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りんはるちゃんアラビアンパロ

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さて、どうなる?



リンの言ったのはハルカを王宮につれてくるための嘘ではなかった。
本当に王宮には広いプールがある。
リンの父である前王の作ったものだ。
リンの水泳バカの血は父から引き継いだものである。
そして、この国をもっと豊かにしたいという夢も引き継いだ。
リンが王宮内に広いプールがあるにもかかわらずオアシスを目指したのは、夢を引き継ぐのに疲れたのではなく、単純に、ほんのつかのま国王という地位を離れて自由に泳ぎたかったからである。
いつも泳いでいるプールだと、いつもと変わらない。
しかし、ハルカにとっては初めての場所である。
表情にとぼしいハルカだが、プールを眼のまえにして喜んでいるのは伝わってくる。
ハルカはリンを見た。
いちおう許可を得たいようだ。
リンはハルカにうなずいて見せる。
すると、ハルカは無表情のまま、けれども弾むような足取りでプールのほうへ歩いていく。
ハルカはなんのためらいもなく着ているものを脱ぎ捨てていく。
あっというまにオアシスでリンに会ったときと同じ下着姿になった。
……あのときは気にならなかったが、よく考えてみれば無防備すぎねぇか?
よく考えてみなくても無防備すぎるのだが、水泳バカのリンはようやく気づいた。
ああいうことを自分以外の男のまえでさせたくない。
そんなふうにリンが思っていると、ハルカがさっそくプールに飛びこんだ。
そして、泳ぎ始める。
気持ちよさそうだ。
その姿を見て、リンの身体はうずうずした。
水泳バカの血がさわぎだした。
俺も泳ぎてぇ……!
強い欲求に押されるままリンはプールへと歩きだす。
さっきのハルカ同様、なんのためらいもなく着ているものを脱ぎ捨て、下着姿になる。
プールへと飛びこむ。
水の感触。
心が、身体が、喜ぶのを感じる。
リンは泳ぐ。
同じ水の中でハルカも泳いでいる。
あのオアシスの泉で泳いでいたときと同じ、綺麗な泳ぎだ。
しなやかな手足の動き。
ハルカは女性としても大柄なほうではないが、その身体がきたえられているのが見ていてわかる。
ほどよく筋肉がついた引き締まったいい身体をしている。
それがあの綺麗な泳ぎを生んでいるのだろう。
リンは笑った。
妙に嬉しかった。
そして、泳ぐ速度をあげる。
ハルカに近づいていく。
すると、ハルカも泳ぐ速度をあげた。
だからリンはもっと泳ぐ速度をあげる。
ハルカを追いかける。
けれどもハルカの泳ぎは綺麗なだけではなく速い。
なかなか追いつかない。
楽しい、とリンは感じる。
ハルカと泳いでいて、楽しい。
胸が躍る。
リンはきたえてきた脚で力強く水を蹴る。
泳ぐことが好きで、速く泳げるようになりたくて、時間があるとこのプールで泳いだし、陸上で走って脚力をつけるようにもしている。
やがて、リンはハルカに追いついた。
ハルカがその眼をリンへと向けた。
水中で眼が合う。
その瞬間。
ハルカの静かな瞳が、リンの胸に焼きついた。
これまでは単純に泳ぐのを楽しんでいた。
しかし、たった今、新たな欲望が自分の中に生まれた。
触れたいと思う。
あの身体に触れたい。
リンは腕を伸ばした。
触れる。
つかまえる。
ハルカは驚いた様子だ。
抵抗し、自分をつかまえているリンから逃れようとする。
だが、リンはハルカの身体をしっかりつかんで逃さない。
おたがいの顔が水から出た。
ハッとハルカは大きく息を吐き出して、即座に息を吸う。
リンも迅速に呼吸し、直後、たくましい腕でハルカを水の中へ沈める。
ハルカがあらがう。
その顔が近くにある。
触れたいと思う。
その唇に触れたい。
リンはとらえているハルカの顔に自分の顔を近づける。
ハルカの唇に、自分のそれを重ねた。
やわらかな感触。
胸が躍った。
もっと触れたい。
もっと欲しい。
欲望は増えるばかりだ。
ハルカが暴れる。
リンの身体を押しのけようとする。
この状態では、さすがにリンも息が苦しくなってくる。
ハルカに突き放された。
また、お互いの顔が水から出た。
しかし、リンにはまだ余裕があるのに対し、ハルカは無理矢理キスをされて暴れたせいか荒い息をしている。
リンはハルカに近づいていく。
けれどもハルカはそれに気づき、リンのいるのと反対方向に泳いで逃げていく。
やがて、ハルカはプールの端まで泳ぎ着いた。
リンはそれを追う。
ハルカがプールサイドにあがった。
苦しそうな様子だ。
プールサイドに手のひらをつき、ゴホゴホッとむせている。
リンもプールサイドにあがった。
ハルカをとらえた。
その身体を強引にひっくり返す。
ハルカはプールサイドに背をつけ、あおむけで横たわる形になる。
戸惑う瞳がリンを見あげている。
リンはその顔をじっと見る。
そして、告げる。
「俺の妻になれ」
そのあと、ハルカのほうへと上半身を落としていく。
また唇を重ねようとした。
だが。
腹に強烈な痛みを感じた。
「ッ!」
リンはある程度こらえたものの、身体がわずかに後方へと飛ばされた。
プールサイドに尻をつく。
腹を蹴られたのだ。
あのしなやかな足で。
おそらく武術を身につけているのだろう、良い蹴りだった。
ハルカが立ちあがった。
もう呼吸は乱れていないようだ。
リンに背を向けて、歩きだす。
そのハルカの背中にリンは声をかける。
「おい! ここは普通、平手打ちとか、厳しくて、拳で殴るとかだろ! 腹を蹴らねぇだろ!」
文句を言った。
ハルカが足を止めた。
それからリンを振り返る。
その口が開かれる。
「いきなり襲ってくるヤツは腹を蹴られて当然だ」
きっぱりと言うと、ハルカはふたたびリンに背を向けた。
ハルカが去っていく。
それをリンは追おうとはせずに、プールサイドに座ったままでいる。
やがてハルカの姿が見えなくなった。
リンの腹はまだ少し痛い。
「……すげぇ女」
ひとりになって、リンはつぶやいた。
自分の中に残っているのは、蹴られた腹の痛みだけではない。
無理矢理に重ねた唇の感触。
胸に焼きついている、こちらに向けられた静かな瞳。
それから、あの綺麗な泳ぎが頭によみがえった。
リンは立ちあがった。
今は追いかけない。
だが、あきらめるつもりはない。