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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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鳥になる



古代は〈ゼロ〉を、オレンジ色に霞むタイタンの大気の中を飛ばしていった。〈ゼロ〉の主翼が密度の高い窒素とメタンの空気を掴み、ごく小さな重力のもとで機を高く上昇させる。高く。高く。もやが青みを帯び始め、その向こうに輝く星々を覗かせる。そして土星。弓に矢を掛けたような三日月に輪の――その近くにひときわ明るく輝く点が見えるのはエンケラドゥスか。

下降に入った。今はミサイルも何も持たない〈ゼロ〉をタイタンの空で飛ばすのは、まさに鳥の気分だった。子供の頃に三浦の海岸で空を仰ぐと、いつもトンビが空を舞っていたものだ。おれは今、あのトンビになっていると思った。操縦桿を動かすと、補助翼が空気を受けてクルクルと機をロールさせる。〈がんもどき〉では味わえない空を支配する感覚。〈ゼロ〉はまさしく猛禽(もうきん)だった。空を舞い、獲物を見つけ、そして素早く襲いかかる。ただそのために造られた機体だ。

それが戦闘攻撃機という乗り物だった。しかし――と思う。おれにこいつで闘うなんてできるんだろうか。こうしてただ、宙を飛ばすぶんにはいい。こいつは最高のシロモノだ。だが、目の前の照準器。各種の火器管制装置。レーダーその他の走査装置。これらを駆使して、敵と闘えと言われても。

その相手が、地球人類を滅ぼしに来たエイリアンだと言われても。

やつらは三浦の半島を奪い、それどころか海まで涸らし、父さんと母さんを殺したのだ。そして兄貴も、一年ほど前どこかの海戦で死んだらしい。みんなやつらがそうしたのだ。だから憎むべきなのだ。と思えばその通りのはずではあるが、しかしどうにも……。

ガミラスか。いぜん、正体はまったく不明。地球人が外宇宙へ出るのを恐れてやって来たなんて話も聞くが、それも本当かはわからない。いつかやつらを追い払える、それどころかきっと逆襲してやれると思いたいだけの人間が、そう言ってるだけじゃないのか。

世の中にはガミラスは神の使いだなんて言う者もいる。狂っているとは思うが、しかし、意外と事実に近いことさえ有り得るんじゃないか。地球人類は抹殺すべきものであると、宇宙のあらゆる文明を持つ星の連合から裁定された。だから悪いが滅んでくれと言われたら、どうする。逆らってどうかなるか。

こんな話は〈ヤマト〉の中で言ったらそれこそ村八分だろう。あの森とかいう女士官の顔を思い浮かべてみる。地球を救う。子供を救う。その使命にただ一心という顔だ。『ガミラス教徒の言うことがほんとだったらどうします』と特にあんなのに言った日には、吊るし上げ食うに違いない。おれを見る眼が言ってるもんな。戦闘機を操れるなら、なぜ今まで闘わなかった。そんなに命が惜しいのか。いま撃墜されて死ぬか、十年後に放射能で死ぬかのどちらかならば、戦って死ぬべきとは思わないのか。情けない。それでも男なのか、と。

命が惜しい――まあ、惜しくないと言えば嘘にもなるだろうが、実のところどうなんだろう。自分でもよくわからなかった。死ぬのはイヤだ。怖いと思う。特にこんなタイタンのようなメタンガスのもやの中で、マイナス180度の硬い氷の固まりになって、未来永劫そのままなんて。ひょっとしたら死体が残り続ける限り、魂だって土星を巡るこの星のように近くをグルグルしているしかないかもしれないじゃないか。それは無間(むけん)地獄だろう。

ガミラス人は死ねば瞬時に焼かれてしまう。だから死体が残らない。それは非情なのではなく、情けなのかもしれないと思った。そう言えばあの〈女〉――サーシャとかいう異星人と聞いたが、ガミラス人もことによると地球人と似てるのだろうか。おれはあの〈彼女〉の死体、あっためて運ぶわけにもいくまいと思って貨物キャビンのヒーターは入れず、地球に着いた頃には凍らせてしまっていたが。

〈彼女〉は自分の星でもない地球のためにあのカプセルを守って死んだ。そしてこの〈ゼロ〉に本当に乗るはずだった男もまた、同じようにカプセルを守って――同じ状況に置かれたら、おれも同じ行動を取るのか? その物には地球の運命が懸かっている、おれの命と引き換えても守らなければならないと知れば……わからない。まるで想像ができない。

タイタンの地表が近づく。機体を水平にして、低空飛行に入った。〈ゼロ〉はタイタンの広大な砂丘地帯に入っていた。

砂の丘をひとつ越えると、その向こうにまた砂の丘。それを越えるとまた砂の丘。地球の砂漠と同様に、風紋の刻まれた地が果てしなく続く。

タイタンはその昔から、地球に最も似た星だと呼ばれてきた。

その通りなのかもしれない。この光景は海が干上がり全土が砂漠と化してしまった今の地球そのものだ。このオレンジのもやにしても、黄砂(こうさ)を吹き上げる中国辺りの空と、おそらく――。

そう思ったときだった。〈がんもどき〉よりはるかに優れたレーダーが大きな金属反応を捉えた。

なんだろう、と思う。こんなことが前にもあったな。まあ金属反応と言えば、さっきコスモナイトの鉱床に近づいたときにもあったが。

それとは違う。これはちょうど――そうだ、あのときだと思った。地球で、あの沈没船の〈大和〉に近づいたときだ。古代は機をめぐらしてみた。上昇させる。視界はもやに隠れて悪く、遠く見通すことはできない。

しかし、〈ゼロ〉のレーダーは優秀だった。速やかにデータを解析し、ディスプレイに捉えたものの輪郭を映す。

「これは……」と古代は言った。「船だ」