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 「俺と敵対する相手なんていないよ」
今までの理屈から行くと、シャアと俺の関係は、昔の俺達の関係と同様である可能性が高い事になる。

“シャアと同等な相手と対峙する気力は、とてもじゃないが持てないよ”
そう思いながら告げると、シャアは顎に指先を宛がいながら、思考しているらしい。
「どうかした?」
俺が問いかけると、シャアは片手を挙げてそれ以上の質問を制止した。
彼の髪がフワリと揺れ、そのまま一分ほど金糸の優雅な空中遊泳が続いた。そして、徐に答えが返された。

「この世界にもう一人の私は存在しない。アムロを手にする為に戦う必要は無かった。安心してくれ」
「え? ど・・・いうコト?」
驚きのあまり、俺はひらがなとカタカナで話している様になってしまった。
「今、この世界にスキャニングをかけてみたのだ。その結果、私のセンサーに引っかかる者は居なかったという事だ」
「どうやら、シャアさんがずっとこの世界に存在していた為に、もう一人のシャアさんは生まれなかった・・・という事なのですね?」
ララァがシャアの言った言葉の説明をする。
「流石にララァ君は賢いな」
「ああ・・・。平行宇宙で同じ人物が同時に存在する事は出来ないって、あの理論か・・・」
俺も、平行宇宙における鉄則的な条件を思い出した。
「そう言う事だ」
シャアが大きく頷いた。

「だけどよ。そうなると、アムロの中にもう一人の、かつてのアムロが居るってのは、どういう理屈だ?」
カイさんが異論を差し挟んできた。
「同時期に存在できないってなら、二人のアムロはおかしかねぇか?」
「そうねぇ。それに、つい最近まで、アムロの中にもう一人のアムロが居るなんて知らなかったし、感じもしなかったのよね。どうしてかしら」
「シャア。そこら辺の事、判らないかな」
俺達三人の視線が、一斉にシャアへと向けられた。
すると彼も、困ったような表情を浮かべた。

「思い出せないのだよ。だが、アムロのカプセルは白金に青い石が埋め込まれたそれは見事な細工の物だった・・・筈」
「それ! オーパーツとして文献に載ってる奴なんじゃ・・・。実物は無いんだけど、絵柄で残されていて、その時代にはあり得なかった技術で作られていた物だったと」
情報通のカイさんがいきなり叫んだ。
「「「オーパーツ?」」」
残りの三人の声が揃って疑問を発する。
「ああ。アムロも調査して事あるだろ? 発掘された時代に存在し得ない技術で製作された不思議物」
「あ〜。水晶髑髏とかナスカの地上絵とかだろ?」
「そう。その解説本の中に、海外で中世に発行された本があってな。その中にさっきこいつが言った物が、絵で載せられてたんだ。実物は存在しない。だが、15世紀頃にロシアで発見されたと書かれていた。で、その時の地層は10世紀位だったんだ。だからオーパーツってわけだ。あちこち廻って、どこぞの貴族が手にして以降、行方知れずになった」
「じゃあ、かつての俺は、その貴族に覚醒させられたって事か?」

「真にすまないが。・・・・・・アムロ。君の中に入らせて貰っても良いだろうか」

いきなりな爆弾発言に、地球人達は即座にフリーズした。

凍結がいち早く解除されたのは、やはりつわものであるララァだった。
「あ・・・のね? シャアさん」
「シャアで良いと昨夜も言ったが?」
「あ・・・そう、ね。・・・では、シャア? アムロの中に入るって・・・彼は、ヘテロよ? 貴方を受け入れる機能は、持ち合わせていなくてよ?」
「はぁ? 何を言っているのかね、ララァ君」
「だ! だってよ。あんたの言った事って・・・こいつの中に入るって、性交するっ・・・て事だろうが!?」
カイさんが論戦に参加出来るまでになっているのだが、俺は全身が強張ったままで口も動かせない。
「性交? ・・・ああ、SEXと言う事か?」
「そうとしか取れない言葉だったんだが?」
「そうね。私もそう思ってしまったわ」
「出来るなら、今生のアムロともそういった関係になりたいとは思うが」
「「ええぇ〜!? かつてのアムロとシャアは、そういった関係だったの!?」」

二人がザッと身を引いたのが判るが、俺は相変わらず固まったままだった。

「ああ。同志として共に活動しているうちに、私はアムロを愛するようになった。そして、その想いをアムロに告げたところ、彼は私を受け入れてくれたのだ」
そう言うと、シャアは宙を眺めて幸せそうにやに下がった。
「ああ〜。あの甘美なひと時。・・・彼の中はとても素晴らしかった。熱く、きつく、私を締め上げながらも扱くように蠕く愛しい襞の! グッ・・・!!」
『だまれっ!!』

滔々と語るシャアの足の甲に、俺の踵が電光石火の速さで落とされ、それ以上の回想を中断した。

『貴様! 恥ずかしげも無くその様な事を公言するな!今生の私が完全に引いてしまっているではないか!! この愚か者めっ!!』
もう一人の俺が、どうやら耐え切れずに飛び出して、俺の身体を動かしたらしい。
「ああっ アムロ! 私の愛しい人!!この痛みさえ私には快感」
シャアにはそれがかつてのアムロだとすぐに判ったらしい。跪くと、縋る様に俺の腰に腕を回して頭を俺の腹に擦り付けた。
「貴方とのひと時は、私に無上の快感と幸せを授けて下さった。今ひとたび、あのひと時を私に」
『知らんわっ!!』
そう言うともう一人の俺は中へと引っ込んだ。
「ああ! アムロ!!」

「は〜な〜せ〜!!」
俺はシャアの後ろの髪の毛を思い切り引っ張って、腹から頭を離させた。
「イタタッ! 禿げたらどうする!」
「空気中の分子を吸着して作れよ!! それに、あんたはドMみたいだしな」
「失礼な事を言わないで貰いたい。私は変態ではない!」
「「えぇ〜? 変態だって思っていないの(か)?」」
カイさんとララァが揃って異論を述べた。
「どう見たってMだろ? 踏んづけられて、それが快感だって言ってたじゃないか」
「愛がそこにあるのなら、どんな行為であろうと私は受け入れる」
「「やっぱ変態だ(わ)」」
再び二人の意見が重なった。
「あまり近づくなよ。変態がうつる」

俺はシャアの肩を押して離すと、ララァ達のもとへと駆け寄った。
「酷いぞ、アムロ。そもそも、君の中に入れてくれとは、君の意識の中に入らせてくれという意味だったのだ。いくら私でも、愛してくれていない相手とSEXをする趣味は無い」
「今みたいに彼が出てきた時に話せば良いんじゃないか?」
「長い時間は・・・無理だろうと思う。今も君が意識を薄れさせ、彼が怒りを感じたタイミングでの出現だったからな。君の意識を乗っ取って会話をする力は無いだろう。だが、何が原因で、君の中にかつてのアムロが存在しているのかをはっきりさせる為には、私の欠落した記憶では対応出来ないのだ。意識の中に潜らせてくれ」

真剣な表情で切々と言われては俺としても無碍には断れない。
「わかったよ」
俺はそう言うと、シャアに片手を差し出した。
2011/09/01
作品名:A I 作家名:まお