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同じ夢を持つあなたと

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第2章 大賞発表




あれから二日経ち、待ちに待った日がやってきた。学校が終わり校門前で彼を待つ。このあと、大賞発表を彼と見る。楽しみと不安とが入交り、どうも気持ちが落ち着かない。加えて明野が風邪を引いて学校を休んでいるなか、彼を連れまわしてしまうことになぜか罪悪感を覚えてしまう。昨日の夜は落ち着いて寝ることができず、今日一日はどこか上の空だった。寒さと不安でで手がかじかみ、小刻みに震えてしまう。彼が来るまでに気持ちを落ち着けないといけない。かっこ悪いところは見せられない、なぜかそんな気持ちに駆られていた。


 「はぁ、はぁ。おまたせしました。」


 少しすると彼が小走りで駆け寄ってくる。きっとホームルームが終わった後急いで来てくれたのだろう。そう思うと少しうれしく、緊張も少しだが緩まった気がした。


 「大丈夫よ。わ、わたしもさっき来たところだから。それじゃあ行きましょう。」


 校門前は何気に目立つ。というか私自身がこの学校ではどこにいても生徒から見られあいさつされてしまう。生徒会長をしていたなごりだろうか。だが、今の状況はいろいろと問題がある。彼と待ち合わせ、一緒に帰っているところを親しい人に見られてしまうと、問題だ。

 「とりあえずは…あそこの書店から行きましょうか。この町で一番大きいですし。」

 「え、えぇ…。い、行きましょう。」


 前言撤回。不安と緊張で堪らなくなってしまった。おかげで前のように話が出来ずになってしまった。彼もどうやら私の不安や緊張を感じ取ったのか、心配してくれる。嬉しいと同時に申し訳なかった。


 普段ならすぐに着く印象なのだが、今日は全くと言っていいほど遠く感じた。ようやく書店につき、今月の月刊小説を探す。


 が…


 「売り切れ…ですか??」

 「は、はぁ…」


 一件目の書店ではまさかの在庫がなかった。てっきりあると思っていた私は一気に脱力してしまい、ため息をついてしまった。それと同時にこんなに大事なことに予約をしなかった…できなかった自分のふがいなさに呆れてしまう。


 「つ、次行きましょう!!」

 「え、ええ…」


 急いで次の書店に向かう。だが、嫌な予感がしていた。この町で一番大きな書店で在庫がなかったということは、最悪の場合、どこも在庫がないかもしれない可能性があった。そして、その悪い予感は的中する形となった。


 「まさかここもないなんて…この辺りだともう書店はないし…少し遠くなるけど…」


 電車に乗り、隣町の書店まで向かう。だが結果は無く、仕方なく電車で町まで戻っていた。気付けば空は赤らみ夕日が沈みかけていた。ここまで付き合わせてしまった彼に本当に申し訳なくなる。


 「ごめんなさいね…こんなに付き合わせちゃって。でも、楽しかったわ。異性とこんな風に町を巡ったことは初めてだし、おかげで緊張も解けたし…。あとは自分一人で…」


 さすがにこれ以上付き合わせれない。そう決心し、彼に話した。だが、彼は立ち上がり、ちょうど着いた駅の近くの商店街にも本屋があることを思い出し、


 「急ぎましょう!言ったでしょう!自分のことみたいに思ってるって…!!だから…」


 そんなこといわないでください、彼は私を励まし、そのうえでまだ探すのを手伝ってくれるというのだ。彼のこういった行動力は今まで私の背中を幾度となく押してきた。嬉しさがこみ上げ、つい泣きそうになってしまう。彼が早く、と私を急かす。どうやら時間がぎりぎりのようでどうやらこの書店がラストチャンスになると思えた。


 小走りで書店に向かう。だがシャッターを下ろしている途中で私はもうだめだ、そう諦めかけた瞬間だった。彼が大きな声で書店の店主に声をかけ、今月の月刊小説の在庫を確認する。あまりの彼の勢いに店主は思いっきり驚いていた。だが、彼の諦めない気持ちが実を結んだのか、一冊だけ在庫があり、無事、購入することができた。


 近くの公園のベンチに座り、本を手に取る。寒さなのか緊張なのか、もうわからないほどに手は震えていた。気付けば雪もちらちらと振っおり、寒さがより一層強く感じる。だが…


 「どうして…こんなに…」


 彼はどうしてこんなに力になってくれるのだろう。どうして自分のことのようにこんなにも必死になってくれるのだろう。私自身が諦めてしまったことをどうして彼は諦めずに探してくれたのだろう。感謝の気持ちがあふれ、心がいっぱいになってしまう。彼が傍で私が結果を見るのを本当に自分のことのように見つめている。嬉しいことなのに、私はそれにこたえることが出来なくなってしまった。


 「私…見られないわ…。もし何か引っかかっているなら事前に連絡があるはず!!…精いっぱいやった!なのに…なのに…不安で堪らないの…」


 もう泣きそうだった。いろんなことが頭の中を駆け巡り、自分自身が維持できなくなるようだった。耐えられない結果だったら、そう思うと本を持つ手から力が抜け、どんどんと冷たくなっていく、そんな感覚だった。夢の行方を見るのが怖くなっていた。


 「大丈夫です。僕が一緒に見ます。連絡だって…」


 そっと彼が私の持った本を一緒に持つ。心の中が少し暖かくなった。ドキドキと心臓が高鳴る。手に力が戻る。手に暖かさが戻る。彼の優しい声が私の凍りかけた心を少しずつ溶かしていくような感覚だった。


 パラパラと本を開く音が鳴る。だが結果を見るのが怖くなってしまい、ついぎゅっと瞼を閉じてしまった。暗闇しかなくなりより一層不安が心を蝕んでいく。本をめくる音がするたびにそれが大きくなり私をつつみ、このまま私がいなくなるような感覚になる。ふと、ページをめくる音が鳴りやむ。それと同時に、、、


 「おめでとうございます。琴塚先輩。」


 はっとなり、開かれたページの受賞作品の中の自分の名前を探す。彼が指差したそこには、佳作、琴塚文江とあった。
 さきほどまであった不安が一気に消え失せ、不安から解放され安心しきってしまった。力が抜けしゃがみこんでしまい、つい涙がこぼれる。


 「あ…ありがとう…っ…」


 お礼だけは何とかいうことができた。だが限界で思いっきり泣いてしまった。こんなに全力でうれし泣きをしたのはいつぶりだろう。そっとハンカチを差し出してくれた彼の手を取り、ありがとう、本当にありがとう、とただただ感謝を伝えた。

 「本当におめでとうございます。琴塚先輩。」


 それからしばらく泣いていた。だが、心のなかはすっきりと晴れ渡り、それと呼応するかのように雪も降りやみ、星空が広がり始めていた。






 「……ふぅ。」

 「落ち着きましたか??」


 缶コーヒーを差し出しながら、彼が問う。つい自然に飲み物を受け取ろうとしたことにあせってお金を払おうとするが、遠慮されてしまった。まったくもって気の利く彼にまた感謝してしまう。飲み物の暖かさが本当に彼の暖かさとかぶり嬉しかった。これであとは受験の結果だけを心配する普通の受験生に戻れた。なんだか不思議な感じで笑ってしまった。


 「本当にありがとう…あなたがいてくれなかったら…私はきっとここまで来れなかった。」

作品名:同じ夢を持つあなたと 作家名:はるかす