏切られた。

「…そんなもの。」

「…え?」

「そんなもの摘んでる暇があったらほかのことしろ。
どうしてもやりたいなら可愛い娘にでもあげるんだな。
髪にでも差して『似合うよ』とか行ってやれ。」

「そんな…。」

許嫁は笑ってくれず、助三郎を睨んだ後去った。




一日中悩みに悩みぬいたが、原因が分からなかった。
そこで不安が頂点に達した助三郎は晩、光圀に相談した。

「…ご隠居、私は早苗に何かしたでしょうか?」

「どうかしたのか?」

「避けられているんです…。この置手紙が置いてあった日から。」

光圀に取っておいた不吉な文を手渡した。

「…これは早苗が書いたのか?」

「はい。あれは違うと言いましたが。」

「どういうことだ?」

「そんなの書いた覚えはない。自分は格之進だからと。」

「まぁ。姿がそうだからの。」

「近頃、無視されます。どうも、私が一番酷いようで。」

「確かにな…。」

光圀は早苗の様子が今まで以上に暗いので、あまり声をかけず、そっとしてた。
仕事は今までどおりきちんとこなすので、心配は無いと思っていた。


「…なぜでしょうか?」

「早苗の姿に戻れないというのは聞いたか?」

「はい、本人から。しかし、まだ数日でしょう?そこまで心配しなくても、じきに戻ると思うのですが…。」

「いったい何を早苗から聞いた!?」

さっと表情が険しくなった主の顔を見て、助三郎は嫌な予感がした。

「え?」

「…数日どころの騒ぎではないぞ。」

「…どれくらい、ですか?」
恐る恐る聞いた。

「お前さんが若様と入れ替わって居たであろ?あの時からどうも様子がおかしかったらしい。」

「…どういうことです?」

「ワシと義勝殿を守るため、ほとんど男の姿で過ごしておったのじゃがな、どうやら自分の意に反しておなごに戻ったり、男に突然変わったりおかしかったそうじゃ。」

「それで?」

「その時から、なんとなく自分の様子に不安を抱えておったようじゃ。それで、お前さんが戻ってきた日から、まったく戻れなくなったらしい。」

「…ということは、一月以上、ですか?」

「そうじゃ、もう二月近くになるかの。お前さん、なにも気付いていなかったのか?」


そういえば、女の子の早苗の姿を最後に見たのはいつだ?
なかなか頼んでも仕事中で戻ってくれないことが多かったので、気にもしていなかった…。
だが、黙っていたのか…。
心配性すぎる性格が祟ったか?


あっ。
そう言えば置手紙があった前の晩、酔いに任せて変なこと言っちまったな。
その次の朝からだ。あいつがおかしいのは。
俺を無視するのは、そのせいだろうな。
怒ってるのか。

「…不安定になっているかも知れん。言葉には十分気をつけるんじゃぞ。」

「はい。しかし、ご隠居おかげでなんとなく怒ってるわけがわかりました。今から謝ってきます。失礼します。」

「…怒ってるのか?」

光圀は助三郎の一人我点に納得いかなかった。




原因がわかった。
早く謝らないと。
謝って、機嫌治してもらわないと。
笑ってもらいたい。
名前を呼んでもらいたい。


「格さん。」

「…何か用か?」
早苗は日誌をつけるために墨を摺っていた。
そのせいか、こちらを見てはくれなかった。

「俺が悪かった。馬鹿だった。許してくれ。な?」

「…何のことだ?」

「変なことお前に言っただろ、それで…。」

「は?いったい何を言っている?」

「なぁ…。機嫌治してくれよ。そう怒ってないでさぁ。」

「……。」

早苗は黙りこくったまま墨を磨り続けていた。
部屋の灯明に照らされた顔の眉間には、次第に皺が寄って来ていたことに、助三郎は気付かなかった。

「聞いてるのか?なぁ。」

「…うるさい。」

手を止めずに彼女はそう一言言った。

「え?」

「うるさいって言ったんだ。仕事の邪魔だ。」

そう言うと再び墨を磨り始めた。

ちゃんと謝らないと、ここでしっかりしないと。

「…お願いだ、そう怒らないでくれ。早苗。」

言った途端、墨を磨る手を止めた彼女の表情は豹変していた。

「…誰の事言ってる。」

「お前に決まってるだろ?早苗…。」

「そんな女どこにいる!?」

怒鳴られ、今まで見たこともない恐ろしい表情で睨みつけられた。

「……。」
驚きのあまり、声が出なかった。

「用がないならさっさと出て行け!」

物が飛んで来そうな剣幕だったので、急いで部屋を後にした。





どうしよう…。
なんで、あんなに怒ってるんだ?
早苗って呼んだだけであんなに怒鳴り散らす?
前は平気だったのに…。
早く謝らなかったのがいけなかったか?


そのまま、助三郎は光圀に泣きついた。

「ご隠居、早苗に怒鳴られました…。」

「変な事を言ったのではあるまいな?」

「なにも…。」

「まぁ、よい、わしが聞いてくる。休んでおれ。もう遅い。」

「…お願いします。御先に失礼します。」




光圀は早苗の所へ行く前に弥七を呼んだ。

「こっそり様子をうかがってくれ。お前さんの意見も聞きたいからの。」

「へい。」



早苗を訪ねると、机に向って日誌を書いていた。
「ちょっと良いかの?」

「はい。なんでしょう?」

少し暗いが、今までと変わらないような気がしないでもない。
しかし、助三郎の報告が引っかかっていた。

「早苗。お前さん近頃どうしたんじゃ?」

「ご隠居、私は格之進です。早苗などという名ではありません。」

怒鳴りはしなかったが、あからさまに迷惑だという表情をしていた。

「…無理に男のふりをするでない。」

「何をおっしゃるんです?私は元から男です。」

そう平然と言ってのけた表情がなんとなくおかしかった。

「…気は、確かか?」

「はい。」

頭を打っておかしくなったのではとも思い、確認することにした。

「お前さんの父親は?」

「おりません。」

この言葉に光圀は耳を疑った。

「…橋野又兵衛ではないのか?」

「橋野殿は親戚です。私には父も母もおりません。」

父母をこのように言うとは…。

「では、助三郎とはいつ知り合った?」

「ご隠居にお供することが決まった時に。」

再び耳を疑った。許嫁を守りたくて旅についてきたはず。
好きで好きでたまらず、やっと二人でイチャつける事を喜んでいたのに。

「…あれはお前さんの許嫁ではないのか?」
作品名:雪割草 作家名:喜世