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猛獣の飼い方

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8.懐くと頼もしい存在です






心地良い温度に暖められた部屋に迎えられ、ほっと息を零す。

風呂に入った後、シズちゃんがタオルとドライヤーで丁寧に乾かしてくれたりするものだから、何だか非常に居心地が悪い。今だってシズちゃんの腕の中だ。普段の俺達からは、考えられない距離が落ち付かない。…なのに、

「お前、まだ耳の後ろ乾いてねーな」

ちやほやと面倒を見てくるシズちゃんが、大変キモチワルイ。
たしかに風呂に入っている時も、俺が折れれば面倒を見てくれてたけど…いつも標識だのバイクだの車だの常識から逸脱した凶器を携え追いかけてくる男とは、イメージが違い過ぎる。

「っ、ちょ…もういいってシズちゃん!後は放っておけば乾くでしょ」

「せっかくサラサラしてんだから勿体ないだろ」

何、そのタオルを持つ優しい手付き。
ついでに頭を撫でられて、背筋がぞくぞくする。

「…し、シズちゃん!」

「んー?」

も、もふって人の頭に顔埋めたこの人…!

確かに俺は今の自分の可愛さを自覚している。元々恵まれた容姿を有する怜悧な俺が猫になったんだから、当たり前と言えるだろう。人間の時は欠片も通用しなかった外見が、猫になっただけで効果的になるなんて面白い。このチャンスを楽しまなくてどうする…!と、確かにちょっと前の俺は思っていた。白状しよう。ヤケだった。嫌がらせを込めた自棄だ。それじゃなきゃ、シズちゃんと一緒に居ようなんて思うはずがない。

「――石鹸の匂いがすんな」

「…シズちゃんと同じでしょ」

「すげぇいい匂い」

「…………っ〜〜〜!」

シズちゃんの"猫大好きだけど中身は俺でうっかりデレられない…!"そんなマヌケな葛藤をニヤニヤ見ようと思ってたさ!だけど、今日はちょっとストレートにデレ過ぎなんじゃないかな!デレデレのシズちゃんなんて怖いんだよ!

「シズちゃん。…シズちゃんがぎゅーっとしてる俺の名前は?」

思い出してシズちゃん。
相手は俺だよ?君の大嫌いな、折原臨也!!

「………は?」

そう!その顔いいね!もうちょっとランクアップさせて青筋も浮かべてみようかシズちゃん!それが普段のシズちゃんだから!ツンデレでいうならツンの部分。というか、シズちゃんのデレは俺以外にしか発動しないから俺にとっては懐かしいツンツンシズちゃん!

「いざや…だろ?」

「違っ…!わないけどっ…!!!」

俺のツンツンシズちゃんは、決してこんな無防備に首なんか傾げなかったハズだ。




相変わらず撫でてくる手のひらとか。
顔を寄せてきたシズちゃんから香る匂いとか。

「………シズちゃん。ちょっ、喉撫でんのやめてって!!」

「思いっきり喉鳴らしながら言うか?」

「―――っ、…!!」

やめて欲しい。
甘やかすなんて、ホント…迷惑。

「やめてってば…!」

顔を背けると同時に、知らない間にシズちゃんの腕に絡んでいた尻尾をさり気なく外す。シズちゃんの馬鹿に、今の行動バレてませんように…!

「……ふーん」

「ちょ…シズちゃん、尻尾触んないでよ!」

「あ?なんでだ?」

手の平でふにふにと人の尻尾を弄ぶシズちゃん(こうして字面にするとすごく変態っぽい)を睨みつける。

「さっきからずっと絡めてたじゃねぇか」

「……っ、知るか!!」

「?」


世間の猫は、日々こうしたセクハラに耐えているのか。
元に戻ったらもっと猫に優しくしよう。俺は、かなり本気でそう思った。






懐くと頼もしい存在です
(…が、懐いている自分を中々認めません)
作品名:猛獣の飼い方 作家名:サキ