二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

雪割草

INDEX|161ページ/206ページ|

次のページ前のページ
 

〈75〉異変



助三郎は光圀に許嫁の異変を相談したが、何の変化も見られないばかりか、関係はますます悪化した。
全く話を聞いてくれない。近寄ると離れて行く。無理に声をかけると怒鳴られる。
散々だった。


そこで文を書いた。
日頃隠れて習字していた成果を見てもらうためにも、目一杯綺麗な字で思いの丈を綴った。
口でダメなら、文字で勝負。
しかし、渡すために近寄ろうとしても逃げられ、渡す機会をつかめなかった。
由紀に頼むことにした。

「…これ、早苗に渡してくれないか?」

「なんで?自分でやれば?」

「俺からだと受け取ってくれないだろうから…。」

「わかりました…。」

期待半分、不安半分で由紀の帰りを待った。

「受け取ってくれたか?」

深刻な表情の由紀から返ってきたのは吉報ではなかった。

「…いいえ。イヤだって。突き返されました。代りに伝言預かって来ましたが聞きたいですか?」

「あぁ。なんだって?」

「この世にいない幻に文なんか書くな、と。それを自分の所に持ってこさせるな、と…。」



声が出なくなった。

いったい、どうしたらいいんだ…。
怒ってるんじゃないのか?なんなんだ?
あんなに優しい早苗だったのに、格さんだったのに。
いったい何がどうなってるんだ?




睨まれ、怒鳴られ、無視されるのを承知でその日も早苗への接触を試みた。

「…なぁ、俺が、嫌いか?」

「……。」

「…はっきり言ってくれ。」

「…お前だろ?」

「…え?」

「俺の事嫌いなのはお前だろ?わかりきったこと言わせるな。…これ以上無理して寄って来るな。」

「無理なんかじゃない。嫌いじゃない!お前が好きだから…。」

「…迷惑だ!さっさと失せろ!いいな!」

「早苗…。」

「誰が早苗だ!?いい加減にしろ!」



まただ。また怒鳴られた…。
どうしよう…。


その晩、助三郎は眼がさえ、眠れなくなった。
厠へ行った帰り、縁側に座り、空を眺めた。
晴れて綺麗な星空だった。

織姫と彦星か…。
水戸に置いてきたと思っていた早苗は、最初から傍にいてくれた。
ずっと言えなかったこと、やっと言えて、二人の距離が縮まった。
命がギリギリのこともあったが、なんとかあいつの前に生きて帰ってこれた。
あの時、すごく喜んでくれたのに…。

今、隣にいるのに、目の前にいるのに、心が近くにない。

織姫と彦星は遊びすぎでイチャイチャしすぎて天帝にお叱りを受け、天の川で隔てられた。
俺は不真面目だが、遊びすぎてはない。
俺と、早苗の間で何が邪魔しているんだ?
障害は何だ?

早苗を取り戻したい。
…もし、本当にあいつに嫌われたのなら、諦める。
俺なんかよりずっと良い男に心を奪われたなら、諦める。
でも、何も言ってくれない…。



懐に肌身離さず持っているお守りを取り出して眺めた。
あの日、重くなって存在を主張し、自分を助けてくれたお守りは近頃存在を感じられないほど軽くなっていた。
不吉にも綻びから縫い閉じてあった袋が開いてしまった。
何が入っているのか確かめようと開けてみた。
中から出てきた物は、早苗の銀の簪、国元の神社の御守り、
そして小さな折りたたんだ紙だった。
その紙を開き、中に書いてある文言を見て助三郎は驚いた。

『佐々木助三郎をわたしの命に代えても御守り下さい。
どうか御無事でお戻り下さい。早苗。』


字が、置手紙と違った。
あの文の字よりもずっと洗練された柔らかい優しい字。
あれは自分で書いたんじゃなくて、誰かに書かせたんだ。
本心は違うはず…
婚約破棄なんてありえない。
どうしてわざわざ他人に書かせてまで?


これが、早苗が俺を守ってくれたのに…。
俺はあいつを守れなかった。すべての災いから早苗の笑顔を守ろうと思っていたのに。
そのために強くなろうとしていたのに…。

俺は大馬鹿だ…。
人間のクズだ…。


落ち込む助三郎は、早苗が離れた場所で悲しそうに見つめている事に、気が付かなかった。



早苗は近頃ほとんど眠れていなかった。
夜中に変な気配を感じて目が覚める。
運よく眠れても、眠りが浅い。イヤな変な夢ばかり見て目が絶対に覚める。

その晩も眠れず、体を疲れさせて眠りにつくために鍛錬をしていた。
疲労感が出たので、部屋に戻ろうとしていたところ、助三郎の様子が目に入った。


一瞬、名を呼んで近づきたくなった。


ダメだ。
何を考えてる?俺は男なんだ。相手はあいつじゃない。
嫌われてる。イヤがられるんだ。近寄ったらダメなのに…。
なのに、なんでそんなに悲しそうな振りをする?
なんで居もしない、好きでもない早苗を探すの?



助三郎が寝所に戻ったころ、早苗も部屋に戻った。
布団に入ろうとした時、また気配がした。

何かが居る。
そう確信し、様子をうかがった。
しばらくすると、気配の元が姿を現した。
人ではない者、だった。

今まで見た事がない形相、鬼と河童が混ざった様な子猫くらいの大きさの者がかなり近くまで寄って来た。
それはそのまま去るのかと思いきや、突然話し始めた。

『オマエ ワレ ガ ミエル ノ カ?』

…しゃべった。でも、聞きづらいな。

『ナレル ソノウチ ナレル』

へぇ、俺の思ってること聞こえてるんだ。楽だ、声出さなくて済む。
…自分の声聞きたくないからな。

『ワレラ ハ ヨル シカ デラレナイ オマエ ハ ヨル ヒマ カ?』

我ら?他にも居るの?

『アア ミロ コレラ ナカマ』
そう言われるまま、その者の後ろを見ると豆粒の様に小さな者、猫そっくりな者、綺麗な女の人がいた。
皆、早苗の方を見ていた。

『オマエ ヨル ヒマ カ?』

あぁ、あまり寝られないからな。暇だ。

『ヨカッタ マタ クル ミナ イクゾ サラバ』

またな。


そう返事をすると、ふっと皆消え去ってしまった。

妙なヒトたちだな。
まぁいい。怖くはない。夜の暇つぶしになる。
ちょっと眠くなったみたい。
少しでも寝ておかないと、仕事に差し支える…。





早苗が浅い眠りについたころ、人ではない者が仲間たちに向って不気味に笑った。

『ケイカク ドオリ テハズ ドオリ ヤルンダ アレヲ ナカマ ニ スル ゼッタイニ ゼッタイニ……』








由紀、新助、お銀、弥七の早苗がどうなっているのか調べる捜査は難航していた。
一番の友達の由紀にほとんどを任せていたが、彼女との世間話、無駄話さえも一切受け付けなくなっていた。
しかも、あまりに接近しすぎると、『襲うぞ』だの、『抱かれたいのか?』だのと男が言うとんでもない言葉を吐くようになっていた。


由紀は怖かったが、早苗を信じていた。
いつか元に戻ってくれるはず。思い出してくれるはず。
そう思い努力していた。


一方の助三郎は『当たって砕けろ作戦』を日に何度も行っていた。
そのたび、早苗に猛烈に怒鳴られ、睨みつけられていた。

お銀も由紀と同じような感じだったが、不思議と新助には当たり散らさないので、次第に新助に仕事が回ってきた。



その日、彼は、何時ものように物凄い勢いで助三郎に怒鳴りちらした後の早苗を見かけた。
作品名:雪割草 作家名:喜世