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Aに救いの手を_サイレント・キーパー(仮面ライダーW)

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とある男の話




昔話をしよう。
それほど昔ではない過去の、とある一人の男の話。
やり直したくても、決して戻ることの出来ない遠い過去の記憶。
男は科学者になった。
もともと口下手で人付き合いがあまり得意ではない男にとって他人との関わり合いの少ない研究職は彼が自ずと選ぶであろう仕事の一つだった。
科学者。
万物の理を学び、その新しい可能性を探求し研鑽していく人種。
その在り方が物事をコツコツと進めていく彼の性分によく合っていた。
それなりに聡明で学問への努力もそれなりに惜しまなかった彼は、科学の分野でどんどんとその頭角をあらわし世間的にもそれなりに認められるほどの功績を残した。
ある日、男の事を知った地元のとある研究機関から『スカウト』の話があった。
彼の住む街では一番大きな研究機関。
『博物館』の名を冠し、最新鋭の設備、最高の科学者たちが一堂に会す世界でもトップクラスの研究機関。
その活動成果が社会に貢献するものではないこと。
その活動内容が社会で認知されていない秘密結社であること。
男が受けた『スカウト』が、任意同行ではなく強制連行だったこと。
それらを除けば世界の全人類から賞賛と羨望を受けるべき存在。
そこが彼のワーク・フィールドとなった。
男は自分の研究が非人道的であることは理解していた。
毎日行われる大なり小なりの人体実験。
人を人とは思わない所業の数々。
自分の研究内容に疑問がなかったわけじゃない。
生物を人為的に怪物に変貌させ、それを実験対象として扱う。
まともな倫理観でみれば、"悪"以外の何者でもない。
しかし男は『その所業の全ては人類の未来のためである』と心の中で納得した。
もちろん、そう納得せねば裏切り者として組織の手でこの世から抹消されてしまうという保身的な意味合いも多分にあった。
しかし、いつかこの研究や実験が実を結べば人類の進化に多大な貢献ができるとも信じていた。
既存の生物体の人為的改良と強化。
そんなことが出来るようになれば、人は今まで出来ないと諦めていたことができるようになるし、どんな困難にも負けない肉体を手にすることができる。
そうなれば、きっと人類だって我々が行っている研究を理解してくれる。
今行われている人体実験はそのための微々たる犠牲だ。
男は良心は苛まれたが、それ以上に未知のパワーへの探究心が勝った。
要するに宮部総一という男は根っからの研究者なのだった。

彼は自分が今手懸けている研究が全人類を更なる高みへと前進させてくれるということを信じてやまなかった。
特に自分が担当している"リジェクト"と呼ばれる研究対象物には無限の可能性が秘められていると確信していた。
たしかに、副作用が強い、制御が難しいなどいろいろと難点は多いが、そこは研究者の腕の見せ所。
彼はこの"リジェクト"を完璧に調整し、一刻でも早く世間で実用化されることを望んでいた。

それだけに、『博物館』が潰れたときは本当に驚いた。
まさに開いた口が塞がらない。
周りの研究者たちは蜘蛛の子を散らしたように方々へ四散し、ところ狭しと置いてあったその機材もどこかへ消えていた。
機関のオーナーが倒されてしまったのだ。
宮部には機関が潰れてしまったことよりも、オーナーが負けたことのほうが驚愕だった。
研究所で何度か目にしたことがあったが、彼の周りには絶対的な恐怖があった。
研究所の廊下ですれ違うたびに嫌な汗をかく。
まるで、魔王が老人の皮を着てそこにいるような絶対感。
この人間を倒せるものなど、この世界には存在しないだろうという奇妙な保証。
それがとある一体の怪人―――この場合は二人の青年というべきか、とにかくそういう矮小な存在に倒されてしまったのだ。

結果として研究機関は解散。
逃げる者、自首をする者、逃げ切れず捕まった者、さまざまな未来を選択した者がいたが、宮部は逃げることを選んだ。
このままでは終われない。
ここで研究を止めてしまったら、今まで犠牲になった人々に申し訳がたたない。
彼に半端な良心と責任感があったからこそ執ってしまった逃亡という選択。
彼はミュージアムの秘密逃走ルートを使い、地元の教会の神父に成りすました。
その肩書きを隠れ蓑として利用し独自で研究を続けることにしたのだ。

しかし、いくら研究に従事していたとはいえ、人員が宮部一人と逃げるときに持ち出せた限られたと設備だけでは思うように研究が進まない。
それに隠れ蓑とはいえ、周囲に怪しまれないためには教会の仕事や祭事やらも行わなくてはならない。
最初は研究も上手くいかず、慣れない教会の仕事に翻弄され焦燥や苛立ちを感じていた宮部。
しかし、いつしか宮部はその環境をまんざらでもなく思い始めてくる。
宮部は教会の神父として地域の人々とも温かいふれあいをもつようになった。
宮部は決して悪い人間ではないのだが、物事を感情ではなく理屈で考える淡白な一面があった。『博物館』の所業を見逃していたのも、感情や道徳より打算的な理屈が勝ってしまった結果だった。
しかし、街の人々とのふれあいが、少しずつではあるが宮部のその"人間らしくない"部分を溶かしてくれていた。

しかし、そんな甘く優しい日々は続かなかった。

ましてや彼は罪人。
今まで犯した罪を数えもせず、人生を謳歌することなど抜け目のない神が赦すはずもない。

神はその名の下に人間である宮部に罰を与えた。

こと宮部に対しての効果的な罰は、宮部自身に直接不幸が舞い降りることではない。
"人のため"だけを願い己の半生をつぎ込んだ人間とって最大の不幸。
それはつまり、『自分の周りの人間の不幸』である。
ある日突然、前触れもなく、宮部と特に仲の良かった子供がとある事件に遭った。
それは、あまりにも突然すぎて凄惨すぎる出来事だった。
宮部の目の前で子供が手を振る。
彼もそれに答える。
子供が道を横切る。向かいにいる神父に会うために。
彼はその子に必死で何かを叫ぶ。
状況がよく分からない子供は立ち止まり首を傾げる。
その子の後ろには、いつのまに現れたのか棍棒を持った身の丈が2m近くはあろう醜い老人。
子どもに向かって棍棒を振り上げ―――、
その老人はぶつぶつ言いながら裏路地に消えていった。老人は捕まらなかった。
奇跡的に怪我の程度は軽傷で済んだ。
しかし子供の意識はいつまでも戻らなかった。
ある日医者はその子を原因不明の植物人間であると診断し、『もう二度と起き上がることはないだろう』とまだ幼い患者を見捨てた。
諦められない母親は子供を病院から連れ出し、半狂乱になって教会で祈る。
何度も、何度も。
"私の命なんていらないから、どうかこの子を救ってほしい"、と。
泣きながら、泣きながら。
教会の神父は見ていられなかった。
人と深く関わることを今までしなかった分、その慟哭にも似た悲痛な願いが神父の気までおかしくしていしまいそうだった。

否。
事実、その神父は少し気がおかしくなっていたのかもしれない。
彼は、祈り疲れたというよりは泣きつかれて眠っている母からこっそり子供をつれさると、教会の奥にある秘密の部屋に連れて行く。
そこには彼が神父になる前の仕事で使っていた奇妙奇天烈な道具の数々。
迷いはなかった。