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ハイイロオオカミでマフィア企画

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二人の使者編


玖蘭は、一つのドアの前まで来ると足を止めた。
くるりと方向を変えてドアと向き合う。
この部屋のドアをノックするのはいつも緊張する。
玖蘭は小さく深呼吸すると、意を決したようにドアを小さく叩いた。

トントン

一呼吸置いて、もう二回。

トントン

たっぷり鼓動三拍分間を置いてから反応が返ってきた。

「…誰だ?」

その声が部屋の主ではないことを玖蘭はすぐに悟る。
そもそもこの部屋はボスの部屋だが、ボスの右腕ともいえるナンバー2、ナンバー3の三人でたむろしている部屋、という使い道がほとんどだということを玖蘭は知っていた。
呼吸を整えてその声に応える。

「玖蘭です。ボスにお会いしたいという方がいらっしゃっているので報告に来ました」

また、数秒の間。

「入れ」

その声を聞いて玖蘭は「失礼します」と声をかけてドアを開けた。

中に入ると向かって右のソファにこのファミリーのナンバー2である李織の姿が見えた。
手にナイフを持って、それを念入りに磨いている。
それから正面のソファにボスである蒼紀。
向かって左のソファにナンバー3のマックが座っていた。
三人はいつもこの位置に座っている。
特に決まっているわけではないと思うが、暗黙の了解のようなものなのかもしれない。
蒼紀とマックの二人は目の前にあるローテーブルに何やら紙を広げ、それを見ながら真剣に話し込んでいた。
どうやら先ほど玖蘭に対応してくれていたのが李織であったことは間違いなさそうだ。

ちらり、と李織に視線を向けられて玖蘭はたじろいだ。
普段あまり会話を交わすこともなく、遠くから憧れの視線を送るだけの自分にとってはこういう機会はいつも緊張してしまう。

「報告を」

短く促され、玖蘭はあわてて口を開いた。

「は、はい。えっと、とある方の代理で来た使いだという方が二名いらっしゃってます」
「名前と目的は?」
「えっと、鈴虫さんと松虫さんとおっしゃってました。目的は、取引交渉をしたいとか」
「…名前そっちじゃなくてとある方、の方」
「えっと…それがシュナウザー家の代理だと…」

そう言うと李織の動きが止まった。
蒼紀を振り返る。

「…どうする? 蒼紀」
「いいんじゃない? ここに呼んでよ」

蒼紀が紙から目を離さずに答えた。

「おい、お前また適当なこと…」

言いかけた李織を手で制して、蒼紀は顔をあげて玖蘭を見る。

「ここに呼んで」

そのまっすぐな視線ときっぱりとした口調に玖蘭は一瞬息をのむ。
この人はこういうとき、本当に目力というか人に有無を言わせない力がある。
この視線を一瞬恐いと思ってしまう反面、その視線に惹かれているのもまた事実だった。

「はっはい! それではお通ししますね」

玖蘭はどぎまぎしながらあわてて部屋を飛び出した。




ぱたぱたと足音が遠ざかっていくのを聞きながら李織がため息をつく。

「お前、本当にわかってんの? っていうか玖蘭の話ちゃんと聞いてた?」
「聞いてたよ」

蒼紀は今まで見ていた紙に何やら書き込むとそれをくるくると丸めながら答えた。
丸めたそれをマックに差し出す。

「じゃ、よろしく頼むわ」
「わかった」

それを受け取ってマックが立ち上がった。

「あいつにちゃんと言っといてくれよ。あいつ俺の武器だけちょっとグレード落としたやつ寄越すんだから…」

苦々しげにつぶやいた蒼紀にマックが苦笑しながらうなずき、それからふと気付いたように李織の方へ向き直った。

「李織は本当に今回新調しなくていいの?」
「あぁ。おれにはこいつがあるからな」

言いながら李織は手にしたナイフをかざしてみせた。
とあるところで個人的に手に入れたナイフだが、柄の部分に細かい装飾が入っており、李織はそれをとても気に入っていた。

「ちぇ、いいよなぁ。お前は良い武器が手に入ってさ。あ、それとマック」

言いかけた蒼紀の言葉を聞き終わらないうちにマックが口を開いた。

「わかってる。この武器リスト渡してくるついでにヨハンのところに寄ってくればいいんだよね?」
「ああ」
「まぁ、成果の保証はしないけどさ」

マックが手にした武器リストを振りながら部屋を出ていくと、李織はもう一度盛大なため息をついた。

「シュナウザー家って言ったらあの巨大な財閥だろ? なんでそんなところがうちと取引なんて」
「それが気になるから入ってもらったんだよ。ヨハンの機嫌がよけりゃ、現在の向こうの内部事情もある程度わかるだろうし」
「そんなこと言って、面白がってるだけだろ?」
「まさか」

そんな会話をしているうちに、ぱたぱたと足音が近づいてくる。
どうやら玖蘭が先ほどの客人を連れてきたようだ。

「さて、まずはお手並み拝見といきましょうか?」

蒼紀はつぶやいて、ソファにどっかりと座りなおした。