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3



 扉はさしずめ、階段下の物置スペースとなる部屋に当てはまる位の小さな物だった。
俺達は身体をかがめてその扉を潜った。
すると、その先に地下へと続く階段が控えていた。
空気の流通が長く滞っていた空間特有の臭気が鼻を撫で、ねっとりとした湿度が肌を絡め取った。

「何なのかしらね、この空間」
「ああ。どれだけ下に繋がってるのか解らないし、そもそも空気の取り入れ口、取り付けられているのかな」
「酸素ボンベ、必要かしら? 車まで行って取ってくるわ」
ララァはそう言うとクルリと身を翻して不可解な空間から出て行ってしまった。

「ちょっ?! ……俺一人、ここに残してくのかぁ〜。酷いよ! ララァ〜」
俺はなんだか心細くなってそこから動けなくなっていた。LEDライトの懐中電灯は周囲を煌々と照らしてくれているが、なんとも不気味は感じが消えないのだ。
俺は手持ち無沙汰を解消するために、階段の壁を照らしてみた。当然、黴やらが密生していると思ったのだが、意外な事に照らし出された壁はライトを反射してキラキラと輝いたのだった。そして、蓄光作用でもあるのか、光を受けた箇所がぼんやりと光出した。

「なんだか、不思議な壁だな」

俺はそっと壁に手を当てた。
すると、何かが手を介して流れ込んでくる感覚がある。
それは、俺を階段の先へと誘導しようとしていた。
まるで、何かが俺を呼んでいるみたいに……

「なんだ?」

俺は先ほどまでの不気味な感覚を忘れ、その誘導に曳かれるように階段を降り出した。

階段は十数段で終わり、その先は水平に横へと地下を歩く事になった。距離としてはたいした事は無かったのだろうが、周囲を完全に壁にさえぎられているので、随分と長く歩いたように感じられた。
そして、俺の前にいきなり空間が広がった。
広さとしては個人宅の礼拝堂のような大きさで、中央に大理石のような石で出来た台が、祭壇のように鎮座していた。
そして、俺を呼ぶような気配は、その祭壇めいたところから強く発せられていた。

「何なんだよ、これは…」

俺はそれを言うだけでいっぱいいっぱいだった。
ゆっくりと用心してその空間へと足を踏み出した途端、
室内にいっせいに明かりが点った。

「うわっ!」
俺は情け無い事に、驚愕に尻餅をついてしまった。
機械が駆動し始めたような重低音が鼓膜を震わせる。

「アムロ?! アムロ?? 大丈夫??」
かなり離れた所から、ララァの声がした。
「だ、大丈夫だけど…。早くこっちに来いよ、ララァ。ボンベ、いらないみたいだから」
「行きたいのはやまやまなんだけど、階段を下りたところで見えない壁みたいなものが立ちはだかっていて、そこから先へと進めないの。アムロは平気? 異常は無い?」
「俺はなんとも無いけど…。壁? 見えない壁? そんなもの、無かったよ? …どう言う事なんだ?」
俺はララァの元へ戻ろうとした。しかし、その足は床に吸いつけられたように動かなくなっていた。
「おい?! 何なんだよ!!」
自分の身体が自分の思うように動かせないもどかしさと恐怖に、俺は一気に汗が出てきた。

そして、俺の身体は意思を無視して動き出す。

祭壇めいたその台へと…

「何なんだよ、これは…」
必死で手足の自由を取り戻そうと足掻くが、手足は一向に所有者の所属にならず、遂に石の台のまん前に立たされた。
自由になる視線を台の上に走らせると、中央にくぼみがあり、そこに金色に輝くカプセルの様なものが埋め込まれていた。カプセルの中央には暗赤色の石が填っている。
「ゴールドとガーネット…か?」
そう呟いた俺の腕が、勝手にそのカプセルの上へと伸ばされていく。
「ちょ!! やめろ! 離せ!!」
懸命に腕を取り戻そうと足掻くが、やはり支配権は復帰しない。
そして、腕が暗赤色の石の上でぴたり、と止まったと思ったら、
チッ!
レーザーのような光が走り、俺の手掌に痛みが生じた。
「いってぇ!!」
どうやら光は俺の手掌に傷をつけたらしい。じわりと手掌から血が滲み出し、指先へと伝ったそれが暗赤色の石の上にパタパタと数滴したたり落ちた。
次の瞬間

室内に金色の光が爆発したように満ち溢れた。
そのあまりの眩しさに、俺はきつく眼瞼を閉じるしかなかった。

数分後

俺は本日三度目の言葉を口にしていた。

「何なんだよ、これは…」

俺は目の前に現れた存在に、この言葉以上のものを発する事は出来なかった。

なぜなら、金髪に碧眼の偉丈夫が全裸で立っていたからである。

                  2011/06/13
作品名:A I 作家名:まお