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Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)

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検体番号68番との遭遇




廃工場の第二工場と第三工場の間には一つ小部屋がある。
小部屋と言っても工場と比べて小さいという話なだけで、広さとしては小学校の教室程度の大きさがある。
廃業する前、この小部屋は事務所として機能していた。
部屋のなかをパーティションで区切り、経理などが事務作業をする事務所、客を通す応接間、社内で打ち合わせを行う会議室など、用途は多目的だったが、主に工場内では行えないデスクワークをこなすための空間だった。
今でも、その名残として電気ケーブルに繋ぐコンセントや資料を入れていた本棚などは奇跡的残っていて、廃業した現在もサイレント・キーパーという新しい主によって使われている。
しかし、過去の備品が残っていても、ここがかつて鉄工所の事務所であったことを信じるものはいないだろう。

その内観は、まさに病院の手術室そのものだった。

鉄や油の臭いが染み付いている工場内には似つかわしくない簡易ビニールカーテンによって外界から隔離された無菌空間。
そこに並べられている医療機器の数々。
本棚には何かの記録書類やぶ厚い医学書などがたくさん入っていた。
他にも一般病院施設では見たこともない、どう使えばいいのかも不明な未知の機械や次々と変色や発光を繰り返す怪しい液体などが部屋の至る所に置いてあった。
その様相は医学的な手術室の見た目をもちながら、どこかおとぎ話で語られる魔女の工房をイメージさせた。
「桐嶋の足跡、いやこの場合は蛇行跡かな。その軌跡はこの部屋まで延びている。どうやら桐嶋藤次はこの部屋に逃げ込んだみたいだね」
フィリップは冷静に状況を整理する。
電気が消えているので、まだ桐嶋の姿を確認できてはいないが、彼が命からがらこの部屋に入って行ったのは、ちゃんと痕跡として残っていた。
「とりあえず、明かりをつけてみようぜ。えっと、スイッチは・・・・・・、これか」
パチ。
ダブルは部屋の戸口のすぐ横にあったスイッチを入れる。
ぱっと明かりがつき、暗くて不明瞭だった視界がはっきりする。

そこには、寝台の上に座っている子供とその横に桐嶋藤次の姿があった。

桐嶋は体の至る所に痣が出来ており、服もボロボロだった。
「桐嶋!」
ダブルは叫ぶ。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァハァ、ハァ・・・・・・」
しかし先ほどのダメージのせいか、それともその気がないのか、桐嶋はただ荒く呼吸するだけでダブルの叫びに応えることはなかった。
桐嶋の横。そこには寝台の上に座っている10、11歳くらいの手術着姿の子供がいた。
「・・・・・・」
子供は置物のフランス人形のようにただ沈黙を守っている。
顔の造形は非常に整っておりそれこそ精巧な人形のようだった。
しかしその容姿はあまりに中性的すぎて性別がはっきりと分からない。
艶のある黒髪を、おそらくはハサミかカッターで肩の高さで乱暴に切りそろえていたがそれが逆に良く似合っていた。
細い眉とすいこまれそうな黒い瞳。しかし、その目には生の光がなく、本当につくりものの人形のように虚ろな表情だった。
「誘拐された被害者・・・・・・っ! ・・・・・・てめぇ、そんな幼い子供までに一体何をしやがったんだ!!」
ダブルは激怒した。
おそらくは薬で意識を朦朧とさせられたであろう虚ろな表情の子供が、何をされるのかも分からない手術台の上に座らされている。それだけでここでは何か非人道的な実験をこの子供に行っていたことが容易に連想できてしまう。
「ハァ、ハァ、誘拐された被害者? ヒヒヒ、違いますねぇ。見当違いにもほどがある。アハハは」
しかし、桐嶋はダブルの推測を真っ向から否定する。
先ほどの戦いで体中がボロボロになり声も若干枯れ気味の桐嶋だったが、その眼は狂ったように激しい光を放っていた。
「この子は被害者などではありません。この子は『こちら側』の人間なのです」
神経質に眼鏡をくいっと上げながら桐嶋は嬉しそうに話す。
「『こちら側』? それは一体どういう意味だい?」
桐嶋の言っていることが理解できないダブルは疑問を投げる。
「・・・・・・ククク。子供は無垢である。子供は何も出来ない。故に子供には何も罪がない。アハハは、貴方たち正義の味方の偏見は本当に滑稽ですねぇ」
くつくつと愉快そうに桐嶋は笑う。
「? 何を訳の分からないことを言ってやがる? それと誘拐してきた子供に手術しようとしていたことと何の関係が、」
「だからね」
桐嶋は飲み会の席で笑える話のオチを告げるようなそんな気安いノリで、

「この子が実行犯なのですよ、この完全誘拐のね」

衝撃の事実を口にした。
「なん、」
「だって?」
ダブルの思考は桐嶋の言葉にまだ追いつかない。追いつくはずがない。
目の前の子供が? 誘拐の実行犯? 何十人もの人間を拉致しこの魔窟と呼んでも差し支えない廃工場に監禁したきた犯罪者の一員?
言葉では状況を把握出来ても心の理解度と大きく差異が発生する。そのときに現れるある一つのキーワード。

"こんな幼い子供が?"

桐嶋は未だ混乱しているダブルの姿にやれやれと肩をすくめる。
「より正確に言えば、確かにこの子は私とサイレント・キーパーが一番最初に誘拐した被害者です。しかしこの子を拉致してこの施設で検査をしたあと、この子がとあるガイアメモリの過剰適合者であることが判明しました。それが―――、」
(Lightning!!!)
「このメモリ、ライトニング。稲妻のガイアメモリです」
桐嶋は手に持っていたスイッチを押した。
真ん中にアルファベットの"L"が刻印されているガイアメモリ。
稲妻、という響きには翔太郎とフィリップには覚えがあった。
裏路地で会った光の怪人。
ダブルが推理した完全誘拐のトリックの実現可能者。
桐嶋の説明によってダブルの推理は実証されたわけだが、
「・・・・・・そんな小さな子供に・・・・・・ガイアメモリを使った、だと・・・・・・?」
当の彼らにとって今そんな話はどうでもいい。
ダブルは、正確には左翔太郎は激しく怒っていた。
未成年にガイアメモリを使用する。
これはミュージアムの一部では禁じ手としていた行為。
人を怪物に変える悪魔のアイテムを、まだ幼い子供に使用した―――、
「て、めぇ! ふ、」
「ふざけるな!!」
怒りの翔太郎の言葉よりも先にフィリップの激がとぶ。
「フィリップ・・・・・・?」
クールな彼には珍しい怒りをあらわにした叫び。それに翔太郎はきょとんとしていたが当のフィリップは構わず続ける。
「君たちは分かっているのか!? ガイアメモリは使用者の精神を破壊するアイテムだ! それを年端もいかない子供に使用しただって? それがどういう事なのか理解してやっているのか!!」
「フィリップ・・・・・・」
かつてはミュージアムでガイアメモリの研究に深く携わっていた左翔太郎の相棒・フィリップ。己の研究対象の恐ろしさ、危うさ、取り返しのつかなさ、・・・・・・そして何より、そのことを深く考えもせず研究を続けていた己の愚かさを彼は重々に理解していた。
だからこそ、彼ら、サイレント・キーパーたちの蛮行をフィリップは見逃すことが出来なかった。
未成熟でこれからまだ未来のある子供を拉致して、あまつさえガイアメモリを使わせる。