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金銀花

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《17》夫婦、親友、兄弟



 次の日、朝早く早苗は兄弟の泊まっている宿にやってきた。
丁度部屋の前で佇んでいる女将を見つけ、声をかけた。

「おはようございます。あの二人はどうでしたか?」

「はい。仲良くお過ごしいただいたようで…… そのせいか、朝餉をお持ちしようとしたのですが、起きていらっしゃらない御様子なので……」

 さも困った様子の女将に早苗は詫び、すぐさま夫と義弟を起こすことにした。
 部屋では女将の予想通り、兄弟が布団も敷かずに、転がっていた。
そんな彼らを見て早苗はほほ笑んだ。

「おんなじ寝顔…… やっぱり兄弟ね」

 二人ともいつか墓場で出会った亡き義父によく似ていた。
そんな寝顔をほほえましく眺めたが、早苗は助三郎の手に酒の徳利があるのを見てしまった。
 そして深呼吸をした後、耳元で怒鳴った。

「起きろ!」

「ん!? なんだ? 火事か!?」

「えっ!? なんですか?」

 格之進の大声に、二人とも驚いて起き上がった。
彼らを早苗は急かした。

「二人とも、女将さんが朝餉を持ってこられないって困ってるぞ」

 助三郎は眠い目をこすり、あくびをこらえながら仁王立ちする早苗を見上げた。

「なんだ…… 早苗か…… おはよう…… 早いな」

「普通だ。お前ら二人が遅いんだ」

「昨日飲んだから起きれなかったんだ。な? 千之助」

「はい。お酒って美味しいですが、飲みすぎはいけませんね」

 普通の会話を普通にする二人に驚いた早苗だったが、仲直りが出来たとわかり、喜んだ。

「二人で飲んだのか。よかったな! じゃあ、俺はここで失礼する」

 二人の様子に満足し、早苗はもとの姿に戻ることにした。
しかし、助三郎から止められた。

「待った! 格さん。後で用事がある」

「ん? わかった」

 それから早苗は兄弟二人が朝餉を囲む様子をそばで眺めた。
今までの疎遠がウソだったかのように仲良く笑いながら食事する彼らの様子を見ることができ、早苗は幸せを噛み締めていた。

「さて、格さん」

「なんだ?」

 早苗は慌てて男に姿を変えた。
 
「千之助の馬がな、腹壊したんだ。馬屋で見て貰いたいんだ。戻ってもいいか?」

 真っ赤なウソだった。
千之助の馬は健康そのもの。昨日の早苗のウソの仕返しだった。

「わかった。旅程が狂うがどこかで調整しよう」




 こうして馬屋に連れて行かれた早苗だったが、本当の目的を知るや否や、助三郎に喰ってかかった。

「俺を騙したのか!?」

「だって、お前絶対受け入れないから。仕方ないだろ?」

「真面目に考えろ! 馬は反物とわけが違うんだ」

「あぁ。馬は生き物だ。反物は織物だ」

「そんな話じゃない! もう一頭馬を買う金がどこにあるっていうんだ!? それに維持費が掛かるんだぞ。下男に世話もさせないといけないんだ。そういう事をお前は考えているのか? 
言いたくないが、お前は佐々木家当主だぞ! 責任があるんだぞ!」

「心配するな。俺とお前の稼ぎで佐々木家の録は以前の倍だ。金は問題ない」

「考えて物を言え!」

「馬が一頭増えたって大して変わらない。千之助が出ていく分、食費は減る。
一度計算してみろ、人間算盤格之進。お前ならできるはずだ」

 にやりとする助三郎を前に、早苗は怒る気が失せた。
 真面目なのか、ふざけているのか皆目見当がつかない言葉に、なにも言い返せなかった。

 早苗が黙ったのを見計らい、助三郎はまたもおかしなことを言い出した。

「そうだ。あれの真似だと思え。な?」

「なんの?」

「見性院が一豊公にヘソクリ十両で馬を買ったろ? それで出世したろ?」

「あぁ……」

「……あの話はウソっぽいが、この際構わん。俺は格之進にもっと出世してもらう為に馬を買う」


 早苗はとうとう助三郎に負け、馬を選ぶことになった。
尤も、動物が大好きなので文句はない。
 しかし、格之進の姿を嫌がらない馬は探すのに苦労した。
どれも嫌がり、暴れ、言うことを聞かなかった。
 
 その中に、奇跡的に一頭だけいた。
 助三郎の虎徹とは正反対の真っ白な馬。
雌ということで、大人しい。虎徹との相性も悪くはなく、むしろ気に入ってしまった様子だった。
 こうして助三郎はその馬を早苗に贈った。



 再び水戸への帰路に着いた一行だったが、突然早苗が助三郎に向かって言った。

「……あのさ、さっき一豊って言ったろ?」

「あぁ」

「もちろん、俺が一豊だよな?」

「そうかもな」

 早苗はほくそ笑んだ後、助三郎に質問を投げかけた。

「さて、助さん。一豊の奥方は誰だ?」

 大日本史編纂が仕事の助三郎、歴史は大得意。
間違えるはずはない。
 
「見性院。俗名千代」

 しかし、早苗はこんな当たり前の答えが欲しいわけではなかった。

「当たり。なら、俺の千代はどこだ?」

 怪しい笑みを浮かべる早苗に、助三郎は動揺し始めた。

「さ、さぁ……」

 そんな彼に早苗はとびきりの笑顔で言った。

「お前に決まってる。美帆、ありがとな」

 この突拍子もない言葉に、助三郎は身震いし、怒った。

「黙れ! 俺は美帆じゃない!」

 そういうや否や、馬の腹を蹴り、早苗と千之助の傍から離れて行ってしまった。

「そんなに怒るなよ! 帰ってこい!」

 遠くにいる彼に言うと、返事が返ってきた。

「なら、さっきの話は無かったことにしろ! 良いな!?」

「帰ったら一緒に寝ような。美帆!」

「絶対イヤだ! 俺は早苗と寝るんだ! 女にはならない!」

 そう言うと助三郎は虎徹を操り、輪乗りし始め、早苗の元に戻っては来なかった。

 戻ってこさせるのを諦め、彼のもとへ向かおうとした早苗に、傍で一部始終を黙って見ていた千之助が、突然声をかけた。

「義姉上」

「なんだ?」

「……私も、兄上と義姉上のような夫婦になります」

「は?」

「友達で、夫婦で、同志。そんな関係を私も目指します」

 意外な決意を耳にした早苗は、驚いたが応援することにした。
ついでに、忠告も。

「……まぁ、がんばれよ。……だがな、変なところまでは真似するな」

「はい!」







 それから一月後、千之助の婿入りの日が来た。
内密で進めてきた縁談。祝言は水野家と佐々木家の面々だけで静かに行われた。
 三月の間一度も逢うことを許されなかった若い新郎新婦を早めに二人きりにさせるべく、祝言は早めに幕を閉じた。

 そして、今、寝所で新婚夫婦は面と向かって座っていた。
互いに緊張し、黙っていたが同時に同じ言葉を発していた。

「ひさしぶり」

 言葉がかぶったことを二人で笑った後、香代は千之助に頭を下げた。

「千之助さま。今日から、よろしくお願いします」

 そんな彼女を千之助も倣った。

「こちらこそ。香代殿」

 しかし、彼は堅苦しい雰囲気を破ることにした。

「……やっぱりいつも通りで行こう! な?」

 その様子を眺め、香代はポツリと言った。

「……千鶴、変わったわね」

「そうかな?」

「……男らしくなった。本当に『千之助さま』になったのね」

「ありがとう」

「フフッ。男って言っても怒らなくなった」
作品名:金銀花 作家名:喜世