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Sfと至が幻想入り

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第一章『門前の応答』



  世界は何を望むのか
  それを望むことは許されるか

 澄んだ水を湛える湖の上を、薄い霧が覆っていた。
 その霧に隠されるようにして、一つの建物があった。しかし、霧のせいで組み合わさった赤煉瓦の全景は望めない。
 その館の周りにある塀には、樫で作られた、一つの巨大な門があり、そこが外界からの干渉を受け付ける唯一の場所のようであった。
そして、その門に一人の女性がもたれ掛かっていた。長時間の起立に耐えるためだと思われたが、よく見ると目を閉じ、静かな寝息をたてており、一切の推測は不要であるといえた。しかし、その閉じられた世界に二つの影を落とす存在が現れた。
 一方は全身黒のスーツにサングラスという、全くセンスの感じられない格好の男で、見た目の若さに対して不自然な白髪を持っている。もう一方は黒のワンピースに白いエプロンという侍女姿の少女で、こちらは自然な白髪だ。
「しかし、ここはどこだ?日本の何処かか?というより、Low-Gの世界か?」
黒いスーツの男が前を向いたまま呟いた。それに応えるようにして、同じ方向を向いたまま侍女姿が口を開く。
「不明です」
男はその答えが予想外だったのか、左にいる侍女の姿をサングラスに写した。
「母体自弦振動はどうなっているんだ?」
「至様のものを読み取りましたが、不明です――というよりは、不規則という方が正確だと判断します」
「何?なんだそれは」
「至様からは、一定した母体自弦振動を感知できません。常に振動数が揺れ動いております。このような例はデータベースから発見できません。至様は御存知ですか?」
「俺も知らん。しかし、そんな馬鹿なことが……」
「Sfの観測装置は、現在全て完璧に動作しております。後は選択ではなく順応かと」
「そうすると、俺は今どの世界にも属さない場所にいるというのか?」
「Tes.もしくは、死んだのですから、至様がどの世界にも属さない、という考え方もあるかと」
 男はしばらくの沈黙の後に、再び口を開いた。
「そうか。そして、」
至と呼ばれた男はそこで一度言葉を区切ると、目の前に立つ、睡眠中の女性を見た。
「こいつは、何者だ……」
「Tes.中国風の衣服を着用した女性と判断できます。先程からの会話でも起きていませんので、深い眠りの中であると思われます」
「そんなことは分かっている」
「そうですか。てっきり、現状認識の補強の為に問いかけたのかと」
「そうだが、相手はお前じゃない。自分だ」
「質問者と応答者が同一人物である限り、答えは一生出ないことは確実ですが」
「…………。そいつの母体自弦振動は?」
「測定してもよろしいのですか?」
「構わん」
「Tes.」
Sfと呼ばれた侍女は、未だ眠り続ける女性の方に向き直ると、すぐさま返事を返した。
「母体自弦振動、一定であると観測されました。しかし、現在私の知るどのGの振動でもありません」
「つまり、ここはまったく新しい世界だと?そしてそこでも俺は世界から認められない存在だということか?」
「未だデータが集まっていないため、早急な判断はできません」
「ではお前の考えは?」
「Tes.―その可能性が最も高いかと」
至が苦笑して、口を開きかけた時、女性が身動きをした。
「起きそうだな」
「Tes.如何なさいますか?」
女性は無意識な動きによる大きな伸びをし、既に覚醒に向かっていることは明白だった。
「とりあえず話を聞くのが先決だ」
「Tes.では、私は至様の安全を第一に行動いたします」
そう言ったかというと、Sfは自然な動作で女性に歩み寄り、その胸を両手で掴んだ。

「……え?」
その声を発したのは、至ではなく、女性の方だった。
 女性は、一寸の間呆けた顔をした後、自分より背の低い、そして自分の胸を念入りに掴んでいる侍女姿を見た。
「え?あの、あ、えーと…………」
そして、
「Tes.特に武装は認められません」
Sfがそう言ったのを聞いて、「うあ」、とも「ひえ」とも言えない大きな叫び声をあげつつ、右足をSfの後ろに回し、自分側へと引き寄せた。
 単純な足払いだ。
 が、
「異常な速度であると判断できます……!」
 Sfは足を外そうとはせずに、相手の足の動きに合わせて自らも倒れ込んだ。
 女性はSfが動きをとると同時に、左腕を自分の顔に引き付けてそのまま右足を引くと、Sfが完全に倒れ込んだ後も、左足を軸として半円状に滑らせた。
 Sfは、背中が地面に叩きつけられる前に身を縮め、低空で後ろ向きに半回転をすると、その勢いのまま両手を地面につけ、一気に体を伸ばした。
 体を伸ばした状態になった瞬間、その両のつま先は、斜め上へと一直線に向かう。
 その先には当然、女性の顎が存在する――はずだったが、先ほど滑らせた右足のままに、女性の体はSfに対して半身となっている。そのため、足は虚空を蹴り上げただけであった。
 Sfは回転の勢いのまま大きく後退し、女性は右足を下げたままに、左腕を前に構えた。
「至様、後ろに下がってクーラーボックスにでも座っていてください。格闘技術は相当の腕前であると判断できます」
「おいおい、何でクーラーボックスがここにあるんだ」
そう言いつつも、至はポツンと置かれていたクーラーボックスに腰を下ろした。
その行動に応じるようにして、女性も口を開いた。
「えっと、咲夜、じゃないね。なんか似てるけど。あんたたち、誰?また人間の挑戦者?今は忙しいからまた今度にしてもらいたいんだけど」
「寝ていたようですが」
「それも仕事のうちよ。って、質問に答えなさい!」
「Tes.私の名前はSein Frawです。Sfとお呼びください。そして、後ろで踏ん反り返って我関せずを決め込んでいるのが至様です」
「おい、座っていろって言ったのはお前だぞ」
「行動したのは至様です」
そこで女性はSfの後ろに一瞬目を向けた。そして、またすぐにSfに向き直った。
「うーんと、質問には答えてるけど、なんの疑問も解消されないわね」
「具体的には、何でしょう?」
「具体的にはって……。え~っと、なんで私を襲ったの?」
「それは貴女の勘違いだと思われます。客観的に分析しても、先に攻撃を仕掛けてきたのはそちらかと」
「貴女にとって胸を揉むことは攻撃ではないの?」
「Tes.ただの安全確認です」
「あ、安全確認?」
「Tes.それだけ大きいと、中に武装を持っている可能性がありますので」
女性は言いようのない渋い表情をすると、自分の胸を見下ろした。
「で、結果は?」
「ご安心下さい。特に確認されませんでした」
「…………。つまり、敵対意思はないってことでいいのね?」
「貴女にとっての敵対意思は不明ですが、何らかの害を加えるつもりはございません」
「後ろの、えーっと、そっちの至?さんも?」
そう言って視線を向けた先では、至がひらひらと手をふっている。
「まあ、確かにいきなり足払いをかけたこっちも悪かったわ。ごめんなさい」
「気に止む必要はございません。大抵の問題は個人ではなく、行動の集合体によって生まれるものですから」
「よく分からないけど、まあいいわ。ああ、自己紹介がまだだったね。私の名前は、『紅美鈴』って言うの」
作品名:Sfと至が幻想入り 作家名:紀伊