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 「言ったはずだが? 私には超能力があると。そして、君と私は密接に繋がっているのだと。となれば、君の考える事柄を読み取る事など造作もない」
「頭の中を覗くな! プライバシーの侵害だぞ!!」
「ならば覗かれないようにガードをかけるのだな」
「そんな事、出来るわけないだろ?!」
「君なら出来るはずだが?」
「あのさっ! 何度も言ってるけど、お・れ・は! 唯の人間。特殊能力なんて無いってば!」
「君も大概に頑固だな」
「あんたほどじゃないよ」

俺は不毛な会話を打ち切ろうと、ソファーから立ち上がり、撤収作業に取り掛かろうとした。
しかし、一瞬で動作が制限された。
シャアが俺の腕を掴んでカウチへと引き倒したからだ。

「なっ?!」
「あんた、ではない。シャアだと何度も言っている。加えて、君が持っている能力をここで開眼させれば、私の言っている事を君は納得するのだろう?」
シャアはそう言うと、俺をカウチに押し付けるようにして顔を寄せてきた。
「ちょっ! やめろっ。何?」
俺は必死で逃げようとするのだが、俺の二まわりは大きいガタイに押さえ込まれては手も足も出ない。せめて頭だけでもと左右に振れば、顎を片手で捕まえられ、完全に身動きが出来なくなった。

「君の能力。強制的に引き出させてもらう」
「シャアさん?」
「ああ。心配しなくても良い、ララァ君。酷い事をするわけじゃな…」
「これのどこが酷い事じゃないって?!! 押さえつけて! 拘束して! 充分非道だぞっ」

俺は今までの人生の中で一番恕髪天を衝いた。


バチッ!!

シャアと接しているところで火花が発生した。
「つっ!?」
「離せ!!」
俺は怒りで目の前がチカチカするほどだ。
シャアの拘束が一瞬だけ解ける。
その隙間を更に押し広げるように、俺は意識を集中した。

バチッ! バチッ!
バリリッ!!

火花がより強くなり、シャアの身体がじりじりと離されていく。
「アムロ? きみっ」
「あんたが何だろうと、どんな地位に居ようと関係ない! 俺の意思をないがしろにする事は絶対に許さない」
「あむろ…」

ララァがかすれた声で俺の名前を呼んだ事は意識の片隅で感じていたが、それを凌駕する怒りが俺を包んでいた。

「ふざけるなっ!」

バンッ!!

激しい炸裂音と共に、シャアの身体は床に叩きつけられた。
床に激突する前にPKを利用して床との間に緩衝を張ったシャアだったが、振り仰いで見たアムロの姿に息を呑んだ。

ゆっくりとカウチから起き上がるアムロの髪が、ゆらゆらと揺らめいて持ち上がっていた。
瞳は琥珀色を超えて、金色になり、光を放っていた。

「不動明王…」
ララァの口が無意識のうちに、ある仏の名を呟いた。

「俺の意思を無視するだと? ふざけた事を言うな。貴様の好きにはさせない。これ以上の強要は侵害とみなし、攻撃対象とするぞ」

俺の頭の中に映るのは、床から上半身を起こしてこちらを驚愕の視線で見つめる金彩の男の姿だけだった。
ゆるりと腕を上げ、人差し指をその男に向ける。
指の先に熱が集まってくる。

“一方的な強要は理不尽だ”

怒りはこの一点にのみ集約していた。
「どうする? これ以上、俺に手を出すか?」

“出してくるなら攻撃して滅するまで。……意思を破壊し、傀儡としてやる”

凶暴な感情が奥底から湧き出してきて、俺の意識を侵食しようとし始めた。

(待てよ、俺! 腹が立つ相手だけど、今しようとしている事は、こいつが……シャアが俺にしようとした事と同じじゃないか! 駄目だって! そんな事。冷静になれよ、俺)

頭の中に二人の俺が存在するみたいになり、俺は破壊行動に走ろうとするもう一人の俺を押さえ込みにかかった。

(やめろって! ここにはシャアだけじゃなくてララァも居るんだ。巻き込むような真似はするな)
“私の尊厳を冒した者を罰して何が悪い。お前も怒っていたではないか。何故、止めようとする”
(怒りに負けちゃ、人として最低なんだって。シャアもこれで拙かったって思う筈だ。一旦引けよ。この力は個人を攻撃する為に存在してるんじゃないだろ? 違うか?)
“お前は私の良心なのだな。…解った。今回は引こう。だが、再びは無いと伝えておけ。奴は本来ならば私の家臣となる者だ。思い上がらぬよう躾けておくんだ。よいな?”
(俺はそんなに偉い人間じゃないって。同等の立場で話し、行動をしてくれるなら異論はないんだよ)
“優しいな。もう一人の私は…”
(あんたほど尊大になれないだけだよ)
そう言うと、もう一人の俺は苦笑を浮かべたように見えた。そして、俺の中にふわりと納まった。

途端に視界が現実のものに変わる。
床に座り込んで俺を見上げているシャアと、傍らで両手を握り締めて成り行きに緊張しているララァの姿。

俺は大きく深呼吸すると、上げていた腕を下ろした。
「二度と俺に無理強いをするな。言葉による説明で俺を納得させるんだ。そうしないと、俺の中のもう一人の俺があんたを…シャアを滅すると言ってたぞ」
「……ああ。彼は私を滅するつもりでいたようだな。どうやら君の本来の立場は、私が仕えるべき地位にある様だ。…情けない事に、私はあまりに永い時を一人で過ごしていて、己の立ち位置を忘れていたらしい。すまない…いや。お許しください」

シャアは謝罪を口にすると、俺の前に片膝をついて頭を垂れた。
「よせよ。俺は普通の人間のつもりだし、これからもそうして過していく。傅かれる身分じゃない。無理強いだけしないでくれれば問題ないよ」
「普通って言うのは、もう些か無理っぽいわね。アムロにとてつもない力が眠っているって判ったんですもの。それのコントロールと意味を理解する必要があるわ」
ララァが冷静な視点からの考えを伝えてくれる。
「……ああ。俺自身を正確に知らなきゃいけないんだろうって事は感じたよ。今回は、つくづくララァがいてくれて助かった」
「では、冷静に話しが出来る場所に移動しましょうか? この館の変異は消滅した事だし、事務所に戻りましょうよ。埃っぽくて我慢できないわ」

現実的な意見に、俺は笑い出した。


そして、不思議の塊である男を連れて、調査対象であった屋敷を後にしたのだった。
                            2011/07/22
作品名:A I 作家名:まお