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りんはるちゃんアラビアンパロ

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余話・情熱と冷静の戦い



リンは宮殿内を歩いていた。
まだ安息の夜が訪れる気配すら感じない熱い時刻、王としての仕事がひとまず終わり、泳ぎたくなって宮殿内にあるプールに向かおうとしていた。
けれども。
「王様!」
背後から若い女性の声がした。
リンは足を止め、ふり返る。
宮女がふたり、早足で近づいてきていた。
ふたりはリンに笑顔を向けて立ち止まる。
「このあと少し時間をいただけませんでしょうか?」
「ああ、別に構わねぇが、なんかあるのか?」
「見ていただきたいものがございます」
「なんだ?」
「それは見てからのお楽しみということで」
宮女ふたりはおたがいの顔を見て、ふふっと笑う。
よくわからない状況である。しかし、眼のまえにいるふたりは純粋に楽しそうで、悪いことをたくらんでいる感じは一切しない。
泳ぎたい気持ちは強いが、絶対に今、というほどでもない。
だから、リンは軽くうなずいて見せた。
それを了承と受け止めた宮女ふたりはくるりと踵を返した。それから、弾むような足取りで歩く。
リンは彼女たちのあとをついていく。
見せたいもの。
見てからのお楽しみ。
それはなんだろうかと考えてみたが、正解らしきものがリンの頭にさっぱり浮かんでこなかった。
宮女たちが先導して行った先は、後宮だ。
後宮は、リンの私室などがある、王とその家族のプライベートな場所である。
王妃や妾が暮らす場所であったりもするのだが、現在のリンには妃も妾もいないので、この後宮ではリン以外は祖母と母と妹が暮らしているだけだ。
リンは宮女ふたりに続いて後宮の大広間に足を踏み入れた。
大広間には宮女がたくさんいた。
彼女たちのまわりには衣装やアクセサリーや化粧道具が置かれている。
そして、その彼女たちに取り囲まれて、ハルカが立っている。
いつもは地味な色の衣装を着て、装飾品もあまり身につけないハルカが、今は華やかな衣装を身にまとっている。
化粧もしているようで、もともと顔立ちが整っているのが際だって見える。
ハルカはいつもの無表情だ。
しかし、リンが来たのに気づいて、ハルカが向けた眼が訴えている。
助けろ、と。
リンは状況を理解した。
たぶんハルカはプール目的でこの宮殿にやってきたのが、宮女たちにつかまり、後宮に連れてこられて着せ替え人形にされてしまったのだろう。
リンがハルカにオアシスで出会う以前、宮女たちが後宮にお妃様がいないのはさびしいとこぼすのを聞かされたことがある。
そして、ハルカがリンの想われ人であることが宮殿内で知られるようになってから、婚礼衣装をどうしましょうかと、宮女たちがものすごく浮き浮きした様子で聞いてきたこともあった。
あのときは、まだ早い、とリンは答えたのだが……。
女たちは他人を着飾らせるのも楽しいらしい。
「いかがでしょう?」
「とてもお似合いで、いつも以上にお美しいとお思いになりませんか?」
「お気に召していただけましたでしょうか?」
宮女たちは皆、わくわくした様子で、期待する眼差しをリンに集中させている。
彼女たちの高揚した気分が身体の外へ熱気となって放たれて、それが自分のほうへと押し寄せてくるのを感じ、リンは退いてしまいそうになった。
だが、リンは王としての堂々とした態度を崩さずにいる。
どう対応するか少し考えてから、口を開く。
「気に入った」
宮女たちのあいだから、わあっと歓声があがった。その顔はさっきよりも輝いている。
リンは足を進め、ハルカのそばまで行った。
「だから、もらっていく」
そう告げると同時に、リンはハルカのほうに手をのばした。
ハルカを荷物のように肩にかつぎあげる。リンは身体をきたえあげているので、軽々と、だ。
また宮女たちから歓声があがった。
彼女たちに構わず、リンはハルカをかついだまま踵を返し、歩く。
「王様、がんばってくださいませー」
「私たち、応援しております」
謎の声援を背に受けながら、リンは大広間をあとにした。
リンは自分の私室に行った。
部屋に入ると、リンはハルカを床へとおろした。
ハルカはあいかわらずの無表情である。
「……プールで泳ぎに来ただけなのに、大変なめに合った」
ボソッとハルカが言った。
やっぱりプール目的で宮殿に来たのかと思いながら、リンは言う。
「断れば良かっただろ」
「ちゃんと断った。だが、聞いてもらえなかった」
「……まあ、無理ねぇかもな」
彼女たちは待ちに待ったお妃候補があらわれて舞いあがっている状態で、よほど厳しく断らない限り通じないだろうし、あの熱気には逆らえないだろう。
「女相手に手をあげるわけにもいかないし」
「おい、男相手なら手をあげてもぜんぜん構わねぇみてぇなこと言ってんじゃねぇよ」
「ダメなのか?」
「ダメだ」
「じゃあ、男が、俺が断っているのにもかかわらず服を着替えさせようとしたら?」
「ブン殴れ。蹴り倒して顔面を踏みつけても良し」
きっぱりと告げたリンに対し、ハルカはわかったというふうにうなずいた。
そんなハルカをリンは改めてじっと見る。
そして、言う。
「綺麗だな」
「ああ、綺麗な衣装だな。かなりの値段のものだろう」
「衣装のことじゃねーよ。おまえのことだ」
本心から言ったことである。
華やかな衣装も、きらびやかな装飾品も、引き立て役にしかすぎないほど、今のハルカは綺麗だ。
もっとも、リンがハルカを一番綺麗だと思うのは泳いでいるときなのだが。
ハルカは無表情のままだ。
しかし。
「!」
リンは腹部に拳が襲ってくるのを感じた。
「なんで褒めてんのに暴力ふるわれなきゃならねぇんだ!?」
「おまえ防御しただろう。たいして痛くなかったはずだ」
「とっさにしだけだ! だから、それなりに痛かったし、俺が対応できてなけりゃ被害甚大だったぞ!」
「大げさだな」
素っ気なく言うと、ハルカは踵を返した。
リンに背中を向けて歩きだす。
向かう先には部屋の出入り口がある。
部屋から出て本来の目的であるプールに行くつもりなのだろう。
リンは動く。
「おい」
そう呼びかけ、ハルカの肩をつかんだ。
ハルカが立ち止まった。
ふり返り、なんだ、という眼をリンのほうに向ける。
次の瞬間、さらにリンは動く。
ハルカを完全に自分のほうを向かせたうえで、近くの壁へと押しつける。
部屋の壁とハルカの背中がぶつかった。
さすがにハルカは驚いた表情をしている。
そのハルカの顔を見て、リンはニヤと笑う。
「さっきのは照れ隠しだろ?」
至近距離から問いかけた。
ハルカの瞳が揺れた。
リンは続ける。
「俺に綺麗だって言われて、照れくさかったんだろ?」
「ちがっ」
違う、とハルカは否定したかったのだろう。
けれども、最後まで言わせず、リンはハルカの口をふさいだ。
紅をさされていつもよりも艶めいたハルカの唇に、自分のそれを重ねた。
ハルカの身体が緊張で硬くなったのを感じる。
でも。
王妃になるのは断っても、キスをするのはもう断らない。
最初のキスは自分が無理矢理奪って、結果、腹に強烈な蹴りを食らわされた。
イヤなら相手が王であろうが攻撃してくる。それがハルカだ。
だが、今、攻撃どころか避けようとすらしない。
ハルカはいつも無表情でなにを考えているのかわかりづらいが、イヤじゃないということだろう。