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君と過ごす何気ない日常

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猫ジャラし





 猫じゃらしを持って帰ってきた。
 それはもう沢山。腕一杯。燃やしたくなる衝動に襲われるくらいに。
 でもキラキラした目で僕を見るから頬を引き攣らせながらにも「わ、わぁ凄いね」と返すしかなくて、返してもらえた彼はそれはもう嬉しかったのだろう破顔してみせた後ぶんぶんと首を縦に振るから・・・ああほら、いくつか葉が飛んだ。毛も飛んだ。ああ、畳がとんでもない事に。
 掃除が大変なんだけど、と怒るべきなのかどうするべきなのか物凄く悩んだ結果僕は、滲み出る不満を必死に抑えつつ庭もしくは縁側に持っていくよう低く、告げた。
 怒らなかっただけマシ。辛うじてでも何でも笑みを浮かばせていられただけマシ。
 胸の内で自分を褒めている僕に気づいているのかいないのか分からないけれど彼は素直にそれらの束を縁側へと持って行った。
 日干しにでもするのかと突っ込みたくなるくらいに丁寧に、広げ並べる彼。時折聞こえる鼻歌に、たいそう機嫌がいいのだと知る。いったいどこで何をしてきたんだか。
 揺れる背中にクスリと笑い、すぐ後ろへとしゃがみ込むと並ぶ猫じゃらしのうち一本を手に取り、彼の前に。キョトリとする彼の目の前でユーラユラと揺らせば反射のように右手を持ち上げる彼。その指が猫じゃらしに触れかけた所でヒョイと引っ込める。消えた目標にパチパチと数度、瞬きを繰り返した彼は次いで、僕を振り返り見た。その不満げな顔と言ったら。
 笑えたから、もう一度。
 彼の前に猫じゃらしをひょいと翳す。追うような目線が笑いを誘うが今はまだ我慢。ふよふよと漂わせれば今度こそ捕まえてやると言う意気込みの元彼の目が鋭く細められ、右手が真っ直ぐに僕の手首を狙い伸ばされた。
 でもね、そんなに簡単には捕まってやらないよ。

「はい残念でしたー」

 僕だって別に、鈍いわけじゃないしね。これくらいなら、余裕と言えなくても辛うじて、逃げられるさ。
 悔しがる君の、恨めし気な目を受け止めながら僕はこういってやるのだ。

「さ、もう一度、チャレンジしてみる?」

 答えは、彼だけの中に。

2013/10

作品名:君と過ごす何気ない日常 作家名:とまる